赤髪の騎士は婚約破棄された令嬢の幸せを願う.ep1
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このお話は連載中の「精霊王子と漆黒の姫」に出てくる赤髪騎士のエピソードです。
本編を読まなくても楽しめるように再編集して少し加筆しました。
オレはリオニダス。カーディナル王国の大公家の三男だ。
王国騎士団の副団長をしていたが、国内でゴタゴタがあった時に王都を出たまま、今は国境警備に参加している。
ここに来てから半年が経とうとしていたある日、国境の手前に止まった一台の馬車が目に入った。
馬車についている紋章、あれはローゼンドルフ辺境伯家のものだ。
中から出てきた人物達にも見覚えがある。
エルフの青年にエスコートされてこちらに向かっているのは、ローゼンドルフ閣下の愛娘、アシュリー嬢。
王国の第一王子、トルナード殿下(オレの幼馴染だ)の婚約者である。
なぜ彼女がこんなところに!?
周りの兵達に指示を出し、急いで彼女の元へ向かう。
「アシュリー嬢ではありませんか!」
「リオニダス副団長、こんなところでお会いするなんて奇遇ですね」
笑顔の彼女は相変わらず美しい。
「アシュリー嬢、こんな所に来るなんて、何かあったのですか!?」
「実は殿下に婚約破棄されてしまいまして、父からも国から出ていくように言われてしまいましたの」
「はあ"ぁぁぁぁぁ!?」
なにやってんだよアイツ!!
あんなにアシュリー嬢にベタ惚れだったのに、婚約破棄するとかバカだろうっ!
アシュリー嬢を泣かせんなっっ。ムカツク! 腹立つ! オレがどんな思いで⋯⋯いや、今は忘れよう。
それより閣下が国から出るように言っただと!?それこそ信じられない。もしかして国を出ないといけないほどの何かが起こっているのか?
「リオニダス副団長はどうしてこちらに?」
「⋯⋯その、モニカ聖女が国外に出るまでの護衛任務でこちらに来たのですが⋯⋯国境が気になりまして、ここに留まるのが最善と判断し国境警備に参加しております」
「失礼。もしかして、この結界が関係ありますか?」
横から話に入ってきたのは、アシュリー嬢と一緒に馬車から降りてきたエルフの青年。
何故この男が一緒なのかと問いたいところだが。
彼はエルフ族との混血だが精霊族の血も引いといるらしい。
エルフ族は見目麗しく文武両道だと聞く。まさに、目の前のこの青年がそうだ。
昨年の夜会で殿下の護衛をしていたときにも顔を合わせたし、子供の頃にも一緒に遊んだ記憶がある。
王国にとって大切な要人。
「ご無沙汰しております、レオンハルト様」
「⋯⋯すまないリオニダス卿。この結界について知りたくて気が急いてしまった」
「かまいませんよ。あちらにモニカ聖女もいらっしゃいますのでご案内します。話はそちらで」
彼は申し訳なさそうな顔をしていたが、今の王国の状況では気が早るのも仕方ないだろう。
隣国の国境にいるモニカ聖女のところへ案内すると、彼女はアシュリー嬢に駆け寄って手をとり涙で瞳をうるませた。
「アシュリー様!!」
「まぁ、モニカ様。ご無事で良かったですわ」
「皆様にお会いできて嬉しいです!」
モニカ聖女は半年前に神殿で突然「偽聖女」と呼ばれ国外追放を告げられた。
オレを含めて騎士数名が護衛として同行したのだが、カーディナルの結界を出た騎士が急に体調を崩して、洗脳にかかっていたことが判明したのだ。
モニカ聖女の見立てによると、現在、王国に張ってある結界は正体不明で謎らしい。
隣国の神父の話では魔界の呪いの類ではないかとのことだった。
今はモニカ聖女が王国を結界で覆い、呪いがこれ以上広がらないように抑えている。
洗脳は地方から来た者は症状が軽いが、王都から来た者ほど重症のようだ。
結界内に入ると再び洗脳される恐れがあるため、国境を抜けたオレたちは国境警備隊と共にカーディナルの国境の出入りを管理することにしたのだ。
見たところ、アシュリー嬢は呪いの影響を受けていないようで安心した。
そういえばモニカ聖女も体調を崩す様子はなかった。この呪いは全ての者に影響を及ぼすわけではないかもしれない。
彼女たちは教会へ行って今後の話をすることになったので、警備隊の馬車を手配する。
オレも護衛として付いていきたいところだが国境を疎かにするわけにはいかない。
レオンハルト様は剣も魔法も使えるので、彼が同行するなら安心だろう。
くやしいが。とてもくやしいし気に入らないが、今は彼に騎士役を譲ろうじゃないか。
「アシュリー嬢、せっかく再会できたというのに一緒に行けずに残念です」
彼女の柔らかそうな髪を一束すくうと、毛先にそっと口づけた。
婚約破棄されたのなら、貴方はもう誰のものでもないのだろう?
このくらいは許してほしい。
「リオニダス様、アシュリー様に失礼ですよ」
アシュリー嬢は真っ赤になり、モニカ嬢には怒られた。
彼女のこんな反応を見られるのなら怒られたってかまわないさ。
けれど今は顔に出してはいけない。
耐えろ、オレ。
彼女の前では頼れる騎士であり続けなければ⋯⋯!
