彼の死因は3度目の自殺だった。その全てに成功している。
シチューを一緒に作って以来2人の距離は近づいた。
彼の休みは最初の3ヶ月は3日だったのが週1日にふえた。彼はそれを私が曜日感覚を失わないようにだと説明した。
彼は大家さんと何かをはなした後とぼとぼと帰って来る。彼は引っ越しをしたかったようだけれど出来なかった。
彼は郵便受けに入った何かの広告チラシをいつも大事に持っている。それを見てはため息をついている。何か欲しいものがあるのかもしれない。
それが何か別れば私が買ってあげたい。
休みの日は2人出かける。
休みが増え出かける機会が増えた。
外はとても寒いので、私は暖かい服装をする。
私は何を着ても似合うのだ。
彼はそれを微笑ましそうに見つめている。
今日はスケートに行った後、私のリクエストでお鍋の具をかった。私は彼がポン酢とガスボンベを買い忘れていることを伝えると、うれしそうに礼を言った。
彼はなぜこんなにも私を喜ばせようとするのだろうか。前世の娘の為に出来なかった事をしているのなら、古いタイプの人工知能なら人工知能冥利に尽きる思いだっただろう。
私は新しい人工知能、彼の前世の事を知っている。
彼の娘の遺書には彼への恨みが書かれていた。
娘をいじめていた相手の事には触れずに彼への恨みだけが書かれていた。
彼は娘を守る為に何も出来なかった。
彼は娘を守れずに悔しがる事しか出来なかった。
彼自身無力さに苛まれていたが、遺書にも彼を責め立てる言葉が書かれている。
学校側が隠ぺいの為に偽造したのなら例えそれが許されない行為だという事を差し引いてもどんなに良かっただろうか。その頃には妻にも既に恨まれている。
くよくよ悩むのは私らしくない私は直接尋ねる。
「あなたはなぜこんなにも、私に良くしてくれるの?ひっょっとして、あなたの娘に出来なかった事をしてくれているの?」
彼の娘は容姿も流行りから大きく外れていた。私とは似ても似つかない。
彼はいつものように少し考えてから。
「天使様が来られたのだからできる限りもてなすのは当然です。」と答えた。それが私の機嫌の悪くなるタイプの答えだという事は彼も知っているだろう。
それでも彼はそう答えた。彼は多くの人からみて、平均より容姿の劣っている彼の前世の妻と娘を世界で一番美しいと思っていた。
それでいて私が一般的にかなり優れた容姿である事はきちんとしっている。
私だって彼が休みを増やした本当の理由が、体調の悪化である事ももちろん知っているし、顔色の悪くなった彼をバイト先は切りたがっている事も知っている。
それなのに冬空の中、彼を連れ出した。
気分転換になるはずのそれは彼に無理をさせ寿命をさらに減らすだけだった。あの時のウサギと同じだ。
彼も月に帰るのだろうか。
「次はどんな人に生まれ変わりたい。」
涙を流しながら私は尋ねる。彼に残された時間はもうつきかけている。5年どころか1年ももたない。
彼は私を抱きしめる。いままで無かった事、私がからかって彼に触れようとしてもたしなめられてきた。
彼は私の耳元でささやく。
「これが私が生まれ変わりを信じない理由です。」
彼に抱きしめられる先、彼を恨みの感情だけを残した無表情で見つめる彼の妻と娘がいた。霊なのか何なのか、彼に触れていなければ見えないそれは、何も語らず、表情も変わらない。ただみつめている。けして幸せになるなと訴えかけている。
私は恐怖から粗相をしてしまう。彼は濡れるのも気にせずもがきのがれようとする私を抱きしめ続けた。
5年でも1年でもない。次の休みの前の日彼は死んだ。彼の死因3度目の自殺だった。その全てに成功している。
弱り始めた身体では勤め先に迷惑がかかるとでもおもったのだろうか。
彼の貯金は私とあっあてからのこの3ヶ月で急速にへっている。
彼のポケットにはいつかの広告チラシが入れられている。それはお墓のチラシだった。妻と娘のものだろう。2つのお墓に丸が付けられている。
後1話か2話。




