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世界の正しさ

この世界は、正しい。


少なくとも、多くの人間はそう信じている。


資源は有限で、

感情は非効率で、

不要なものを切り捨てる判断は、

「賢明」と呼ばれる。


無色個体が生まれたのは、

その賢明さの副産物だった。


色――すなわち個性、感情、自己認識。

それらを持たない存在を作り出すことで、

争いも、苦しみも、無駄な選択も減らせる。


そういう理屈だ。


「名前は、責任を生むからね」


会議室で、誰かがそう言った。


「名前を与えた瞬間、

その存在を守らなければならなくなる」


「無色であれば、切り捨てられる」


「だから世界は、回る」


誰も悪意を持っていない。

それが、いちばん残酷だった。


ルミナは、資料をめくりながら黙っていた。


無色個体の処遇について、

次の段階へ進むという話だった。


――観測終了後、回収。


言葉は穏やかだ。

実態は、消去に近い。


「異論は?」


司会者の声が響く。


一瞬、沈黙が落ちる。


ルミナの喉が、ひくりと動いた。


異論はある。

言いたいことも、山ほどある。


けれど、それを言語化した瞬間、

自分はここにいられなくなる。


世界は、正しさを疑う者を嫌う。


「……ありません」


結局、そう答えてしまう。


会議は、滞りなく進む。


正しい判断。

合理的な結論。


ルミナは、

会議室を出たあと、しばらく動けなかった。


――この世界は、正しい。


それなのに。


白い部屋にいる、

名前のない少女の顔が、

頭から離れない。


カイルは、警備記録を確認していた。


無色個体との接触ログ。


「……」


そこに、自分の名前が残っている。


規定違反。


まだ、軽微な段階。

でも、この先は――


彼は、そっと記録を閉じた。


正しい世界は、

間違える者を許さない。


だから。


正しさの外に出た瞬間、

人は“排除対象”になる。


無色個体だけじゃない。


彼女に触れた者もまた、

同じ運命を辿る。


そのことを、

ルミナも、カイルも、

まだ正確には知らなかった。

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