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最初の仲間

 画面上には勇者の仲間を選択する別窓が出ているが、一つ気になる事を思い出した。仲間になる順番だ。それと合流する時期。大陸の端に居る奴を選んだ場合、そこまで少人数での移動を余儀なくされる事になる。途中でやたらとHPの高い敵が居る地域を通過しなければならない場合、それまでに僧侶と魔術師が仲間になっていなければ戦闘は困難を極めるだろう。


「なぁ、これって選んだ順番で仲間になったりするのかな?」

「それは無いんじゃないかな?ほぼ同時期に【仲間の証】が出る訳だし、僕達もそうだったはず。それにどれからも選べる仕組みになってるって事はそこまでの縛りは無いと見て良いと思う」

「場所の方が重要じゃないの?合流し易い場所から進んで行くのが当然だし、魔法耐性が高い敵の地域を通るなら私よりもガロウランみたいな仲間が必要よね」

「当然その逆も有るな。変に打たれ強い敵や物理攻撃が効きにくい相手にはエルミノみたいな魔術師は必須だ」

「複数から襲われる傾向の強い場所はアンナが居なかったら間違いなく詰むね」

「私達もそうだったけど、敵には飛行型もいますからね。そこまでにオルバスみたいな仲間が居なかったら一方的に負けかねませんね」


 つまり、配置の仕方によっては相当に難易度が上がってしまう訳か。あれ?でも俺は仲間の居る場所なんて知らなかったぞ。頼まれた依頼を熟していたら自然と皆とは逢えた様に思う。んん?どういう事だ?


「俺達もだけど、他の仲間がどこに居るかなんて知らなかったよな?誰か知ってた奴って居る?」

「そう言えばそうね?何かの依頼で来た貴方を偶然見つけて、皆その都度合流した様に覚えているわね」

「・・・そうなると、誘導も含めて僕らが考えなきゃいけないって事になるね。これ結構予想してたよりも随分と難しいんじゃない?」


 勇者が依頼されるクエストまでこっちで用意しなければならないって事だ。大半は魔物による襲撃が原因だったからな。そう考えるとこの自由に魔物が配置出来るシステムも納得出来る。良くこんなの考え付いたものだ。


「そうか・・・なるほどな。考え方が逆なのか。特定の魔物が出没する地域って考え方じゃなくて、俺達がそこに出現する魔物を選べるわけか」


 勿論、魔物によって気候や地域特性での有利不利は有る。だがコマンドで動く駒に過ぎないので火山地帯にアイスドラゴンを呼び出す事も可能なのだ。


「へぇ、そうなると僕らの選択が彼らの冒険の難易度を決められるって事になるね」

「大筋ではそうね。でも私達の思惑通りに動いてくれるとは限らないし、勇者達以外の種族はどこも勝手な考えで動くんじゃないかしら?」

「どこも種族同士は仲違いしてたみたいだからねぇ。都合の悪い動きを始めたら僕らで大人しくさせれば良いんじゃない?」

「いや、勢力的に弱くなり過ぎると駄目だって話だ。そこの丸い表示が暗くなると魔王城に入る事が出来なくなる仕組みになってる」

「勇者達以外も僕らで誘導する必要が有るって事だね。これ相当難易度高くない?」


 そもそも使徒が『任せた奴らは持たなかった』と言ってたぐらいだ。生易しい内容な訳が無い。出来るだけ安全マージンは取って運用するのが良いだろう。安易に冒険するのは危険だ。慎重過ぎるぐらいが丁度良いと思って臨む方が予想外の失敗をしなくて済む。

 それにこれだけ勇者関連の選択肢がこちらに有ると言う事は、一番厄介なのは勇者以外だと考えるべきか。『どこでも最終的に人族が勝ち残る』とも言っていた。優先的に弱体化を図るのは人族と言うことなのだろうな。


「今のところはどの勢力も動きが無いから様子見でいいだろ。それより仲間の選択を済ませようぜ。勇者はまだ弱いから誰かを早めに合流させた方がいいんじゃないか」

「そうだね。この世界の事は全然分からないだろうし、何をするにも不案内なはずだ。最低限の知識を学んでもらう為にも誰かを付けるべきだね」

「序盤で死なれても困るから、回復出来る僧侶をまずは合流させるか。確か俺の時も最初の仲間はアンナだった気がするし」

「そうでしたね。私の場合は【仲間の証】が既に出ていた事で司教様から紹介されたのが切っ掛けでした。マリウスもまだ勇者という雰囲気では有りませんでしたね」


 俺がアンナと逢ったのは装備も碌に無いぐらいのかなり最初の頃だ。立寄った街の教会で紹介されたんだっけかな。彼女はその街の司祭見習いの一人だった。現地ガイドを兼ねて回復役に面倒を看させる。確かに無駄の無い配置と言える。


