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紺の導師  作者: 燐火
3/6

【1-1】


白い光が目を焼いた。

眼前がすべて白に染まって、遅いとは知りつつ、目を閉じる。


暗い視界の中、周囲の空気感がどこかに瞬間移動でもしたかのようにこれまた唐突に変わった。


白い光が収まったのを感じて、ゆっくりを瞼を押し上げる。


……は?


目に飛び込んできた、まだ、さっきの白い光のダメージが残っているのかと思うほどに、あり得ない現実。

巨木の立ち並ぶ林の、陽の光をゆらゆらと葉に透かし落としてくる木々はとても高い。一番下の枝さえ、遠く彼方、100メートルは上に見えていて、地球ではあり得ないと断言できるほどに。


……俺、さっきまで学校の教室の扉の前の廊下に立っていたはずなんだが……。それが、こんなわけのわからないところにいきなり飛ばされるとは……。


……とりあえず現状確認といくか。


大きく深呼吸をする。この非現実のような事態は、現実でしかないのだ、と脳内に叩き込むためにも。

現代日本の都会ではありえないほどに澄んだ美しい空気。


「……よし」


ここは現実でしかないことが確定した……。

地に敷き詰められた俺全体を包み込めそうなほど大きい広葉樹のような葉の上で座り込む。


誰も来る人がいないのか、道はおろか、人が歩いた跡すらも見受けられない巨大な大量の葉は絨毯の様だ。


持ち物は、肩にかけたままのヘッドフォンに、ジャケットのポケットに入れていたスマホに、学校指定の鞄……。

中身はともかくとして、一応全部ありそうだ。ということは、学校に落としてきてしまったものはないな。多分。


『……秋夜』


中性的な声がクリアに、耳というよりは脳内に響いた。


鞄の中を探ろうとした手を止めて、シャツの第一ボタンを開けて、ペンダントを引っ張り出して、ターコイズブルーのストーンを中心とした小さな赤と茶色の台の意匠のペンダントトップをチェーンから外す。


『[変化]解除』


さっきと同じ声がして、ペンダントトップが赤い仄かな光に包まれる。赤い光は全体を覆い隠した後、大きくなり、俺の手を離れ、だんだんと本の形になっていった。美しく宝石のように整えられた形が垣間見えたかと思えば、光は強く瞬く。


光が強くなることを予測して、瞑っていた目を開けた。


『……ふぅ、やっと元に戻れた!』


赤い光がゆっくりと消えていき、茶色い革に赤い金属の装飾と、美しいターコイズブルーのストーンがポイントとなる綺麗な、中世の頃にヨーロッパで流行した形をして、宙にふわふわと浮く本が現れた。


俺の目前1メートルほど離れたところに本は浮いている。


「……ウィズ」


この自立した、地球ではまだあり得ない本の名はウィズ。ウィズは知の魔導書であり、知能を持つ。それであるがゆえに、脳内に言葉をつたえる[念話]が使える。

ウィズには話したいことがあるようだが、それよりも……。


「とりあえず、此処の情報を」

『はいはーい、秋夜は真面目だねー』


パラリ、とページが捲られる。眼前で該当箇所のページが開かれた。

拡大表示された箇所を覗き込む。


####

○地中大迷宮のエントランスエリア


マーレリア王国メルノ侯爵領、迷宮都市ソイン近辺の森に存在する地中大迷宮の第一階層手前の安全地帯。


####


マーレリア王国に、地中大迷宮があるってことは……。


「ウィズ、つまりここは……」

『……リナレ世界みたい、だよ』


あぁ、リナレ世界だな……。

ん?……ちょっとまて。なぜ、ウィズはリナレ世界みたいと言ったんだ?


……まさか。


「ウィズ、機能制限でもされたか」


封印ならば、情報すら知ることができなくなっている可能性のほうが高い。ならば、制限されているのだろう。


『……そうだよ、された』


そう伝えてきたウィズは、見る?と聞いてきた。それに頷きを返す。


####

名前:ウィズ

種族:魔導書

種類:知〈ー〉(制限中〈9〉)

所有者:アキ・イルア

魔力:2535461

気力:678354


基本属性:《無》《全》《有》

技能属性:《鮮麗》


技能:

[紙〈ー〉][知能〈―〉][浮遊〈―〉][変化〈10〉][念話〈10〉][吸収〈10〉(制限中〈5〉)][隠蔽〈9〉][全知〈ー〉(制限中〈9〉)][情報網〈ー〉(制限中〈10〉)][魔導・王〈3〉][武芸・聖〈5〉][インベントリ〈3〉][全状態異常無効〈8〉][所有者固定〈―〉]


称号:

[自立型魔導書][全知の書(制限中〈10〉)][世界を渡る書]

####


空中に浮かぶ半透明の15センチ四方ほどのボード。ステータスと呼ばれるもので、リナレではだれもが持っている技能である。


リナレに存在するステータス表示は、全体的なレベル要素や職業要素はなく、技能と表示されているスキル的要素のものにランクがあるだけである。そのランクは、〈〉内にあり、低い方から、〈1〉~〈10〉まである。〈―〉表示のものはこれ以上上がる要素のないものである。


