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赤髪のイケメンが黒髪のモブになり替わり、国の英雄を殺す物語  作者: 焼肉一番


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第28話 モンドハッド浪漫譚

「こんなとこに、一体何の用事で来たんだよ」


「用事? 用事は別にないけど……天気が良かったから本読んでただけ。そしたらね……」


「何の本?」


「ん? モンドハッド浪漫譚」


「ああ、俺も読んだよ。ちゃんと最後まで読んだのか?」


「読んだよ」


 リロが余計な事を言わない様に会話を誘導する。

 あの時出会った赤毛の人が運命の人なんだとか、あるいはくだらないナンパ野郎だったんだとか、どちらにしても聞きたくはなかった。


「だったらフィオーナ王妃がどんな人物だったか分かったか? 子供向けの本にしちゃ残酷な話しだよな」


「……うん」


「まぁでも、あんまり人間を信用し過ぎるなよって言うもっともな教訓が書かれていたわけだ。確かに名作かも知れない」


「でもフィオーナ王妃はね……」


 誘導した会話に乗って来たリロは、俺が想像もしなかった解釈を披露する。


「裏切った事を後悔してたんじゃないか、苦しんでたんじゃないかって、私ずっと思ってたの」


「……は? なんで?」


「だって、自分が裏切者だと明かした後でずっと背中を向けていたって描写があったでしょう? きっと苦しくて見ていられなかったのよ」


「……バカだな、背中向けて舌を出してるかも知れないじゃないか。」


 本当に、加護付きって奴はおめでたいな……。そんな描写があったかなんて俺は忘れていたってのに。


「そもそもだ、どう思っていようと、やった事に変わりはない」


「やった事は変わらないけど、未来は変わるかも知れないじゃない」


「そんなの……」


 そんなのは都合が良過ぎるだろ。そう言おうとしてやめた。


「ああ、そうだったら良いな」


「でしょっ?!」


 だけど取り返しの付かない事ってのはあるもんだ。自分が後悔して苦しんだところで、裏切った相手に許してもらおうなんて、都合が良いを通り越してやはりおめでたい。


「ははっ……ほーんと、おめでたい奴」


「そうかな? えへへっ」


「ちょっと待て褒めてないぞ」


「え? おめでたいって良い言葉じゃない」


「そりゃそうだけど……はははっ……!」


 リロのおめでたさは、伝染するのか。気が付けば俺は笑っていて、リロも笑っていた。

 疲れていたし、色々考えなきゃならない事もあったし、明日の事も心配だし、今日はもう、笑う事があるなんて思っていなかったのに。


「そうそう、でねっ、あそこで私は運命の人と出会ったんだよ」


「……」


「ん?」


「……へぇ……」


 しまった。うまく会話を誘導した筈だったのにあっさりリロに引き戻されてしまった。

 そしてあの時、俺を運命だと言った事を、間違いないのだと言われた気分だ。

 いや待て、この後でやはり間違いだったと気付いたと続くかも知れないじゃないか。どっちだったとしても浮かれて良い話じゃない。

 リロの次の言葉にゴクリと唾を飲み込む。


「あれからまだ会えないんだけど……何だか寂しくないの」


 その言葉の真意が分からなくてリロの横顔を覗き見る。

 リロはとっぷり暮れた空に浮かんだ薄い月を眺めながら何とも言えない表情をしていた。


 どうして? どうして寂しくないんだ? そう聞いてしまいたいけど、きっとあれは運命ではなかったからだと、そう言われるのが……怖いだなんて。

 リロの言葉に一喜一憂するのはもうやめるんだ。とっとと聞いてしまえば良い。いや、自分で言ってしまうのが早い。


「運命なんかじゃなかったて事だな」


「ううん、それは違うよ、私そう言うの分かるもん」


 そう言うの分かる……。

 リロは結構この言葉を使いたがる。ほとんどは、誰でも分かるだろ、と言いたくなる様な場面でしか使わないが、たまに妙に勘が良い時があるのも事実だ。

 外した事は、俺の知る限りではない。


「寂しくないのはね、何だか近くに居てくれる様な気がずっとしてるからなの」


「はっ……?!」


 何だそれは、おかしい事を言っているぞリロ。いくらでもそのワケの分からない幸せをぶっ壊してやれる言葉はある。

 あるけど、何故だ、俺は息を飲んだまま何も言えないじゃないか。


「あっ、もう着いちゃった! それじゃあね! 今日はありがとう! アン!」


 俺の言葉なんか待たないで、リロは言いたい事だけを言って駆け出す。

 金色の髪を揺らしながら、大きく手を振るリロ。

 あんまり大袈裟に振るから、恥ずかしいけど俺も少しだけ手を振る。


「ああ、またな」


 それを見たリロは満足そうに笑うと、くるりと背を向けて大きな門の中へと消えた。知っては居たけどこのバカでかい屋敷がリロの家だ。


 まるで嵐が去ったみたいな静けさに襲われて、ただの飾りになってしまった腰の鞘を何となく撫でた。

 近くに居てくれる様な気がずっとしている……静けさの中でリロの言葉を反芻してみたが、その静けさは少しも続かなかったのだ。


「こーんな時間までデートっち……一体どげんつもり?」


「……っ!」


 危うく間抜けな声が出るところで飲み込んだ。

 ここでうわぁ~とかひぃ~とか言ってみろ。本当にデート現場を目撃されたみたいじゃないか。


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