表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェアリーグレイス  作者: 焼肉一番


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/47

第32話 号外

 ズルズルと力が抜けて、まだ階段上に居るザカエラの足元に蹲る。

 ザカエラはしゃがみ込んで俺の背中に小さな手を乗せた。


「全部、放り出したいっち事? そうなりよったら、お前はもうアッシュではいられないよ?」


 それがどうだって言うんだ。分からないまま、ただ頷く。


「殺したっち言うんが本当だとしても……」


「本当だ!! すぐに分かるさ!」


「そうだとしても! 今ここで全部放り出したら、裏切者ばフィーゼントは放っちおかん」


「……その前に、シェークストに殺されるんじゃないか」


 ルイスを執務室で殺した。

 護衛には俺を見られている。

 いつ発見されるか分からないが真っ先に疑われるのは俺に決まってる。


「その前に、今、ここで、うちがマサキを殺すかも知れんけんちゃ」


「はは……それは……ないだろ」


 背中に置かれた手が暖かい。

 どんなに凄んだ声色を使っても本気じゃないのなんかすぐに分かる。バレバレの脅しが少し笑えた。

 ザカエラが溜息を吐き、甘く見られたものだと呟く。


「いつまでそうしよっと?」


 足元にしがみ付かれたままのザカエラが呆れた様に言って優しく俺を引き剥がした。


「少し落ち着くばい。うちはちょっと騎士団本部の様子ば確認してくる。ほんなごとルイスが死んだっち言うならすぐにフィーゼントに報告に行かんっちね」


 ザカエラはまだ信じていない。それも仕方がないか。


「とりあえずはそん幻術ば解く。そうすれば少なくともシェークストん目は眩ませるから、うちが報告に行ってる間に逃げるんなら逃げてちゃ!」


 覚悟を決めた様に今後の行動を素早く判断する。

 俺の幻術を解く、俺が生き延びたいならその判断は正しい。だが俺はそれを断った。


「良い。この姿のままで居させてくれ」


「なして?!」


「なしてもなんもなか! 犬に戻りたくなかだけばい!」


 一瞬だけ、とても悲しそうな顔を見せて、ザカエラは分かったと家を出て行った。

 ザカエラの気配が遠くなって行くのを確認して、俺は気を失った様に眠りに落ちた。


 夢にリロが出て来て、リロは泣いていて、どうして泣いているのかと聞いたら、俺がルイスを殺したからだと言った。


 俺はリロから笑顔を奪った。それはリロの命を奪う事と何が違うんだろう。結局俺は、死んでもルイスには敵わない。


 どれくらい寝てしまったのか、外がやけに騒がしくて目が覚めた。

 とうとうシェークストの騎士がここを探し出したかと思ったが、誰かが家に来る様な気配はない。

 もうすっかり暗くなっていたが、ルイスはまだ見つかっていないのか? だとしたらこの騒がしさは何だ?


「号外! 号外!」


 そう言いながら誰かが家の外を走り去って行った。

 ざわつく心臓を抑えながら外の様子を見に出ると、その号外を読んだらしき老婆が蹲って泣き出した。

 その老婆に黙って近付き地面に置かれた号外の見出しを確認する。


――ルイス・パーバディ急逝――


 ハッと息を飲む。やったのは俺だ。分かってた筈なのに文字にされたお陰で現実味が沸いてきた。

 ほらな! ルイスは死んだ!


「婆さん、これもらって良いか」


 老婆はブツブツ何かを言いながら祈り続けている。俺は返事を待たずにそれを持って部屋に戻った。

 号外によると……ルイスは心臓発作で死んだと、こう書かれていた。


「は?」


 違う。俺が殺した。

 一瞬だけ混乱したがすぐにこう想像が付いた。


 もしも国の要であるルイスが、賊に襲われて殺されたなどと言う事になれば、国民は神をも陥れた悪魔に恐怖し、憤怒し、たちまち混乱が起こるだろう。

 いたずらに真実を告げるよりも、ルイスは病によって先に召されたのだと言う事にした方がまだ穏やかだ。


 しかしそれによって俺が見逃される道理はない。

 いつ、それがやって来るのか。死ぬ前にもう一度だけリロに……いや、一体どの顔で……。


 やたらと喉が渇いていて、口の中がカラカラだが水を取りに動くのも何だか憚られる。ああアッシュ、お前は間違いなく精霊に愛されていたんだろう。俺は今、苦しい。


 モヤモヤと一晩中、家の外の騒音を聞きながら夜を明かした。

 この騒音に囲まれて、乱暴に扉が壊されて、何人もの騎士に羽交い絞めされる。

 そんな妄想を続けたが、とうとう夜が明けるまで誰も、ここにやって来る者は居なかったのだ。おそらくザカエラはもうフィーゼントへ経ったろう。

 案外とシェークストの騎士団はボンクラ揃いだな。このまま気付かれなかったりして。

 一晩明けて少しばかり張り詰めているのに疲れたせいか、そんな楽観的な思いが脳裏を過った時、とうとうその扉は開かれた。


「アン! 聞いた?! お願い! ルイス団長の遺体を盗み出すのを手伝って!」


 朝日を逆光に、表情は良く分からなかったが、その金髪の輪郭は眩しく輝いていて。

 とんでもなく真っ直ぐなそのエネルギーに、俺はノーと言えなかった。

 到底、言えなかった。


 それどころか、この暗い部屋から連れ出しに来てくれたリロに、もう一度、俺に会いに来てくれたリロに、馬鹿な俺は、運命を感じてしまったんだ。

 そんなわけ、ないのに……。


 そして改めて思った。死してなお、ルイスが憎いと。

 この真っ直ぐなエネルギーはルイスに向かっている。死んだルイスに向かっている。

 どうして涙の一つも見せやしないんだ。まだ、現実が受け入れられないか?

 だったらそれを教えてやるまで……俺は捕まってやるものか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