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勇者召喚

 俺の名は鬼塚巧。東京在住のどこにでもいる高校生”だった”。予備校帰りで駅へと歩いていたところに突然車が突っ込んできて跳ね飛ばされた。周りは気付いて逃げたらしいが、俺はイヤホンで音楽を聞いていたために反応が遅れた。最後に見たのはハンドルを握った呆けた顔の知らない爺さんの顔。車のウィンドウ越しだったが目の焦点が合っていない様な感じの、何の感情も読み取れない表情だった。


 腰の辺りに強い衝撃、有り得ない速度で景色が回る。身体中に叩きつけられる様な衝撃が伝わり、意識が飛びかけた。遠くで誰かの悲鳴が聴こえる。空が見えるから俺は仰向けに寝ているんだろう。周りを確認したいが首を動かす事が出来ない。起き上がろうとしても体に力が入らない。背中には水浸しになった様な感触があって気持ち悪い。何だか急に寒気がしてきた。視界が徐々に暗くなって、真っ暗になった。眼は動かしているのに何も見えない。音も段々と聞こえなくなってきた。さっきまで気持ち悪かった背中の感覚が消えて、今は何も感じない。そうこうするうちに何も音がしなくなった。音も無く、真っ暗で手足の感覚も無い。無重力の闇に浮かんでいる様な、そんな感じだ。


「まだ若いのに災難だったわね。あなた、私の声が聴こえる?」

 

 急に耳元に話しかけられた。女の声、学校の医務室の先生に良く似ている。


「ああ、大丈夫そうね。巧君、可哀想だけどあなたの人生はこれで終わり。色々としたい事も有ったでしょうけどね」


 淡々と『終わり』と告げたその声に、俺は妙に納得してしまった。


「このまま消えるのがいつもの流れなんだけど、あなたはちょっと早すぎて可哀想だから、特別に選択肢をあげます。違う世界で『勇者』をやってみる気はありませんか?」


 何だ?勇者ってドラ〇エとかゲームに出て来るアレか?


「そうそう、その認識で合ってるよ。話が早くていいね。どうだい、魔王を倒して世界を救ってみない?その気が有るなら勇者として転生させてあげるよ」


 魔王が居るのか。完全にゲームの世界だな。しかし、転生ね。どうやら俺は完全に死んだって事だな。漸く志望校の判定がAまで上がったのに、頑張ったオチが事故死かよ。こんなんだったらもっと遊んでおきたかったな。


「どうする?このまま消えるか、勇者になって冒険するか。選ぶのは君だよ」


 このまま消えるってのは癪だな。今まで色々我慢したんだし、勇者になってゲームの主人公を楽しむのもアリかも知れない。


「どうやら決まった様だね。それじゃあ、勇者に転生ってことでいいかな」


 まぁ、とりあえずやってみてから考えてもいいかな。勇者ってぐらいだから何かしら特技みたいなのが有るだろうし。村人Aにされるよりは面白そうだ。


「面白いかは分からないけど、平凡な生き方にはならないね。そこは確かかな」


 非凡な人生ね。勇者なんだから当然か。退屈しなそうだし、目的が決まっているのは迷わなくて良い分、無駄が無くやれそうだ。分かり易くていいかも知れない。


「それじゃ、了承を得たって判断するよ。頑張って世界を救ってね、巧君」


 目が覚めたら広い野原に一人で寝ていた。肌を撫でる風と草の匂い。さっきまで誰かと話をしていたはずだが、起き上がって辺りを見渡しても誰も居ない。ふと自分の手を見ると見慣れた自分の手ではなくなっていた。


『君の見た目は目立ち過ぎるから変更させてもらったよ。この世界での君の名はオスカーだ。では、勇者オスカー、頑張って魔王を倒して下さい』


 頭の中に声が響く。どうやら冗談の類では無かったってことらしい。

 今の俺はオスカーという名で、勇者。水辺で自分の姿を見たが外見が全く違う。ゲルマン人って感じの見た目で違和感が凄い。服も持ち物も全く覚えの無い物に変わっていて、何が起きたか全然理解出来なかった。


 少し歩いて人が沢山居る所を見つけ、話しかけてみたが、普通に会話が出来た。文字は日本語とは違うのに何故か意味が分かる。理由は分からない。不思議な感じだ。

 宿屋に行くとタダで泊めてくれて食事も出してくれた。宿のおばさんが言うには勇者はそういうものだそうな。部屋に篭って頭を整理したが、分かっているのは今の名前と自分が勇者であること。それと、鬼塚巧は死んだということだけ。


 ここが今まで居た日本じゃないのは嫌でも分かる。地球ですら無いかも知れない。他の人達からは頑張って魔王を倒せと言われる。それが勇者なのだそうだ。

 

