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5話 ヘッドハンティング

 ――4時に図書館の前に集合。遅れたら殺す。

 たしか、昨日、白幡さんはそう言っていた。

 僕だって殺されたくはない。僕は授業が終わってすぐ図書館に行った。すでに白幡さんがいた。腕を組んで、貧乏ゆすりをして、相も変わらず不機嫌そうだ。

「やぁ、早いね」

「お前が遅い!」

 スマホを見る。時間は3時58分。集合時間の2分前のはずだけど。

「集合って言ったら5分前でしょ!常識的に考えて!」

 まさかドアを蹴破る女子高生に常識を語られる日が来るとは。

「ごめん。次から気をつけるよ」

「ふん!」

 鼻を鳴らすと、そのまま白幡さんは歩き出した。僕はその後ろをついていく。

「どこにいくんだい?」

「着いてからのお楽しみ」

 あんまりお楽しみな予感はしないなぁ。道場破りに付き合わされたらどうしよう。

「そういえば気になっていたんだけど」

 どこに行くのかは答えてくれなさそうだから、質問を変えた。

「エンバーランドは4人プレイだよね?僕と白幡さんの他にメンバーがいるの?」

「ふふん」

 ふふんって言った。得意気だ。

「なかなか良いとこに目をつけたじゃん。そう。わたしたちはまだ2人。あと2人メンバーを探さないといけない」

「ああ、やっぱりまだ2人は見つけてないんだ」

「は?今のニュアンスなんか、わたしに友達が少ないみたいに聞こえたんだけど」

 被害妄想だ。でも一応聞いておく。

「多いの?」

 無言でローキックされた。

「とにかく。早急にメンバーを探さないといけない。ゲーム経験のある人が良い。できれば上手い人。どうやって探す?」

「まさか、君、ゲーム部から引き抜く気じゃないだろうね」

「大正解。わたしと同じこと思いつくなんて。頭いいじゃん」

「お褒めにあずかって光栄だけどさ。引き抜きなんてどうやってする気なのさ」

「そんなの潜入以外にないでしょ。わたしの情報によると、今日、ゲーム部は新歓デュオ大会を部内で開催するらしいから、わたしたちもその大会に出る。そこで良い人材をピックアップ&ゲット」

「無理だ」

「はぁ!?」

「潜入するには君は有名すぎる。僕もゲーム部には知り合いがいるんだ。潜入できないよ」

「やってみないと分かんないでしょ!」

「そうかな。僕はやるだけ無駄だと思う」

 白幡さんの足が止まる。僕はまたマズいことを言ったみたいだ。

「無駄でもやんの」

 白幡さんは静かにそう言うと、再び歩き出した。僕は小さい彼女の背中についていった。


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「おお」

 圧巻の一言だった。ゲーム部が部室として使うコンピューター室は2教室あるのだが、その教室に収まりきらず人が廊下まで溢れている。

 恐らく全員がゲーム部。プロチームβの存在もあって部員が去年の倍くらいいる。

「はーい!デュオ大会参加者はこっち並んで~!8時までには帰れって言われてるから、集団行動!集団行動!」

 声の方を見る。βのチームリーダーでゲーム部の部長――木村部長が100人に届きそうな部員たちを誘導している。改めて思うと凄いなぁ。部長もやりながらプロ活動って。

 ダラダラと列が作られる。どこに向かうのかもわからない長蛇の列に白幡さんと並ぶ。

「いい?堂々とね、堂々と」

 とか言う割に、白幡さんはさっきから僕の背中に隠れてあたりをキョロキョロとしている。挙動不審だ。

「白幡さんも知り合いがいるの?」

「……知らない」

 これはいる感じだな。ゲーマーの白幡さんなら知り合いの一人や二人くらいいるか。

 というか、

「白幡さんはなんでゲーム部に入らなかったんだい?」

「わたし、こういう集団無理。馬鹿みたいじゃない?こいつらの半分くらいはβがプロになれたから、自分もみたいに思ってんの。はっ、ゲームなんて誰に教えられるもんでもないっての。教えられるなら今頃Eスポーツ専門学校から――」

