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その写真に写る君は、あのとき何をしていたのか  作者:


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第8話 口を閉ざす町

東栄町の通りは、どこか張り詰めた空気に包まれていた。雨上がりの湿気とは違う、重苦しい空気が街全体を覆っている。俺は、山下祐介の父親が、町の有力者である東出商店とトラブルを抱えていたという事実を胸に、商店街を歩いていた。

街の人々の視線が、どこか刺々しい。気のせいではない。俺が、この町の過去を掘り起こしていることに、彼らは気づき始めている。それは、まるで、集団で俺を監視し、秘密を守ろうとするかのような、不気味な連帯感だった。

東出商店は、商店街の中心にあった。他の店とは一線を画す、真新しいコンクリートの建物。その威圧感は、この町における東出家の絶対的な権力を象徴しているかのようだった。店の前には、高級そうな車が停まり、中からは、町の住人たちが、恐る恐る出てくるのが見えた。彼らの顔には、共通して、媚びへつらうような、しかし、どこか怯えたような表情が浮かんでいた。

俺は、意を決して店の中へと足を踏み入れた。店内は、清潔で、品揃えも豊富だ。だが、その完璧さが、逆に不気味さを増している。奥の事務室から、威厳のある男が出てきた。五十代後半だろうか。白髪混じりの髪をオールバックにし、鋭い眼光を放っている。彼が、東出商店の店主、東出秀雄だろう。

「何か、ご用ですか?」

東出は、俺を値踏みするような視線で、冷たく言った。

「新聞社の佐藤と申します。20年前の、山下祐介君の事件について、お話を伺いに来ました」

俺がそう告げると、東出の表情が、一瞬で凍り付いた。だが、すぐに元の冷酷な顔に戻った。

「…そんな昔の話など、知らん。もう帰ってくれ」

「祐介君の父親と、借金問題で揉めていたと聞いていますが」

俺がそう付け加えると、東出の目が、殺気を含んだような光を放った。

「…一体、誰からそんな出任せを聞いた?山下という男は、ろくでなしだった。金を借りて、夜逃げしただけだ。事件などではない」

東出は、そう言って、俺を店の外へと押し出そうとした。だが、俺は、一歩も引かなかった。

「火事についても、何かご存知ではありませんか?あの夜、祐介君の父親が所有していた長屋が全焼したと聞いていますが」

俺の言葉に、東出は完全に顔色を変えた。

「…お前、何者だ?なぜ、そんなことを知っている…」

「真実を知りたいだけです。そして、この町の住人が、なぜ口を閉ざしているのかも」

「この町は、私が守っている。平和な日常は、見えないところで、誰かが犠牲になることで成り立っているのだ。お前のような部外者が、土足で踏み込んでいい場所ではない」

東出は、そう言って、店の入り口のドアを、乱暴に閉めた。その音は、俺の取材活動に対する、はっきりとした拒絶の意志を表していた。

その日から、俺への圧力は、さらに強まった。

商店街を歩けば、店の前で、何人もの男たちが、俺を睨みつけている。その中には、東出商店の従業員らしき者もいた。取材を試みても、誰もが口を閉ざす。いや、口を閉ざすというよりも、俺の存在自体を無視するようになった。

俺は、まるで、この町から存在を消されたかのような感覚に陥った。

この町の沈黙は、個々の意志によるものではなかった。それは、東出商店という絶対的な権力に対する、集団的な恐怖心だった。

俺は、この行き詰まりを打破するため、再び藤原堂へと向かった。藤原は、俺の顔を見るなり、すべてを察したかのように、静かに笑った。

「東出のところに行ったのかい。あいつに目をつけられたら、この町で取材はできんよ」

「なぜ、東出は、そこまでしてこの火事と失踪を隠そうとするんですか?」

「…あいつは、全てを自分の手中に収めたいんだ。町の土地も、金も、そして、人々の心も。山下という男は、あいつの支配に逆らった。だから、見せしめに…」

藤原は、そこまで言って、口を閉ざした。それ以上は、語ろうとしなかった。

俺は、藤原の言葉から、東出の目的が、祐介の父親を始末することだったと推測した。そして、その過程で、祐介は…

俺は、無力感に襲われた。この町の人々は、誰も真実を語ろうとしない。それは、真実を語るよりも、沈黙を選ぶことで、自分たちの日常と安全を守ろうとしているからだ。

だが、俺は諦めなかった。この町の沈黙は、罪を覆う布だ。それを剥がすことが、俺の使命だ。

俺は、**「森川寫眞舘」**へと向かった。菜穂は、祖父の日記を抱えたまま、窓の外をじっと見つめていた。その目は、何かを決意したかのように、強く輝いていた。

「佐藤さん…私、諦めません。おじいちゃんの罪が何であれ、私は、おじいちゃんが、祐介君を助けようとしたことを信じたい。そのためにも、この町の真実を、知らなければならない」

菜穂の言葉に、俺は勇気づけられた。

真実は見えてきた。だが、それを語れば、町の均衡は崩れる。

沈黙は、守るための盾か、それとも罪を覆う布か。

俺は、この町の沈黙を打ち破るために、そして、菜穂の祖父の真実を明らかにするために、最後の勝負に出ることを決意した。

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