表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

第2話:古書の来訪者

午前の光が店の木枠の窓から差し込む。埃まじりの光に、棚の古書が静かに輝いていた。

メアリは革表紙の古書を抱え、開いた頁の折れ目をじっと見つめる。


「……誰かが、ここに何かを隠したのね」


その時、店のベルが鳴った。

「いらっしゃいませ」


振り返ると、年若い男性が入口に立っていた。黒い外套に身を包み、冷静な瞳で書店を見渡す。まるで棚の隅まで観察しているようだ。


「古書を探していると聞きました。特別な本を、少しだけ扱っていると聞いて」


彼は低く、整った声でそう告げた。普段の客とは違う雰囲気に、メアリは一瞬身構える。

「……ええ、どのような本でしょうか?」


男性はゆっくりと袋を取り出す。中には何冊かの古書があり、どれも外見は普通の書物だ。しかし、彼の手元で光を受けた頁には、微かな折れや薄いシミがあった。

「この本に、奇妙な印があるのです。調べてもらえますか?」


メアリは本を受け取り、頁を指でなぞった。古書の匂い、紙の厚み、インクの色の濃淡……。すべてが手掛かりになる。


「……ふむ。確かに、普通の書物ではありませんね」


彼女は静かに頁をめくり、折れ目のパターンを確認する。数カ所、規則的に折られた跡。微かに残る指紋のような跡。インクの色の違い……まるで暗号のように情報が散りばめられている。


「……なるほど、これは手がかりになるかもしれません」


男性は小さく頷くと、店内の棚を見渡した。

「ここに通じる情報は、他にありますか?」


「ええ、少しずつ整理しているところです。古書には、前の持ち主の手がかりや、時には秘密の記録も隠されていることがあります」


男性の瞳がわずかに光る。

「それを解き明かせるのが、あなたなのですね」


メアリは頷き、手元の書物に集中する。ページの折れ目を順番に確認し、古い文字と記号を照合する。紙の質やインクの滲み方から、書かれた時期や環境まで想像できる。

「……この折れ目は、地図の印。インクの濃淡は、筆者の意図を示しています」


男性は驚きを隠せなかった。

「そんなことまで……普通の書店員には不可能な技術ですね」


メアリは小さく笑った。

「私はただ、本を読み、記録を解釈しているだけです。それに、ただの書店員ではありませんから」


その瞬間、店の外で小さな騒ぎが起きた。通りに並ぶ商店の客がざわつき、遠くから誰かが駆けてくる足音が聞こえる。


「……誰かが来るようです」


男性も警戒を強める。二人が店先を見ると、駆けてきたのは王都の制服を着た小さな少年。息を切らして駆け寄ると、メアリに向かって言った。

「お嬢様! すぐに来てください! 不審な事件が――!」


メアリは書物を抱えたまま立ち上がる。

「わかりました。すぐに行きましょう」


書店の静寂が一瞬にして切り裂かれ、古書の香りとともに、新たな謎の影が王都から差し伸べられる。


小さな書店の棚に、再び未知の事件が忍び寄っていた──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