「勇者ねぇ。ゲームの世界ってか。その割には貧相な恰好だけど?荷物も無いし」


 ロープレ程度なら幾つか遊んだ事は有る。だから勇者って言葉の意味も理解出来るけど自分がそうなるとはね。夢でも妄想でも無いか、こんなに長いはずがないし。野原で目覚めてから半日ほど経っている。食べ物の味もするし、顔を叩くと痛い。今はこれが俺にとっての現実なんだろう。受け入れて生きていくしかないか。家族も友達も居ない所で一人でやらなきゃいけないのか。そう考えると気分が重い。


「切り換えて行くしかないか。寝てても何も変わらないし、勇者ってことはそこそこ最初から強いはず。ゲームの世界ならレベリングからだよな」


 また死んだら次はどうなるのだろう。次もこうなる?いや、保証は何も無い。そう考えたら死ぬのは無しだな、痛いし。魔王ってのを倒せば勇者で無くなるのだろうか。倒せたとしてその後は?いずれにしろ、今のところはっきりした目標はそれだけだ。他にやることも無さそうだし、そのうち何か見つかるだろう。一人で悩んでても解決するわけじゃない。気晴らしに外に出て風にでも当たろう。


「夜は暗いな。街灯もないし星明りだけじゃ全然先が見えないや」


 宿屋の外に出て空を見上げる。東京とは異なり、一面の星空が広がる。この光景はこっちに来なければ見れなかった景色だろう。澄んだ空気が胸に心地好い。


 魔王か。勇者が倒さなければならないらしいが、どの様な存在なのだろう。街の人達からは逼迫した雰囲気は感じない。魔物が跋扈している風でも無いし、言うほど危険は無さそうだと見える。今はたまたま?昔は酷かったのだろうか?想像がつかない。この辺りが平穏なだけで、少し離れると殺伐とした荒地だったり?そもそも今居る場所がよく分かっていないのだ。この世界について俺は何も知らない。改めて自分が置かれた状況の深刻さに気付いて、軽く顔が引き攣る。


「レベリングより先にこの世界の事を知らないとだよなぁ」


 俺はこの街の名前すら知らない。幸いにも勇者である俺には皆親切にしてくれる。疑いようのない特徴が有るからだ。明日は街の人達に色々と聞いて、最低限の情報を仕入れよう。地理だって一切分からないのだから、とりあえずは地図かな。詳細な物は無いかも知れないが大まかなところぐらいは分かるだろう。


「ま、焦っても仕方無い。今日のところは寝るか」


 もう時間も遅い。何をするにも明日だな。勇者と言っても大抵の人には縁遠い存在のはずだ。親切にしてくれると言っても皆生活が有り自分の都合も有る。迷惑にならない程度に節度を弁えれば気分を害せずに教えてくれるだろう。


     ◇◇◇◇◇


 どうやらそれぞれに俺と同じ現象が起きたらしい。タイミングは多分俺が魔王になった時だろう。目の前の敵が突然人の姿に変わり、光り出して消えた。気が付くと自分の姿が対峙していた敵のものへと変わっていた、という流れだ。

 

 俺は集まった皆に使徒と思われる幼女から聞いた内容を掻い摘んで説明した。


「なるほどね、後から考えると納得出来るところが有りますね。それも沢山」

「え?どういう事?」

「確かにね。ここで追加が来たらヤバいなって時に何故か敵の攻勢が途切れるのが多かったと思わない?」

「それは偶々じゃないか?基本的にHP、MP管理はやってた訳だし」

「それに明らかに無理な格上の敵に遭遇した事も無かったですよね?」

「それは俺達がそういう場所に行かなかったからじゃないか?」

「自由意志で動ける敵が積極的に攻めて来ないのって、自分達に置き換えたら変じゃないです?」

「そうそう、普通に弱いところから攻めるよね。戦術的に合理性が無い」

「しかも大半は自分達よりも弱いのだから普通に蹂躙出来るよね。拠点に留まってる理由が無い」

「魔物だからなぁ・・・俺らとは違う生き物だから特に気にした事もなかったな」

「マリウス、例えば勇者が最初の街で四天王に襲われたらどうなると思う?」

「そりゃあ・・・死ぬわな。何も出来ないだろよ」

「でもそんなのは起きなかった。つまりそういう事なんだろうね」


 俺達の冒険も先代勇者達の演出と育成の賜物って事か。上手い事誘導されて最期まで来たって訳だな。絡繰りを知ってしまうと何ともやるせないが、今度は俺達でそれをしなければならない。出来なければずっとこのままだ。


