魔王降臨
「これでどうだぁぁぁぁ!」
俺の剣が奴の身体を貫いた。確実に心臓をブチ抜いたはずだ。
「ウゴオァァァァァァ!」
奴の身体から力が抜けていくのが分かる。やった。俺達は勝ったんだ!
タタタタ~ララ、タッタタ~、パ~パ~パ~パッパラッパパ~パ~ラ~パラパ~♪
「お疲れ様でした。無事勇者は魔王を討伐出来ました。条件達成を確認しました。これより引き継ぎ処理に移行します。」
派手なファンファーレと共に機械的なアナウンスが響き渡る。何だこれ?場違いもいいとこだぞ。予想外の展開に頭が付いて行けてない。
「何だ?これはどういう、何が起きているんだ?!」
今さっきまで俺の手で握っていた剣が消え、目の前の魔王が人へと姿を変えていた。
何だ?何が起きた?どうして魔王が居ない?この男は誰だ?何故俺に笑顔を向けているんだ?その達成感に満ちた顔はどういう事なんだ?
「いやぁ、長かったなぁ。マリウス君だっけ、良くやってくれたよ。途中結構ヤバかったりもしたけどさ。こっちもギリギリで切り抜けられて助かったわ。さすがは選ばれし勇者だね。根性見せてもらったよ」
俺の事を知っている?誰だこいつは。さっきからえらく馴れ馴れしいな。
「誰だ、お前?魔王は何処へ消えた?今何が起きている?」
「うはぁ、俺の時と全く反応同じかよ。まぁそうなるよなぁ。分かる、分かるぞ」
何とも言えない表情で頻りに頷くと男は話し始めた。
「これでやっと解放されるわ。お前も頑張ってくれ。大丈夫、一人じゃないからさ」
はぁ?何言ってんだこの人、話の意味が理解出来ないぞ。って急に輝き始めた?
「お、解放が始まったか。じゃあな、頑張れば何とかなるから諦めんなよ!」
そう言い残して男はその場から消え去った。後には何の痕跡も残っていない。
何だ?全く理解出来ない事態が起きている。頭がおかしくなりそうだ。
「何だったんだ・・・訳が分からんぞ」
急展開過ぎて理解の範疇を超えている。頭を押さえて顔を上げると視界に見慣れない物が映った。いや?つい最近見た様な・・・ってこれ俺の手だよな?
「なあっ?はぁぁぁぁぁ?」
周囲を見渡すと壁際に大きな姿見を見つけた。そんな馬鹿な!有り得んぞ!頭で否定しながら急いで駆け寄る。
「うあああああああああ、何だこれぇぇぇぇ」
姿見に映る姿は俺ではなかった。俺は魔王になっていた。
一気に頭の中が真っ白になった。自分の身に何が起きたのかが理解出来ない。どうしてこうなった?俺はさっき魔王を倒したはずだ。その魔王に何故か俺がなっている。意味が分からない。愕然としてその場に崩れ落ちた。余りのショックで足に力が入らない。
ダメだ・・・落ち着いて整理しよう。とりあえずあそこに座るか。目の前の椅子まで這い蹲って進む。何とか手摺を掴んで身体を持ち上げる。身体を椅子に投げ出し、背もたれに体重を預ける。
「ふぅぅぅぅぅ」
深呼吸して大きく溜息を付く。これからどうしたものか。
ピンポンパンポ~ン♪
「引き継ぎ処理が完了しました。只今より新規BOPを開始します」
緊張感の全く無いチャイムと共に無機質な機械音声のアナウンスが流れる。
何なんだ、これは。勝手に何か始まったらしいが、一体何のことなんだ。
「チュートリアルを開始しますか?」
何だと?一応は手引きみたいなものはあるらしいな。丸投げされて手探りするよりは遥かにマシだ。とりあえずはどうしていいか分からない現状を何とかしたい。ここは情報を少しでも取りにいくべきだ。
「やってくれ。それとBOPって何の略だ。そこから頼む」
無機質な音声案内に答えると目の前に突然光の玉が現れ、一気に弾けた。思わず手で顔を覆う。爆発?いや、衝撃は無い。光っただけの様だ。
「くっ・・・眩しい、今度は何だ?」
「BOPとはバランスオブパワーの略じゃ。力の均衡という意味じゃの」