「じゃあ俺達もそれに習おう。スタットヒルに近い街に居る候補から選ぼうか」


 【僧侶】の候補者リストを開くと三人分の画付きデータが表示された。ステータスはどれも似たようなもの。スキルも代わり映えしない。この中で最も近くに居るのは・・・とこいつだな。【ナディア:司祭見習い 格6】ね、現在位置はスタットヒルから少し離れたヘーベルタウンの教会。街まで移動するに当たって危険な要素も無いし、特に問題は無さそうだ。


「この娘でいいかな。皆はどう思う?」

「良いんじゃない?他を選んでも大差無い感じだし、早めに合流出来れば彼らの危険も減るからね」

「問題は勇者がそっちに向かってくれるかってところね。何かで誘導する?」

「どうかなぁ、これだけ近くなら逆に勇者の所にこの娘から行ってくれると有難いんだけどね。既に勇者の出現は噂になってるはずだし」

「【仲間の証】が出れば自ら合流してくれる期待も有るね。選んでから暫く様子を見て、それから考えようよ。やり方はいくらでもあるんだしさ」

「じゃあ最初の仲間は【僧侶】のナディアさんに決定で。頑張って頂きましょうかね」


 タップして【決定】を選択すると彼女の画付きデータが金枠表示に変化した。良く見ると【ナディア:特別職(僧侶) 格6】とクラス表記も更新されている。ステータス欄にも幾つか増えているな。どれどれ・・・【必要経験量低下】【クラス特性強化】【成長制限解除】【加護】が追加か。仲間に指定される事で項目が足される仕組みらしい。なるほど、勇者の仲間がやたら強いのはこういう絡繰りが有ったからなんだな。


「ほう、こういう仕組みだったのか。確かに強くなるのが変に早いとは思っていたが、これで納得だ。ま、とっとと強くなってくれないと困るのはこっちなんだがな」

「僕らの強さは一般人から見れば異常だったろうからね。味方だって分かり切ってるから何も言われなかっただけでさ」

「そうね、力だけ見たら魔物と変わらないもの。見た目が違うだけなのにね」

「加えてさ、やりあってる最中は気付かなかったけど、冷静に考えたら数人で大量の魔物を捌くって、相当な力の差が無いと不可能な事を平然とやってたよね」

「で、相当な差が無いなら何故出来ていたのか?出来る様に加減されてたからって結論になるわな。良く今まで誰も気付かなかったものだよ」

「皆の頭に【勇者=無敵】の刷り込みが有るからね。多少疑問に思っても基本的に他人事だし、深くは考えたりしないでしょうよ」

「だな。味方が強い分には困らん。しかも敵を引き付けてくれるしな」


 何だかどんどんこのシステムの仕組みが分かって来た。立場が変れば見えるものも違ってくる。勇者が敵を引き付けるってのも、実際は勇者に経験を集中させるためにワザとやってたことなのだろう。

 まだまだ俺達が気付いていない絡繰りは沢山有るのだろうな。いや、感傷に浸っていても何も進まない。まずは彼らを合流させなくては。


「さてと、彼らを強くする為に近場に初仕事を用意しておかないとな。どんなのが適当だと思う?基本的に雑魚退治にはなるんだけども」

「【僧侶】って格10までは回復しか使えないから、毒とかの状態異常を使う魔物はダメだね。装備も弱いから硬い奴も避けようか」

「武器にも慣れてないから動きの速い奴も止めた方が良いだろうね。当たると大怪我する奴もダメだと思う」

「・・・なるほどなぁ、そりゃ最序盤の魔物が定番化するわけだ。これだけの条件をクリア出来る魔物なんて数える程しか居ないよ」


 魔物検索から探し出せた適正な魔物は【グリーンスライム】と【ランドワーム】の二種類。陸上型で動きが遅く、特殊攻撃も無い。ちなみにこの魔物はノンアク、つまり自分からは襲って来ない仕様だ。適度に【グラスバグ】で稼がせたらこっちに切り換えよう。

 一般人に狩られても困るから配置場所も見繕っておかなきゃな。まだまだ相手は初心者だし、平らな見通しの利く場所でやらせるか。思わぬ怪我でもされると厄介だからな。


     ◇◇◇◇◇


 ヘーベルタウンはスタットヒルに隣接した文字通りの長閑な田舎町である。これといった産業も無く、一面に畑が広がり牛や山羊が放牧され、収穫された作物を近隣の街で売る事で生計を立てている。住民の大半も歳老いた一線から身を引いた者達ばかり。都市部の生活環境に馴染めず息苦しさを覚えた人々の集う、緩やかな空気に包まれた土地だ。

