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赤髪のイケメンが黒髪のモブになり替わり、国の英雄を殺す物語  作者: 焼肉一番


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第2話 コンプレックス

「……」


 手荒くナンパ男共を撃退した少女はそう唐突に自己紹介をしたのだ。


「俺は……」


 あまりに堂々としていたので思わず返しそうになったが……、いやいやいや何でだよ。何で急に自己紹介なんだよ。


 馬鹿な、と頭を抱えて気付いた。

 俺の大事な黒いフードが、あの巨大水風船によって跳ね上げられていた事に……。

 そしてポタポタと、髪から滴る水が腕を伝った。

 最悪だ。

 つまり、コンプレックスの髪を見られた。


「あなたは、誰? ねぇ私初めて見たの。そんな……真っ赤な髪!」

「……」


 俺の故郷で、この髪色は誇れるものではなかった。

 大昔、悪政で民を苦しめた支配者が赤毛だったとか、赤毛の子供は不幸を呼ぶとか……。

 くだらないその土地特有の言い伝えで、さすがに迫害されるような事はないもののイメージは最悪だ。

 どうやらこの国でもそれは同じらしい。いや、この反応を見るにもっと酷い可能性もある。


 だから悪目立ちしない様に常にフードでこの赤毛を隠していたのに。

 くそ……。勘弁して欲しかったな。


「本当に綺麗……」


「えっ?」


 リルベリー・シャンゼロロ。

 そう名乗った少女は俺の髪を眺め続け、確かにそう言った。綺麗、だと。


「まるで燃える様な情熱的な赤。あ、濡れてるのに燃える様なって言うのはおかしいのかしら!」


「……そうだな。おかしいんじゃないか」


 高鳴る胸を落ち着かせながら俺はひょいと船着き場へ飛び下り、少女を素通りして川岸へと近付いた。

 単純に濡れたままなのが気持ち悪いと言うのと、こいつと距離を取る必要があると思ったからだ。


 コンプレックスの髪を褒めたりするな。ビックリするだろ。


 歩きながらフード付きの上着を脱ぎ、川岸で思いきりそれを絞る。

 上着から大量の水が絞り出されてバチャバチャと川へと戻って行く。

 上着の下には白いタンクトップを着ているだけだ。

 さすがにこれ一枚じゃまだ寒い季節なんだが仕方がない。

 と、少女が川岸へ近付いて来て、おずおずと俺の顔を覗き込んだ。


「あの……ごめん……なさい……私の水の精霊が暴走しちゃって……」


「暴走……?」


 精霊の暴走とは聞きなれない言葉だな。


「うん、あの子は私が困ると私を守ろうとして勝手に色々動いちゃうのよね……」


 精霊を『あの子』と呼んで少女は続けた。


「さっきはね、モンドハッド浪漫譚の第六章を読んでいたところだったのよ」


「ああ……六章か、確かフィオーナ王妃が……」


「やだ待って! 知ってるの?! まだ読んでないんだってば! でもなんか嫌な予感がするのよね……。ねぇ王妃は死んじゃうんじゃないの?!」


「言って良いのか?」


「ダメよ!!」


 昔からある、世界的にド定番の子供向け冒険小説だった。読む機会があって、そこそこ面白かったので覚えている。正直、今更それ読んでやきもきしてるのか? と思ったが、どうやら真剣らしい。

 ちなみに王妃は死なない。と言うか、主人公の愛しいフィオーナ王妃は実は裏切者と言う、子供向けの本としてはなかなかのトラウマ展開なのだが……。


「ああっ! 残酷だわ! フィオーナ王妃!!」


 本を抱き締めて、また涙を一粒空へ浮かせるリルベリー・シャンゼロロ。これも精霊の仕業なのだろう。それにしても実に良い読者だな。


「……で、読書の邪魔をされて困っていたら精霊が勝手に追っ払ったって事か?」

「そう!」


 このままじゃ答えに辿り着かないだろうと思ったので先回りをしてみたが正しかったらしい。


「ユーリはねぇ、きっとリロが愛され過ぎてるからだよって言うんだけど時々本当に困っちゃうの……あ、ユーリって風の子が付いてる私の幼馴染ね!」


「……そしてあんたはリロって事か?」


「そうそう! 私リロ! リルベリー・シャンゼロロ! で、リロ! ねぇあなたは?」


 うむ……。短い会話だったがこれだけで十分だな。

 見た目通りなら十五~六ってとこだが、その歳でモンドハッド浪漫譚を読んでいると言った時点でアレ? と思った。

 たぶんこいつはちょっと……アホなんだろう。

 知らない人に名前を教えちゃダメだってママに言われてるから……とか言っても信じそうだ。


「怒ってるのね……」


 俺がなかなか名乗らなかったのをそう解釈したらしい。

 そう言う事にして立ち去っても良いのだが、次のリロの言葉に戦慄して俺は動けなくなった。


「そうだ! 私の火の精霊の力で乾かせないかやってみるから!」


「……お前……精霊の加護を二つも受けているのか? それに今、火……って言ったのか?」


「うん」


 精霊の加護を持って生まれる者はおよそ二パーセントだ。

 それだけでも希少なのに、こいつは二つも加護を受けていると言うのか? 

 いや、それだけならない話ではない。

 俺と関わりの深いある人物も精霊の加護を二つを受けている。

 しかし、その二つが火と水、と言う組み合わせは聞いた事がない。

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