子供の声?いきなり出てきやがったな。しかも目の前に居るらしい。手をどけると相手の姿が見えた。声の主は変った格好をした小さな女の子だった。
「マリウス、いや、ショウと言った方が良いかの。察しが良い者はこの時点で大概は気付くのじゃが、お主はどうかの」
何だと?俺をそう呼ぶってことはこいつはあの自称『神』の代理か。所謂使徒って奴だな。魔王討伐でも大変だったのに、まだ何かやらせるつもりらしい。
「そう睨むな。どうやら察しは悪くない様じゃな。ここからが本番というわけよ。充分に冒険は満喫出来ただろうしの」
ニヤニヤと嫌らしい笑い方をしやがる。何をさせようってんだ。
「お主にはここで神の代行者として采配を振るってもらう。最終目標は『勇者に討伐される事』じゃ。それの達成をもって全ての試練を終了したと認める」
采配って何のことだよ。しかも目的が殺される事って。全然理解出来ないんだが。
「まぁ、簡単には理解も納得も出来まい。先程役目を全うした貴奴、タカユキと言ったかのう。無事に魂を解放された様じゃぞ。おぬしも見たであろう?」
さっきの光って消えた男のことか。良く分からん台詞を残して居なくなったな。『頑張れば何とかなる』って・・・まさか・・・いや、そうとしか受け取り様が無いか。
「少しは落ち着いた様じゃな。おぬしの予想通り、目標が達成出来れば同じ様に解放される。実際に目で見た通りにの。ここまでは良いかの?」
顔を上げて彼女を見つめる。薄ら笑いを浮かべているが眼は笑っていない。どうやら冗談の類じゃなさそうだ。選択肢も・・・当然無いだろうな。
「なかなか理解が早くてよろしい。では具体的な説明に移ろうかの。一度しか言わぬからしっかりと聞いておくのじゃぞ」
ドヤ顔で俺を見ている幼女に軽く殺意を覚えたが、ここはどうにもなるまい。良く見ると奴には影が無い。つまり実体がそこに無いということ。目の前のこいつは単なるメッセンジャーとして投影されているだけだ。
「この世界は幾つかの種族で構成されておる。それぞれが相性の良い者達と組み、力を合わせて国家を為している。ここまでは知っておるの。そのどれとも敵対する存在として魔王率いる魔族が存在する。魔族や魔物とはコミュニケーションが成立しないため、遭遇したら殺すか殺されるしかない。分かり易い世界じゃの」
まさに俺が冒険して来た世界だ。敵を狩り、強くなって最終的なボスを討伐する。RPGの定番中の定番だ。
「口頭で説明しても難しいじゃろう。ここからは見て理解してもらおうかの」
そう彼女が口にすると、俺の目の前に半透明の大きなディスプレイが湧いて出た。何だこれ?大陸の勢力図と人口現況って、しかもリアルタイムで変化するのかよ。
「おぬしが見ているのが世界の現状の全てじゃ。望めば拡大して詳細まで分かるぞ。ただし、あくまでも情報として見えるだけじゃがな」
画面上にはこの世界における全体図と各国の勢力分布が色別で表示されている。国境線まで表現されているのか。これは疑いようも無く神の手に依る物だろう。
「画面の中央上部に表示されている数値が見えるかの?それはこの世界のマナの量を表しておる。この世界はランクBだから総量は1億じゃな。今の残量は2千万ちょいと言ったところかの」
数値は上がったり下がったりと安定しない。常時変り続ける性質のものらしい。世界にランクが有るなんて初めて聞いたぞ。つか、残りの8千万はどうしたんだよ。
「マナは知的生命体の発生と共に消費される。当然、消滅すれば還元されるがの。生命体の格に依って消費されるマナの量は異なる。強いものほど消費も増える。この世界では現状で8千万程度が消費されているということじゃの」
世界全体の人口で8千万が消費されている訳か。強さもバラバラだから案外と多い様で少ないとも取れる。
