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浮気者の婚約者には報復を  作者: 仲室日月奈


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5/8

浮気者の婚約者には報復を

「……ッ……!」


 エフモントは限界まで目を見開き、声にならない叫びを発した。否定したくともできないのは、心当たりがあるのだろう。

 アナベルは小さく息をつく。一度、目を伏せてから狼狽する男に視線を合わす。


「いくつかは残しているでしょう。ですが、大半は売り払ったのではありません? 売らなければならない理由があるのですから」

「ふざけるな。伯爵夫人になるからこそ、代々受け継がれた家宝のジュエリーも贈ったのだぞ。それを売っただと? 正気の沙汰とは思えない」


 ヘンリエッテは両手を重ね合わせて小さく震えている。


(自分のしでかしたことを後悔している? そんなわけないわ。きっと今、目まぐるしく考えているのでしょう。この状況を打破する一発逆転の手を)


 反論しないところを見るに、か弱い女のふりを続けるつもりだろう。

 沈黙を選ぶというなら、そこで黙って見ていればいい。


「信じられない、そう思われるのは無理はありません。ですが、騙された方々は皆、同じことを言うのですよ。自分は人を見る目はある。だから騙されるわけはない、と」

「…………」

「恋は盲目という言葉がありますけれど、安っぽい愛と引き換えに自分の人生をドブに捨てるなど、愚行もいいところです。あなたは、わたくしの夫になるにはふさわしくない。婚約を白紙に戻せて幸いでしたわ」


 ピリオドは自分で打つ。

 婚約者に捨てられる哀れな役はアナベルではない。エフモントだ。

 会場中の批判の視線が、渦中の二人に注がれる。アナベルの悪女の噂が霞むほどの、とんだスキャンダルなのだから当然の反応だ。

 彼らはもう貴族として生きていくことはできないだろう。


(ここは乙女ゲームの舞台だけど、セーブやロードといった概念はない。モブにもすべて名前があるし、わたくしもヘンリエッテもプレイヤーではない)


 一度選んだ道を戻ることはできない。

 ゲームの住人になった時点で、ここは現実なのだ。

 だがヘンリエッテはまだやり直しができると信じているように、エフモントの上着の袖をつかんだ。水色の瞳に大粒の涙をためて。


「え、エフモント様。私を信じてくれますよね? どんな障害が訪れようとも二人の愛が引き裂かれることはない、私だけを愛し抜くと誓ってくれたのですから」

「バカを言うな! 借金まみれの女など用はない!」

「ひっ、ひどいです。あれほど贈り物をしたのに! すべて喜んで受け取ってくれたじゃないですか。こんな簡単に私を捨てるというんですか!?」


 ありえないです、とヘンリエッテが涙ながらに訴える。

 しかし、エフモントは羽虫を払うような仕草で、絡みつく彼女の腕を強引にほどいた。


「何を言っている。結局、伯爵家の資産を食い潰すつもりだったんじゃないか。被害者はオレのほうだ。なんて女だ。人間不信になりそうだ」

「……そ、そこまで言いますか? 私、エフモント様にずっと尽くしてきたんですよ!」

「じゃあ聞くが、お前のどこを愛せと言うんだ!?」

「すべてを愛してください。簡単でしょう。だって、先週プロポーズをしてくれたじゃないですか。今さらなかったことになんてできませんよ」


 あまりにも自分本位の発言だ。呆れて言葉が出てこない。成りゆきを見守る貴族たちも眉を寄せている。

 アナベルが逆の立場であっても、ヘンリエッテに別れを告げただろう。

 良識ある貴族なら、実家を没落に追い込む女と結婚するはずがない。あの女の執念は異常だ。家を守る女主人ではなく、不和の種をばらまく悪女のほうが向いている。


(……あれほどヘンリエッテに群れていた男たちも、今は遠巻きに見ているだけだもの。金遣いが荒い女だと知れ渡ったし、皆の目も覚めたでしょう。悪徳高利貸しに目をつけられた以上、彼女はお金を搾り取られる未来から逃れられないでしょうし)


 どちらも身から出た錆だ。遠からず破滅しただろうが、アナベルはそれを少し早めただけだ。あとのことは自分たちでどうにかするしかない。


「積もるお話はお二人でなさってくださいませ。婚約解消の書面は、後日代理人を通して運ばせます。もう二度と顔を見ることもないでしょう。どうぞお幸せに」

「まっ、待て! 待ってくれ。まだ話は終わっていない!」


 すがりつくように伸ばされた腕を、兄が笑顔ではたき落とす。


(い、いつの間に……。お兄様は気配を隠して近づくのが得意だから、身内でもたまに驚く羽目になるのよね)


 アナベルは踵を返す。

 後ろで自分の名をみっともなく呼ぶ声が聞こえたが、もう足を止めることはない。


(……破滅の道を選んだのはあなたでしょうに)


 今さら手のひらを返して媚びを売ったところで、何もかも遅い。兄も相当腹に据えかねているが、父や母も同様だ。いくら言葉を飾ったとしても無意味だ。

 娘を侮辱されたと憤慨していた両親は、政略結婚でありながら、今もなお初々しく愛を伝え合う仲だ。そんな二人が不誠実な行いをした男を家に上げるはずがない。


 浮気者の婚約者には報復を。好き勝手やってくれた転生者には制裁を。

ブクマ、★5評価、リアクション、すべて励みになっています。ありがとうございます……!

残り三話、お付き合いいただけますと幸いです。

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「ループ8回目ですが、わたくしは悪役令嬢であって魔女ではありません!」


(イラスト:雨月ユキ様)
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