やはり、制限中とある、か。


「体感的にはどれぐらいだ?」

『2割ぐらい、かな……』


声音的に2割しか使えないってことのようだな。しかも、[吸収]までもが制限されているのか。


「[吸収]まで制限されているのは……」

『[吸収]はかなり応用が利く技能だしね。……多分、人型に慣れろっていうことなんだろうねー』


飄々と伝えてくるるウィズ。ウィズは、ネックレスに変化するのはもちろん、人間に変化することもできる。[変化]が〈10〉であるがゆえ、だ。


『[変化]』


技能を発動させて、赤い光に包まれたウィズは俺の前で人型をとる。紛うことなき美青年がたっていた。髪の色は赤で肩の下で一つにまとめて、背の中ほどまであるほどに長く、目の色が煌めくターコイズブルーの美しい10代後半に見える童顔だ。ウィズは、茶色のズボンに、白を基調とする赤のシャツ、紺に白の線が入ったベストを着ていた。

手を握ったり開いたり、その場で軽く飛び跳ねたりして、こてんと首を傾げた


「んー?魔力も制限されてるっぽい?」


あぁ、そういえばウィズのステータスには250万ほどと記載されていたが、本来はもっと多かったはずだ。


「魔力も2割ぐらいか?」

「そーみたいだよ」


ってことは、やっぱり俺も制限されているっぽいし、こっちに来てから感じている気だるさは気のせいとか移動酔いではなく、魔力の制限とかにあったってわけだな。

ウィズも胡坐をかいている俺と同じように座って胡坐をかき、膝に頬杖をついた。


「秋夜……アキは、ステータス見てないの?」

「あぁ、まだだ」


そういえば、学校に通う生活の中で、こういったことは起きるはずがないと思っていたから、ステータスを見るという思考が抜けてたんだ。……やらかしととらえられてもおかしくはないレベルだな……。


『[ステータス]』


ウィズの時と同じように半透明の青っぽいボードが空中に現れる。このままだと、ウィズには見えないので。


『[ステータス]公開、対象:ウィズ』


####

名前:アキ・イルア

種族:人

体力:248687

魔力:32546814

気力:6715358


基本属性:《無》《全》《有》

技能属性:《鮮麗》


技能:

[直感〈3〉][隠密〈10〉][神体〈1〉(制限中〈10〉)][最適化〈ー〉(制限中〈10〉)][完全隠蔽〈ー〉][天限突破〈ー〉][完全解析〈ー〉][魔導・神〈1〉][武芸・帝〈10〉][気道・帝〈10〉][インベントリ〈ー〉][全状態異常無効〈ー〉]


称号:

[世界を渡る者]

####


あれ?

表示……記載内容から、かなり変わっている?

しかも、技能がかなり減っている、様だ。


ウィズも俺のボードを覗き込んで眉をひそめ、首をかしげている。


「……かなり変わってない?」

「情報量が制限されている、様だな。ウィズから見た俺のはどうなっている」


ウィズは、[全知]によって、人のステータスさえも見ることができた。今はどうかはわからないが。


「んー、[鑑定]とかと同じようにしか見えない」


こんな感じ?とウィズは空中に映し出す。ステータスのボードと同じようなものが空中に投影された。光魔導の応用、だな。


####

名前:アキ・イルア

種族:人

####


うわ、ずいぶんと簡素だな。というか、体力や魔力、気力も見れないのか。


俺の思ったことを[全知]か顔色かで察したのだろう。苦笑を不機嫌に変えた。


「……アキの言いたいことはわかる。ひどいよね、これ!!まさかの[鑑定]の〈2〉ぐらいだよ!!」


憤慨するウィズ。


あー、まぁ、ここまで落ちていれば憤慨するわな。ま、俺もかなり落ちているんだが。


「それにしても、この状態はなぜ起こったんだ?」


俺としてはこれが一番の肝である。

実行した可能性が高い存在はいくらかあげられるが、絶対このかたという存在は今はいない。より問題となるのは、理由が不透明すぎるということだ。ウィズに調べてもらうこともできない。


……まさか、ウィズに調べられないように制限を施したのか。


なら、実行した存在にとって問題となったのはウィズに調べられること。でもって、ここまでの制限をかけて、俺たちを鍛えなおそうとしている……?


「ん?」

「どうした、ウィズ」


俺が思考に耽っている間にウィズは[インベントリ]内部を見ていたようだ。その証拠にウィズの隣に黒い20センチほどの穴が開いている。

そこからウィズは、手紙を取り出した。


「これ……僕、知らないんだけど」


そもそも、ウィズは手紙を出すようなことはしなかったし、もらったとしても封筒から出して保管する。まぁ、そもそも保管する必要すらない。

丁寧に封をされたそれは、ウィズが手紙を書かず、紙の束として保管する、もしくは保管しない以上ウィズのものではない。

手紙を裏返したりと検分するウィズ。


「誰からだ?」

「封筒には何にも書いてないよ……開けていい?」


ちらりと横目で俺の顔色を確認するウィズは、俺の[直感]を当てにしているのだろう。


「特に危険もなさそうだし、いいんじゃないか」


すっと封筒の端に手を当てる。技能の[紙]でも発動したのだろう、封筒の端が切り取られる。中身は真白な便箋が1枚。


「ん?」


さっと目を通したウィズは眉をひそめた。


「どうした」


ヘッドフォンの線を抜き、スマホと共に鞄の中に仕舞う。

2、3回と目を通したウィズ。ついにはため息をついて、俺に手紙そのものを渡してきた。


####

ウィズとアキへ


地中大迷宮を攻略しなさい。攻略したこと、なかったでしょう。きっといいことがあるわ。

####


は……。


「これだけ、か?」


嘘だろ?差出人の名前も痕跡もなし。ただの指示書じゃないか!