「そうだったとしてもだ、今度は俺達がその役目になっちまった以上やるしかないだろうよ。んでマリウスはどこまで進めてんだ?」

「ん?ああ、とりあえず勇者を召喚したところだな。今はスタットヒルに居るよ」

「ほほう?お前が召喚したのかよ。やっぱり全部が仕組みとして出来上がってんだな」

「っていう事はさ、勇者PTの面子も僕らが決めるんじゃないか?」

「可能性としては高いわね。聖剣もどこに出すか決めれるぐらいだし」

「なら私達が使っていた装備も予め設定されていたんでしょうか?」

「だと思うよ。だって今僕らの着けてる装備が元はそうだったんだからね」


 確かに今皆が装備している四天王専用装備は、彼らが魔族に変わる前までは各クラスの最強装備だった。態々一つずつ集めて回ったので良く覚えている。


「聖剣同様にクラス最強装備もこっちで配置出来るって事なんだろうな」

「なかなか上手い事出来てるものねぇ。お膳立てが過ぎる感じだけどさ」

「とにかく先へ進めようぜ。次はどうすんだ、マリウス?」

「次は・・・と【仲間選択】だってさ。勇者みたいに表示される候補の中から選ぶのかな?」


 画面上の【仲間選択】をタップすると画面が切り替わって各種候補の選択画面になった。画面左上には【僧侶】【魔法使い】【重戦士】【弓使い】の4つのアイコンが並び、それぞれを選ぶと該当クラスの候補が映し出される。なるほど、やはりこっちで全部決める仕組みらしい。


「魔族が魔王含めて5人しか居なかった理由も判明したね。勇者達が毎回似たような構成になったのも納得さ。全部決まってた事だった訳だ」

「勇者が軍勢を率いても良かった訳だしな。仲間の人数が4人までって不思議だったし」

「あれ?そんな伝承というか、伝説みたいの無かったっけ?」

「後付けだったんじゃないの?そもそも大勢力に5人で挑むってのが変だし」

「そうね、まだ大陸の全勢力が一丸となってって話の方が理解出来るわ」


 確かに魔王討伐は勇者の仕事みたいな雰囲気はずっと有ったな。実際、魔王城に入れるのは勇者一行だけなんだがね。正確には5人しか入れないってだけなんだが、他の連中が入った話は聞かない。

 まぁ、これは最期まで体験した俺達だから考察出来るってだけなんだろうがね。何の情報も無い状況なら何も疑問には思わないだろう。


「そういやさ、クリア後って皆はどうなるって聞いてる?」


 俺はこのクソゲーから解放されて生まれ変わる権利を得るって事なんだろうが、彼らはそもそもこの世界の住人だ。俺とは扱いが異なるはずだよな。


「僕は元居た街に戻るって聞いたよ。冒険中の記憶はほぼ消えるみたいだけどね」

「アタシも同じね。【仲間の証】が発現する前の状態になるらしいわよ」

「俺が聞いた内容も同じだな。完全に戻るわけじゃなくて、一般人より少し強い程度にはなってるって話だ」

「私は早く元の生活に戻りたいです・・・こんな姿は我慢出来かねます」


 皆は元の状態に戻るってことなんだな。アンナがやたら凹んでいるのは、彼女だけが宿敵とも言える姿に変わったからだろう。他の3人はそれぞれのクラスに該当する魔族なのに彼女のみ死霊系魔族なのが少し哀れだな。そもそも相手にしていた四天王への入れ替わりなので仕方無いんだろうけど、【ダークプリースト】とか無かったんだろうか。まぁ、ロール(役割)的な問題なんだろうな。そもそも敵側に回復キャラがいたら難易度が跳ね上がってしまうし。


「そういや【仲間の証】ってもう出なくなったよな?」

「そう言えばそうね。まぁ、今更って感じではあるけど」


 【仲間の証】ってのは、仲間に選ばれた者は左腕に勇者と似たような紋様が出せる様になるんだが、その事だ。これが有るので勇者の仲間は間違いようが無いとも言える。やってみると俺も【勇者の証】は出なくなっていた。


「これから俺達が選んだ奴に【仲間の証】が出る様になるんだろうよ」

「辻褄を合わせるとそうなるね。それじゃ、早速選定といこう。ホントの意味で選ばれし仲間なのは面白いね。ただし、選ぶのは神様じゃなくて僕らなんだけどさ」


 それじゃあ、この出来レースに付き合わせる奴らを選ぶとするか。とは言え、強くなれそうな奴を選んでおかないと苦労するのは俺達だ。ここで適当に選ぶわけにも行かない。何度もやりたいとは思わないし、俺も皆も早く解放されたいのは同じだ。慎重に皆の意見を聞きながら選ぶ事にしよう。

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