馬車が見えなくなった頃、オレは我慢できずにしゃがみこむ。
彼女の身に起きたであろう辛い出来事と、彼女を守れない自分が悔しくて泣きたくなった。
けれど、それ以上に⋯⋯あんな可愛い顔は反則だろう⋯⋯
***
よく晴れた朝、レオンハルト様は増援を呼ぶためにエルフの谷へ向けて出発した。
教会での話し合いにより、王国を救うために近隣国の手助けを得られることになったのだ。どうやら彼の父君も王国内に囚われているらしく、エルフ族とも共闘することになる。
「このまま行かせてしまって良かったのですか?」
憂いのある表情で見送っているアシュリー嬢を見ていたら、思わず声が漏れてしまった。
彼女は少し驚いたように何か言いかけたあと顔を伏せてしまったので、それ以上声をかけるのは躊躇われた。
しまったな。
少し気が緩んでしまっていたようだ。
今まで隠してきたんだ、きっとこれからも隠し通すつもりなのだろう。
アシュリー嬢はもう殿下の婚約者ではないのだから自由だ。
けれど、レオンハルト様にも想い人がいるらしいと聞いたことがある。
谷にはその「想い人」もいるだろう。
昨夜は魔法の伝書鳥が届いて嬉しそうな顔をしていた。
ーーうまくいかないものだな。
オレは青空を見上げながら心のなかで溜息をつく。
「⋯⋯いつから、気づいてらしたんですか」
ポツリと言ったアシュリー嬢の耳が赤い。
可愛いな。
いつから⋯⋯と言われると、最初からなのだが。
「子供のころ、陛下の戴冠式のお祭りがあったじゃないですか。トルナード殿下がお忍びで城下町に遊びに行ったとき、アシュリー嬢とぶつかったでしょう」
「ええ、覚えてます」
「あのとき、オレもいたんですよね」
「⋯⋯そうだったんですか」
あのとき、すれ違う視線にすぐに気づいた。
殿下はアシュリー嬢に釘付けだったけれど、そのアシュリー嬢の瞳には、殿下の肩越しに見えるレオンハルトしか映っていなかった。
人が恋に落ちる瞬間を見てしまったと思ったよ。
オレもあの頃はまだ殿下の側近候補としていつも一緒にいた。
アシュリー嬢に一目惚れした殿下が婚約者にと望んで、3人でいることも増えて。
「おとなしいけれど芯の通った少女」というのが初めの印象だ。
健気に自分の責務を果たそうと頑張るアシュリー嬢を見ているのは少し複雑な気持ちだった。
「あの、誰にも言わないでくださいね」
その上目遣い、やめてくれ。
染まった頬に触れたくなるじゃないか。
心臓がつぶれそうだ。
「言いませんよ、誰にも。2人だけの秘密です」
少しふざけてウインクしてみれば、彼女は安心したようにクスリと笑った。
言えませんよ、誰にも。
貴方は知らないでしょう。
いつからか、オレの視線が貴方の姿を追いかけていたことを。
貴方と殿下が一緒にいるのを見たくなくて騎士団入りを希望したことを。
辺境伯の兵達よりも強くなりたくて必死に訓練していたことを。
貴方がつらい思いをしてここまで来たというのに
オレは「婚約破棄されたのなら自分にもチャンスがあるかも」なんて思ってしまった。
祖国が大変なときに何を考えているんだか。
情けない。
殿下に呼ばれて護衛についた一年前の夜会、久しぶりに貴方の近くにいられるのは嬉しかった。
けれど、レオンハルトに再開したとき貴方の瞳が揺れるのを間近で見ることになるとは思わなかったよ。
最初から想い人がいるのは分かっていた。
そして貴方には国が決めた婚約という名の契約があることも。
来年の婚姻式ではちゃんと祝うつもりでいたんだ。
大切な幼馴染と貴方が幸せを歩めるようにと祈るつもりだった。
それなのに、婚約破棄するとかバカだろう。
なにやってんだよアイツ。
今度会ったら絶対に殴ってやる。
殿下もレオンハルトも貴方の手を取らないというのならーー
「ねぇアシュリー、子供の頃みたいにリオって呼んでよ?」
せめて、貴方を守るのは自分でありたい。
初恋も婚約者も全て忘れるくらいの幸せを貴方に届けたい。
貴方がいつでも笑っていられるように、オレの全てをかけて守ると誓おう。
読んでいただき有難うございます!
☆1000PV有難うございます! 評価とリアクション、ブックマークもありがとうございます!! 予想していたよりたくさんの方が読んてくださってとても嬉しいです。嬉しかったので続編を書きました。今度はハッピーエンドです。よろしければどうぞ。
「赤髪の騎士は婚約破棄された令嬢を甘やかしたい」
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☆この短編は、連載中の「精霊王子と漆黒の姫」1000PV記念にアップしたものです。連載の方はなかなかアクセスが伸びず亀のようなゆっくりペースですが、読み続けてくださってる方のためにも最後まで書ききりたいです。こちらもよろしくお願いします。
「精霊王子と漆黒の姫 〜逃亡悪魔の時を超えた策略〜」
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