「まさかの、だよ……しかも僕は[情報網]と[全知]を制限されてる。今、差出人を辿るのは確実に無理だね。あとになって辿れるとも限らないけれど」


破棄したい気持ちを抑えて突っ返せば、ウィズは[インベントリ]内に封筒ごと放りこんだ。さすがに封筒も捨てるのはまずい。あとで差出人を辿れる可能性のあるものなのだから。

ウィズの考察はもっともだ。もっともだが、このおかげである程度は絞り込めた。だが、ここまでして名をのせないとなると、相手方は綱渡りなことをしでかそうとしているのかもしれない。


「そうか。で、のるか?」


にやっと笑ってウィズを見やる。

差出人の意図にのって、地中大迷宮を攻略するか、それとも、地中大迷宮にはいかないか。


数秒押し黙って真剣に考え込んだウィズ。ちらっとオレの顔を見て、同じように、にやっと笑った。


「のろうよ」


やっぱり、ウィズと俺は似た者同士だ。

にやりと笑いあう。


「んじゃ、行くためにも準備しないといけねーな」


鞄を[インベントリ]にしまい、[インベントリ]からとある魔導道具を取り出す。その魔導道具はブレスレット型で、銀の細いチェーンと黄色の魔石を使ったものだ。一応の名を[カスタムチェンジ]という。カスタムチェンジという名の魔法道具は登録した服やコーディネートを現在着ている服装の場所と入れ替えるという効果を持つ。つまり、外で脱がなくても着替えられる便利道具、というわけだ。


『[カスタムチェンジ]パターンA』


問題は、コーディネートの服がいろんな場所に散らばっていると、着ていた服もいろんなところに散らばることになることだ。まぁ、今回は着たい服は全て[インベントリ]内に全てあるので、問題はないだろう。


白い長袖のカッターシャツに、白に紺のアクセントの入ったVネックのニットベスト、紺のブレザー、鈍色のスラックスが、俺の着ていた高校の制服。


それらが、白い光に包まれて、半袖の黒いシャツに、白の地に水色のアクセントが裾や袖口などに入った長袖の腰まで覆う長めのフード付きパーカー、茶色いチノパン、ベルトと一体型となっている腰につける茶色のポーチへと入れ替えられた。


ここらの気候は日本で言う春の気温。肌寒くなく、どちらかといえば長袖はいらない、それぐらいの温度だ。


ウィズは俺の着替えに目を細めていたのをやめて、俺の顔を指さした。


「あとは、髪と目の色、もどさないの?」

「あぁ、いまからもどすさ」


断じて忘れていたわけではない。魔導道具を[インベントリ]に戻す。壊したくないし、持っていてもあまり使わないから。


『染色、解除』


そう呟けば、すぅと髪の毛から、黒い色が消えていくのが左目にかかる髪の毛でわかった。


「やっぱり、アキはこの色だよね!」


俺の、本来の髪の色は紺。右目は銀色で、左目は金色のオッドアイだ。


「なんか微妙に違和感があるんだけどなぁ…まぁいいか」


俺としては、まぁまぁ長い間黒髪だったので左目に映る紺色の髪が少々変に感じる。まぁ、それもすぐに薄れるだろうが。


立ち上がり、一応体の確認をする。

首元のもう一つのチェーンを手繰り寄せ、外した。


『イハル[リターン]』


チェーンは光に包まれて、手のひら大の球となり、俺の横で漂う。


「アキのそれを見るのも久しぶりだねー」


イハルは、日常で使うことはないからな。


イハルは知能こそないが、魔導道具であり、武器であり、武具である。今でこそ、透明な球にしかみえないが……。


浮き上がって、ウィズは地に足をつける。そもそも、魔導書の種族特性に[浮遊]があるので、ウィズは地に足をつける必要はないのだが。


それを見届けて、俺は声に出す。


「今後の目標は、制限の解除かつ、俺らの最高値の取り戻しでいいな」

「もちろん」


間髪を入れずに、笑顔で告げるウィズ。


なんとなくで、右を向く。

変わらない巨大な木々が、ただただ無秩序に配置されていた。


「じゃあ、いこうか」


足を踏み出し……て、元に戻す。


振り返り、ウィズの顔を見た。


「なぁ、地中大迷宮の入り口ってどこだ?」


ウィズの表情が固まったのち、大きく崩れたのが見えた。





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