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赤髪のイケメンが黒髪のモブになり替わり、国の英雄を殺す物語  作者: 焼肉一番


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第6話 簡単な仕事

「はい、じゃあ次~……」


 ザカエラの質問に、俺は自分の事とは違う答えを返し続けた。

 ここに来るまでに何度も何度も頭に叩き込んだ、ある青年のこれまでの人生だ。

 そうしていくつの質問に答えた頃だろうか、あ……とザカエラが何かに気付くと……。


「大丈夫な様やね」


 微笑みながらそう言って会話を終了したのだった。


「そう言ったろ」


 それを合図と取った俺は立ち上がり、速やかに唯一の出入り口である扉の真横へ移動して息を殺す。ザカエラの方は椅子に座ったまま、間もなく開かれるその扉をただ見ていた。


 キィ……。


 安っぽい音を立てて扉が開かれる。


「おかえりなさい、アッシュ君」


「えっ?」


 俯き加減で入って来たアシュバルト・アレン……アッシュは、誰も居ないはずの我が家から聞こえてきた声に驚き、ハッと顔を上げる。

 そこにはニコニコと微笑む見た事もない少女。


「だ……うあっ……っっ!」


 誰? と言う短い言葉は発せられる事はなかった。

 その代わりに漏れたアッシュの小さな悲鳴さえも、俺が背後から腕を回して抑え付ける。その腕をどうにかどかそうともがいている様だが……こいつ、本気か?


 圧倒的な筋力の差がある様なのは明確だが、本気で抵抗している様に感じない。この状況に置いて何を遠慮してるんだか。

 中途半端な抵抗のアッシュの左腕を、俺は遠慮なしに背中に捻り上げる。


「まぁまぁ、そう手荒にする事もなか」


 これからする事は手荒ではないと言うのか。

 どこかヘラヘラとザカエラがそう言いながら近付き、開けたままになっていた扉をそっと閉めた。そして改めてアッシュに向き直りジロジロと上から下まで眺め回す。


「ああ、分かってはいたけど地味やねぇ。特に欠点もなく磨けば光りそうな素材ではある……ばってん、言うてしまえば今はな~んも光っちおらん」 


 ザカエラの言う通り、アッシュは極めて地味な奴だった。

 中肉中背。平凡な黒髪。特に何のこだわりもなさそうな服装。その人の良さそうな垂れ目気味の瞳は、俺と同じブルー系だがとても穏やかなブルーだ。


 何も光っていない、などと容姿を馬鹿にされたアッシュだが、それに腹を立てる様な余裕はないだろう。

 目の前の得体の知れない少女、それと自分を羽交い絞めにする何者か、俺達の目的がさっぱり分からないんだからな。


「お陰で簡単ばい。……じゃあ、よろしゅうね」


 ザカエラが軽く両手を広げる。すると、ザカエラの背後からふわりと霧が広がって来た。


「……?!」


 すぐに精霊だと理解したであろうアッシュはその霧に俺ごと包まれる。

 目の前が真っ白になるほどの濃霧だ。

 だが……ただ、それだけだ。痛くもなければ痒くもない。

 痛くないとは言え、このままこの霧の中に居続けて良いものとも思えなかったのだろう。

 ただの目隠しならばわざわざ精霊を呼び出す事もないわけだからな。


「んっ! んっ! んんんっ!」


 眠らされるのか、いや、このまま緩やかに死んでいくのか、恐怖に駆られたんだろう。

 さすがにさっきまでとは違ってアッシュは大いに暴れた。暴れたが、やっぱりこいつを抑え付けるくらい、俺には簡単だった。


「よかよ」


 霧の向こうからザカエラの声が聞こえて、俺はおもむろにアッシュの拘束を解く。


「うわあっ!」


 急に自由になった体をコントロール出来ずにアッシュは前のめりに倒れた様だ。本当にどんくさい奴。


「おっと大丈夫? うふふ、ほら見てごらん。あんたの顔がシンプルやったから過去最速で仕事が終わったっちゃ」


「し……仕事……?」


 徐々に霧が晴れる。二人の輪郭が浮かんで来た。そこには倒れ込んだところをザカエラに支えられ、こちらを見る様促されたアッシュの間抜けな顔があった。

 先程まで自分を羽交い絞めにしていた人物が一体どんな奴なんだと目を凝らしているのだろう。


「え? え……な……なん……」


 そこに現れた俺を見て、アッシュは言葉を失った。無理もない。そこに立っていたのは紛れもなく……。


「ぼ……僕?!」


 なかなか良いリアクションだ。


「悪いな、今日から俺が、アシュバルト・アレンだ」

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