表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その写真に写る君は、あのとき何をしていたのか  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/10

第9話 炎の夜の真相

東栄町の夜は、静寂に包まれていた。だが、その静けさの底には、20年前のあの夜からくすぶり続けている炎の熱が、今もひっそりと隠されているようだった。俺は、東出商店からの露骨な圧力に、取材の行き詰まりを感じていた。町の人々は、誰も口を開こうとしない。この町の沈黙は、あまりにも分厚かった。

俺は、**「森川寫眞舘」**で、菜穂と二人、祖父の日記と、藤原からもらったアルバムを広げていた。

「…おじいちゃんは、なぜこの日記を、そしてこの写真を、残したんだろう…」

菜穂の声が、震えている。彼女の心は、祖父の優しさと、日記に書かれた「罪」の言葉との間で、深く引き裂かれていた。

「この町の沈黙を、誰かに、いつか、暴いてほしかったんじゃないでしょうか。でも、自分ではそれができなかった。だから、日記に、そして写真に、その思いを託した…」

俺は、そう推測した。その時、ドアがゆっくりと開いた。そこに立っていたのは、古本屋の藤原だった。彼は、いつもの飄々とした態度ではなく、どこか緊張した面持ちで、店の中に入ってきた。

「…東出が、お前のことを探している。これ以上、この町の過去を掘り起こすな、と」

藤原は、静かに言った。その声には、俺を心配する気持ちと、この町の掟を破ることへの警告が入り混じっていた。

「分かっています。ですが、もう後には引けません。この町の真実を、明らかにしなければならない」

俺は、きっぱりと答えた。藤原は、一瞬、俺をじっと見つめ、それから、深い溜息をついた。

「…そうか。あんたは、諦めん男だと思っていたよ。なら、これを持っていけ」

藤原は、古い新聞の切り抜きを、俺に差し出した。そこには、20年前、この町で起きた、もう一つの事件の記事が載っていた。

「東栄町、暴力団同士の抗争か。男性が暴行され、意識不明の重体」

記事には、名前は伏せられていたが、被害者が祐介の父親の借金問題に関わっていた人物であると、仄めかされていた。

俺は、この切り抜きを手に、小泉の元へ向かった。交番の窓口で、小泉は、俺の顔を見ると、驚いたように言った。

「まだこの町にいたのか。東出に目をつけられたと聞いたが…」

俺は、藤原からもらった新聞の切り抜きを、小泉に見せた。

「この事件と、祐介君の失踪は、繋がっているんじゃないですか?」

小泉は、切り抜きを食い入るように見つめた。その顔には、隠しきれない動揺が浮かんでいた。

「…そうか。やっぱり、そうだったんだな」

小泉は、俺に、当時の捜査の裏側を語り始めた。

「あの夜、祐介の父親は、東出商店の借金返済を迫られていた。だが、父親は、借金に加えて、東出が所有する長屋の契約問題で、東出と揉めていた。父親は、その長屋に隠された、東出の不正の証拠を握っていたんだ。だから、東出は、借金問題に乗じて、父親を始末しようとした…」

小泉の言葉は、俺の推測を裏付けるものだった。祐介の父親は、ただの借金苦ではなかった。彼は、この町の闇を握る、重要な鍵だったのだ。

「そして、あの火事…」

俺がそう呟くと、小泉は頷いた。

「火事は、東出が雇った裏社会の人間が、証拠を隠滅するために起こしたんだ。父親は、その火事の中で、襲われた。そして…」

俺は、小泉の言葉の続きを聞くのが怖くなった。

「父親は、殺された。東出の私兵に、暴行されて…」

小泉の声は、悔しさと怒りで震えていた。

「…祐介は、その光景を、見ていた…」

俺は、絶望的な気持ちになった。祐介が、あの夜、泣いていた理由。それは、父親が殺されるのを目撃したからだ。

「そして、森川さんは…」

俺は、震える声で尋ねた。

「森川さんは、祐介を助けようとしたんだ。父親が殺された後、祐介は、一人で、焼け跡をさまよっていた。それを、森川さんが見つけ出して、かくまった。だが、東出の私兵は、祐介も目撃者だと知っていて、彼を追っていた…」

小泉は、言葉を詰まらせた。

「…逃がす途中で、森川さんは、私兵に見つかった。そして、祐介を、彼らに引き渡してしまったんだ…」

俺は、呆然とした。

「…なぜ、そんなことを…?」

「抵抗すれば、森川さん自身も、家族も、危険に晒される。だから…彼は、祐介を助けられなかった。いや、助けなかったんだ。自分の命と引き換えに…」

小泉の言葉に、菜穂の祖父の日記に書かれていた「罪」の言葉が、深く、重く、心に響いた。

菜穂の祖父は、祐介を助けられなかった。いや、助けなかった。自分の命を守るために、幼い少年を見捨てた。その罪を、彼は、20年間、ずっと抱え続けていたのだ。

俺は、この衝撃的な真実を、菜穂に告げなければならない。それは、彼女にとって、あまりにも残酷な真実だ。だが、この町の闇を暴くためには、必要なことだった。

俺は、小泉に礼を言い、写真館へと急いだ。

闇夜に燃える炎、駆ける少年、倒れる父。

あの夜を語れるのは、炎の中で立ち尽くしていた者だけだ。

そして、その炎の夜に、菜穂の祖父は、自分の人生をかけて、一つの「罪」を犯していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