「分かり易く例を挙げると、一般人が概ね10~20程度じゃな。子供は10も使っておらぬはずじゃ。消費されるマナ量で格が決まる。何となく理解出来たかの?」
レベルみたいな概念だな。上限値とかは有るのだろうか。
「ちなみに一個体における格の上限は1000。今のおぬしが当にそうじゃな。勿論じゃが、各個体にはそれぞれに最大値が定められておるぞ」
まぁ、そうだろうな。魔王級がそんなに居たら対処しようがない。
「残りの2千万程はおぬしが好きに使って良いぞ。これからはそこの数値が己の財布と考えて良いだろうの。ただし、よくよく考えて使わないと困った事になる。安易には使わぬことじゃな」
俺一人でそれだけ使えれば何でも出来そうなものだがな。そう簡単には行かないか。
「今からその理由を教えてやろう。マナを消費して生み出したものは残り続ける。つまり、死ぬまでマナに還元されないのじゃ。世界のマナ総量は固定値じゃからな。使い切った場合、単純に新たな知的生命体が発生しなくなる。まずこれが一つ」
世界人口に歯止めが掛かる訳か。同時に一切の格が上がらなくなる現象が起きる。いや、人は少しづつでも成長はするものだ。となると・・・。
「想像出来たようじゃの。世界構造を維持するために各地で天災が多発する。強制的なマナを回収する事態が世界中で起こるのじゃ。そんなに甘い造りには出来ておらぬわ」
対策は当然有るか。それも結構容赦無いのが。
「そして魔王が生み出せるのは魔物のみ。これが2つ目じゃな。何をどれだけ生み出すかは任意に選択出来るが、消費したマナは対象が生きている間は戻って来ない。魔物には指示が出せるが、実行可能な命令はそれぞれ決まっている。一度出した指示は撤回出来ない。動き出したら変更も利かない。実行中は完了まで次の指示を受付けぬのでな」
自由な様でかなり制限の有る機能だ。取り消せないのは相当厳しいな。
「おぬしも経験済みじゃが、戦って倒せば自身の経験となって格が上がる。これは魔物にも適用されるのじゃ。加えて魔物同士は全て同族意識を持っているので、絶対に相撃する事が無い。自分で自分の駒を獲ることは出来ぬということじゃ」
将棋でもチェスでも自陣の駒を自分で倒すことは出来ない。それと同じか。同士撃ちが出来れば自由度が相当高かったんだが、そんな抜け道は無いってことだな。
「自由に使えるマナを増やしたければ、現存する知的生命体を殺すしかない。死ねばその分だけマナが世界に還元される。魔物も倒されればマナに還元されるのは同じじゃな。当然、格の高いものほど多くのマナが還元される。ここで注意しなければならぬのは、勝ち残った方は格が上がってマナの消費量が増えるという点じゃ。高位の存在ほど多量のマナ消費を必要とする。ここを見過ごすとほぼ詰むぞえ」
遭遇した中に次に遭った時には強くなっていた魔物がいたな。アレがそうか。しかし、弱い奴を育てて安く使う作戦は駄目だって事だ。意外と隙が無いな。
「マナについてはこのぐらいかの。次は画面下の表示を見るのじゃ。丸いランプの様な表示が有るじゃろ、赤青黄緑と4色の光具合は地図上の各国家の繁栄具合と連動しておるのじゃ。具体的には人口と領土じゃな。今はどれも点灯しておるが、衰退すると同時にこちらも光が弱くなって暗くなる。どのランプがどの国と連動しているかは地図上の色で判断出来るじゃろ。ここまでは良いかの?」
世界地図では帯状の一つの大きな大陸に4色の勢力が存在することを表示している。少し離れて下方に若干広い島の様な陸地が有る。今まさに俺が居る場所がそこなんだが、どの色も表示されず、やや暗くなっている。
「ここまで来れたおぬしらの承知しておる通り、ここは魔王の領地なのでどの色にも表示されぬ。それと地図を良く見るがよい。この地は薄く丸で囲ってあろう」
そう言われて画面上の地図を良く見ると確かに薄く丸で囲んであるな。何だこれ?
