第4話:王都の小さな不審死
王宮の奥、長い廊下の先に密室があった。衛兵が立ち入りを制限する中、メアリは静かに息を整えた。
「ここで、紙片と古書の繋がりを確かめるわ」
書記官が紙片を差し出す。紙質、インクの滲み、微かな折れ目――すべてが手掛かりだ。メアリは慎重に頁をめくり、現場に残された紙片と古書の暗号を照合する。
「……この折れ目、ここに対応している」
小さな指先で紙を押さえ、折り目を確認する。紙片の配置と古書の暗号が一致し、地図の一部が浮かび上がった。
「なるほど……王宮内で秘密裏に動く人物の行動が、ここに隠されていたのね」
その時、重い足音が近づく。鎧を身にまとった騎士が現れた。荒っぽい印象だが、瞳の奥には確かな優しさが宿る。
「お嬢様、危険はありませんか?」
「ええ、大丈夫。あなたの護衛があれば、安心です」
騎士は無言で頷き、廊下の警備を強化する。
「ここは密室。外部からの侵入は考えにくい。しかし、紙片の存在が示す通り、内部関与は否定できません」
メアリは紙片を手に取り、さらに分析を続ける。紙の折れ目、インクの濃淡、紙質の繊維……それらから、事件当日の状況が手に取るように分かる。
「この紙、古書と同じ製本業者の痕跡があります。つまり、現場に残された紙は、古書の持ち主か、それに関係する人物が関与している可能性が高い」
書記官が眉をひそめる。
「しかし、王宮内で古書に触れられる者は限られています。だとすれば……」
メアリは静かに頷いた。
「王宮の高官の誰かか、密偵の関係者ね。行動範囲と紙片の位置から絞り込めそうだわ」
その瞬間、衛兵が慌てた様子で走ってきた。
「お嬢様、他の部屋で奇妙な書類が見つかりました! 微かに異なる紙質と折れ目が……!」
メアリは紙片を抱え、騎士と共に現場へ向かう。廊下の奥で、小さな異変が事件の全貌を示していた。微細な紙片の痕跡が、王都の密かな陰謀の輪郭を形作る。
「……やはり、ただの偶然ではないわね」
騎士は剣を軽く握りしめる。
「お嬢様、私も力になります。共に調べましょう」
メアリは微笑んだ。
「ええ、知識と観察力で、謎を一つずつ解き明かすわ」
書店の奥で培った静かな技能と、王宮での緊迫した状況が交錯する。小さな紙片、微かな折れ目、そして古書の秘密――それらを手掛かりに、メアリは王都の闇を少しずつ紐解き始める。
──小さな不審死の背後には、王都の権力を揺るがす秘密が潜んでいる。知識と冷静な観察眼が、事件の真相への鍵となるのだった。