 ヘーベルタウン教会はそんな町のほぼ中心に位置する場所に在る。住民と同じく歳老いた司祭と修道女が数名で維持しており、見習いとして時折新人が配置される。彼らは余裕のある環境下で経験豊富な先輩達から神に仕える者としてのイロハを学ぶ。実際にはそれは建前で実態は介護を兼ねているとしても、そうなる者達は大抵が身寄りのない孤児であったりするので全体としては上手く回っている。世の中は良く出来ているものなのだ。


「おはようございます、司祭様。膝の具合は如何ですか」

「おお、丁度良いところに来たね。ナディア、悪いけど水を汲んで来てくれないかい」

「分かりました。司祭様、ご無理は為さらないで下さいね。私が戻るまでお一人での作業は危ないのでご休憩なさって下さい」

「いつも済まないね。その言葉に甘えさせて貰おうか。ここで座って待つとしよう」


 川から水を汲んで来る作業は年寄には些か辛いものがある。見習いのあの子には申し訳ないところだが、お願いする他無い。その分、早く一人前に成れる様に修行を手伝ってやる事にしよう。あの子はまだ初期の回復魔法を覚えたばかり、せめて状態異常回復ぐらいは使える様にならねばな。


「では行って参ります」


 荷車に空の水桶を積んで川へと向かう。最近はこれが朝の日課と成りつつある。孤児院を出て直ぐにこの教会で暮らす事になった。幸いにも私には神聖魔法の才能が有ると分かり、こうして日々生きていける。中には何の才能も無く、路頭に迷う子達も少なくない。誰しも必ず何か才能を持って生まれる訳ではなく、仮に持って生まれたとしてもその程度の差に苦しむ事になる。中には複数の才能に恵まれる者も居て、その場合は程度に依り王家に囲われる事と成る。この先天的才能というモノにその人の人生は左右される。


「『ギフト』かぁ・・・何にもないよりは良いけれど、私みたいな半端な神聖魔法の才能じゃ精々が田舎の修道女か治療師ってとこよねぇ。つまんないわぁ」


 この生まれながらの才能は『神からの贈り物』という意味でギフトと呼ばれている。後天的に変化する事が無く、全く血筋に影響を受けない。屈強な戦士の両親から大魔法使いが生まれたりするのだ。そのランダム性故に才能が無くても虐げられる事は無い。そもそも何かしらのギフトを持って生まれるのは全体の半分も居ないからだ。極稀に複数の強力なギフトを持って生まれる者も居るが、そうした者は王宮ないし教会の監視下に置かれるため、私達の様な市井の人間が遇う機会は無い。


「才能が有ると言ったって、それが大したレベルじゃないなら無い方がまだ良かったのよねぇ・・・まぁ、これも贅沢な悩みなのかなぁ」


 何かしらのギフトを持つ者は才能を活用すべく決まった職に就き、無い者は市井の中で何らかの職を見つけて生業として生きて行く。ギフトの有無で明確に区別されているのが実情だ。例えば魔法の才能を持って生まれた者が商売人として生きる事は許されない。それは『神への反逆』と見做される。ギフトという明確な『神の思し召し』に逆らう事が有ってはならない。不思議とこれだけは世界中のどの種族でも厳格に律せられているらしい。


「・・・考えても仕方ないよね。今更どうなるものでも無い訳だし、何を朝から悩んでるんだか。まずは目の前の仕事を頑張らないとね・・・よいしょっと」


 川岸に着いたので荷車から水桶を下ろす。二往復もすれば日中の雑務で使うのに充分な量だ。先ずは持って来た水桶を全て満たそう。川辺に下りて澄んだ所から余計な泥が混ざらない様にゆっくりと汲み取る。もう何度も繰り返しやって、今では手慣れたものだ。

 手早く作業を進めて最後の水桶を荷車に載せた時、チクリと左肘の辺りに違和感を覚えた。何だろう、虫にでも刺されたかな?気になって触ってみても特に変わったところはない。気のせいだったか。


「え?え?なに?なによこれ?」


 私の見ている目の前で、左肘の辺りから指先にかけて見たことも無い紋様が刻まれていく。不思議と痛みも何も感じない。紋様は指先に達すると腕の内側に染み込む様にして消えて行った。それだけ?今のは何だったんだろう?腕は何ともないし身体にも特に変化は無さそうだ。気分も悪くはなっていないから呪いの類でも無さそう。


「・・・・・・とりあえず戻って司祭様に聞いて見るしかないか」


 今の私には状態異常回復は出来ない。仮に呪いの類だとしても解呪は大きな町の寺院にしか出来る人が居ないと聞いている。きっとお金も掛かるんだろうなぁ。でもこんなのは見た事も聞いたことも無い。黙っていてもいい事なんか無いものね。まずは素直に相談する事にしよう。

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