 などとご高説を賜っている間に僕らの番がきた。最初は僕からだ。受付の人はニコニコと応対してくれた。

「若竹、若竹!堂々と、どーどーとっ!」

 僕の服の裾をつまみながら言ってくる。そうしている君が一番怪しいよ。

「ん~?おかしいなぁ、名簿に名前がない、けど」

 受付の人が困ったように言った。まぁ、そうだよなぁ。予想通り潜入は失敗に終わりそうなときだった。


「あれ?」


 コンピューター室の中から1人の少女が顔を出した。

「どこのだれかと思えば、私の誘いを断った挙句、娯楽研究会とかいうゆるくゲームをする集まりに入った若竹くんじゃん」

 万事休すだ。ゲーム部にいる知り合いにで一番会いたくない人に出会ってしまった。

「うん。久しぶりだね、七瀬さん。クラスが違うと急に合わなくなるね」

「ね」

 七瀬さんは、βの紅一点である七瀬七さんは1年生のころ同じクラスでそれなりに話す友達だった。

「どういう風の吹き回し?」

「ははは。少し台風にあってね」

 七瀬さんは僕の後ろにいる白幡さんに気づいたらしい。

「ん?」

 七瀬さんが覗き込むと、白幡さんは身を縮めた。少しの沈黙。七瀬さんはもともと何を考えているのかイマイチわからない人だった。けれど、なにかを四六時中思案している人でもあった。

 彼女は沈黙のうちになにかを考え、結論を出した。

「なるほどね。うん、いいよ。大会に出ようと、誰を引き抜こうと。気が向いたら2人が入ってもいいし」

 末怖ろしい人だ。よくもまあこの短い時間で僕たちの狙いを見抜けたものだ。

「じゃ、大会頑張ってね」

 なにはともあれ、七瀬さんの独断によって僕らは大会に出られることになった。

 小さい紙に自分の名前を書いて、段ボール箱のなかに入れる。それで受付は終わった。

 列を外れたあと、いつもより一回り小さくなった白幡さんが聞いてきた。七瀬さんは先日のゲームフェスで負けた相手だから萎縮してしまったのだろうか。

「……お前、ナナナナとどういう関係?」

 ナナナナは七瀬さんの愛称だ。カタカナっていうか数字の77のイメージ。

「1年の頃、同じクラスでね。一時期ゲーム部に誘われたんだ」

「…なんで入らなかったの?」

「だって、ほら、ここってガチだからさ」

 つい先日まで僕はスポーツであれ、ゲームであれ、なにかを本気で取り組む集団を避けていた。

「わたしだってガチなんだけど」

「そのときと今は違うからねぇ」

「……今、誘われたら入る?」

「まさか。僕は君に付いていくって決めたんだ」

「……あっそ」


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 受付が終わり、全員が一つの教室に集められる。座れた人は幸運。満員電車みたいな混雑だった。「し、死ぬ」と小柄な白幡さんはほとんど押しつぶされていた。アーメン。

「はーい!じゃ、本日はお日柄も悪いなか――とか言ってたら恨まれるな。じゃ、手早く大会のルール説明をするぞ!」

 木村部長がパソコン室のスクリーンをバッグに説明をはじめる。

「ルールは2v2、デュオのデスマ。一発勝負。負けた人は帰宅してもよし、観戦してもよし。チームはランダム。受付で入れてくれたこの紙を俺が引いて、それでペアを組んで貰います!トーナメント表はスクリーンにある通り、決まったチームから順に入ってくから。で、気になる優勝賞品は~」

 机に置かれたシーツの山を引き払う。

「じゃん!βのスポンサー、トレッドさんのエナドリ1ヶ月分だぁ~!決して俺らが呑み飽きたから、その余りってわけじゃないぞ~」

 その他、もろもろの所連絡が終わったところでチーム分けとなった。

「いい?優秀な人材がいたら声かけること。ラインまで聞けたら最高」

 なんか悪い商売をしているみたいだ。

白幡さんの名前が呼ばれた。

「じゃ、決勝で会おう」

 グッジョブして颯爽と去っていく白幡さん。

 無理だろうなぁ。白幡さんの実力はわからないけど、僕は初心者もいいところだ。

『次!若竹緑さん!……と笹森希来里さん!前に来て!』

 僕の名前も呼ばれた。決勝は無理でも、せめて足を引っ張らないようにしよう。勝てば勝っただけ色んな人を見れる機会があるわけだし。


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