第5話:暗号と地図
王宮の書庫の奥、重厚な扉の前にメアリは立っていた。手には古書と、先日の紙片を抱えている。長い廊下の先にある密室より、微かに紙の匂いと古書の香りが漂ってくる。
「……ここで、すべてが繋がるのね」
書記官と騎士が、静かに後ろで見守る。騎士の剣先が光を反射し、緊張感を増幅させた。
メアリは古書を開き、頁の折れ目と暗号を慎重に照合する。
「インクの濃淡、折れ目の位置、紙質……すべてが地図の座標になっている」
書記官が驚きの声を漏らした。
「座標……つまり、場所を示しているのですか?」
「ええ。そして、紙片に残された微細な繊維の違いが、現場での移動ルートを示している」
メアリは指先で折れ目をなぞり、暗号を順に解読していく。小さな折り目が、まるで王都の街並みの縮図のように浮かび上がった。書店の棚で培った観察眼と古書修復の知識が、ここで一気に生きる。
「……ここだわ」
彼女は最後の頁をめくり、古書に隠されていた地図を見つけた。そこには、王都の中心部から外れた古い建物、そしてその地下に続く通路が記されている。微細な印が禁書庫の存在を示唆していた。
騎士が息をのむ。
「お嬢様……ここまで……」
メアリは微笑みを浮かべる。
「ここが、王都に眠る秘密の入り口。まだ真相の全貌は見えないけれど、この地図と古書の暗号があれば、次の一歩は間違いなく踏み出せるわ」
書記官も深く頷く。
「知識と観察力で、事件の糸を解きほぐす……本当に感服しました」
メアリは地図をそっと胸に抱き、周囲を見渡した。
「王都の秘密は深い。でも、知識の力で少しずつ解き明かすのよ。書物が、紙片が、私に道を示してくれる」
騎士は剣を軽く握り直す。
「お嬢様、私も共に歩みます。どんな危険が待っていようと」
メアリは微笑み、静かに頷いた。
「ええ、共に。書店で学んだこと、古書の痕跡、すべてが私たちの武器になるわ」
その時、扉の奥から微かに冷たい風が吹き込む。紙の匂いと古書の香りが混ざり、まるで王都の闇が呼吸するようだった。
──小さな書店の棚から始まった物語は、今、王都の禁書庫へと繋がる道筋を示した。
古書の暗号、紙片の痕跡、そして地図――それらが示すのは、王国の運命を揺るがす大きな謀略のほんの一端。メアリは胸に秘めた決意と共に、次の冒険へ歩みを進めるのだった。
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