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赤髪のイケメンが黒髪のモブになり替わり、国の英雄を殺す物語  作者: 焼肉一番


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第4話 ザカエラ

絶対に振り返らない、そう決めて歩き続ける。 


 そうしてリロが見えなくなる所まで歩いた頃だったと思う。

 この夢の余韻を自分でどうにか断ち切らねばならないと眉間に皺を寄せたところで、第三者にばっさりと断ち切られた。


「ずいぶん楽しそうやったね、マサキ」


 姿は見えない。

 しかし、この聞き覚えのある声に俺はみっともなくビクリと肩を震わせた。


 くそ……。見られてたのか……。


「……ザカエラか……お国の言葉、フィーゼント訛りが出てるぞ、気を付けろ」


 苛立った俺は髪をくしゃりとかき上げながら、それでも精いっぱいの憎まれ口を声がする方へ投げた。


「気ば付けるんはそっちやろう。そん姿でこん街ん住人にあげなに接触して」


 想像通りのお小言を引っさげ、声の主は建物と建物の間から姿を現した。

 少女だ。まだ幼い。見た目は十を少し過ぎたくらいであろうか。美しい真っ直ぐな黒髪を持っており、その分厚い前髪はパッツンと眉毛のあたりで切り揃えていた。

 髪と同様の色をした瞳は、小さな鼻と口に不釣り合いな程に大きく、誰が見ても美少女で間違いはない筈だが、ある事情を知っている俺は彼女を可愛いとは思わない。いや、思えないのだった。


「仕方ないだろう、なりゆきで……」


 どうにか、なんて事はないと言う態度を取るが、実際俺もまずい事をしたとは思っている。


「嘘やね。あん子が可愛かったからばい。ちょっとビックリするくらい可愛かった」


「だったら許せよ、男心だ」


「だからって付き合う約束までする事なかやろ!」


「それは遊び心だ」


 さすがのザカエラも俺のとんでもない言い訳に目を丸くしたが、次の瞬間に吹き出した。


「…………ふはっ! あはははは!」


 変な意地を張って、あくまで強気な態度を貫く俺。そんな俺をザカエラが笑って許してくれた様だ。呆れて、と言った方が近いか。


「あんたに男心も遊び心もあったとは驚いたばい。いや、あってもおかしくはなかけど実践する様なタイプだとは思っちなかった。とりあえずは許しちゃーけど……あんまし深入りせんでよね」


 ザカエラの笑顔が消えた。これ以上は冗談では済まされないのだと眼力で押し付けられる。


「分かっとうよ……ああ、いや、分かってる」


 思わず言葉が乱れた俺に、ザカエラが少し笑ってからこう続けた。


「悪ふざけはほんなごとここまでちゃ。あん子の褒めてくれた赤毛も今夜でお別ればい? 覚悟は出来とう?」


「今更」


「……はぁ、うちの方が少し名残惜しか……。サファイアみたいな青い瞳とか、彫刻みたいに通った鼻筋とか細い顎とか。背も高いし二の腕も逞しいし……それでいて年頃の男の子とは思えない綺麗な肌……稀なイケメンなのに」


 ザカエラが大袈裟な事を言いながら俺の顔にベタベタ触って来るのが鬱陶しい。その手を払い除けながら言う。


「思った事ねぇよ」


「ん……まぁ先にその髪に目が行っちゃうからね。美味しい思いは出来なかっただろうさ。さ、行こうか。こっちばい」


 ザカエラはくるりと俺に背を向け歩き出した。

 その小さな背中を追い掛けて歩く。

 ザカエラはああ言ったけど、美味しい思いならついさっきしたさ。もうあれ以上は十分だ。実際に、ただの男心と遊び心が気まぐれを起こしただけなんだから……。


 大通りから離れ、入り組んだ小道をくねくね歩く。

 住宅街なのだろうがそう立派な家はなく、おそらく、どちらかと言うと貧困層の住む区画なのだろうと思われる。それでも、俺の生まれ育った街よりも清潔で豊かだと思う。


 人に見られぬ様、慎重に辺りを確認しながら、俺達は慎ましやかな二階建ての家の中にそっと侵入した。そっと……とは言え侵入経路は、一つしかない扉を開けて、である。

 ワンフロアしかない一階部分には、突き当りに小さな窓が一つあるだけでとても薄暗かった。両サイドには同じ様な質素な家がギリギリに隣接しているので、これがせいいっぱいなのだろう。

 その小さな窓から入る光を、窓際に置かれた鉢植えが気持ち良さそうに浴びて桃色の花を咲かせている。

 中央に置かれた、これまた質素な木製のテーブルと椅子。その一つに極めて自然にザカエラが腰掛けた。


「そっちさ座ったら?」


「……呑気に座ってて良いのか?」


 まるで自分の家の様に振る舞うザカエラに俺はそう確認した。


「本人は夕方まで帰っち来なかちゃ。ちゃんと今日も剣術道場に行くところをしっかり見たし大丈夫ばい」


 そう言われて、俺はザカエラの向かいの椅子を引っ張り出して座った。

 向かいに座るザカエラは背筋をピンと伸ばして真っ直ぐにこちらを見ている。俺は無意識に小さく溜息を吐き、肘を付いて彼女から顔を背けてしまった。


「らしくもなく緊張しよっと? まだ時間があるし、そいまでにおさらいしておこうかマサキ」

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