「これは障壁じゃ。4色のランプが全て点灯している間は何も起こらんが、どれか一つでも暗くなると瞬時に発生して、外部からの一切の通行を阻害する働きをする。あ、魔物は通過出来るぞ。おぬしの持ち物なのだから当然じゃな」
これは初めて聞く内容だな。大陸国家のどれか一つでも滅亡したら魔王領には入る事が出来なくなるって事だ。被害を与え過ぎたらランプが消えてしまう事もあるな。不用意に襲撃し過ぎても駄目って事か。
「おぬしの目的は『勇者に討伐される事』なので、勇者が入れなくなった時点で失敗という事じゃな。そうなった場合は上手く大陸勢力が均衡するように誘導する他ないのう。その時点でかなりのハードモード突入じゃがな」
ハードモードって、つまりゲームオーバーはそもそも無いのかよ。リセットも当然無いだろうな。
「勢力が滅亡寸前になると全ての事象に強力なバフが掛かる仕組みになっておるでな。そう簡単に滅亡したりはせん。最低限の勢力に回復したら、そこからは自然回復になってしまうがの。ランプが点灯する段階まではかなり時間が掛かると思って良いな」
保険としての機能が有るのか。達成不能にならない仕組みが設定されているのは有難いが、出来れば使いたくないな。
「ここでの注意点は、国家同士は仲が良い訳ではないと言う事じゃ。おぬしが手を出さずとも争い合う事は充分に起こり得るぞ。良く観察することじゃな」
「次はおぬしの討伐条件について説明しようかの。勇者が聖剣を魔王の心臓に突き立てたら条件達成じゃ。HPだの何だのと言ったものは無い。そもそもおぬしには一切の攻撃が通じぬからの。唯一の例外が聖剣じゃ。そこはおぬし自身が良く知っておろうの」
いや、確かに聖剣以外は効果が無いって聞いてたけど、魔王にHP自体が無いって初めて聞くんだが?
「聖剣は格が1000に到達した者しか扱えない。この世界で格の最大値が1000に至るのは魔王と勇者だけじゃ。格が1000に達した勇者が手にする事で初めて聖剣は活性化する。活性化する前はただのそこらの鉄剣と大差無いナマクラじゃの。当然、魔王を叩いても傷一つ付かぬな」
何だその罠みたいな仕様は。運良く序盤で手に入れても役に立たないって事だよな。見た目が豪華だから捨てたりはしないだろうが、売り飛ばされる展開は普通にあるぞ?
「魔王と成ったおぬしは聖剣の初期配置場所を選ぶ事が出来る。これは暫く保留することも出来るので、後で良く考えてから決めると良いぞ」
ほう、地図上で何か所か候補地が点滅している。この中から選べってことか。
「最後におぬしについて説明しておかぬとな。まず、おぬしはここ魔王城から出れぬ。具体的にはこのフロアから一歩たりとも外へ出る事は出来ぬ。これは確定事項で一切の変更は認められん。最初から格が1000も有る者に好き勝手に動かれては困るのじゃ」
何だとおぉぉぉぉぉ、マジか!ふざけんな!軟禁じゃねえか、最低だ。
「おぬしはこの城の中において不老不死の存在じゃ。怪我も病気もせぬ、あらゆる意味で最強の存在じゃの。加えて言うと飢えも渇きも無縁じゃ」
嬉しくねぇぇぇぇぇ、条件達成するまで死ぬことすら許さんってことだよな。こんなブラック過ぎる条件考えた奴はイカレてるぞ。
「だいたいこんなところかの。第一に大陸勢力がどこか一つに偏らない様に維持する。第二に良く考えてからマナを使う。第三に勇者に聖剣を持たせて自身を討伐させる。大きくはこの三点じゃな。まぁ、三点目をクリアするには先の二つは必須条件なんだがの」
つまり、この最悪の牢獄から開放されるには勇者に討伐されるしかないってことか。
「そろそろ説明は終わるぞ。残り時間も少ないからの。何か訊いておきたい事はあるかの。答えられる範囲でなら応じよう。疑問点は残して置かぬ方が良いぞ?」
腕組みしつつドヤ顔で俺に問いかける姿が腹立たしいことこの上ない。
「何でこんなことをしなきゃならん。明らかに罰ゲームじゃないか。俺はこの世界に勇者として召喚され、頑張って魔王を倒した。世界中の人々を代表し、英知を集結して努力の末に目的を達成したんだ。何が問題なんだ?何故罰を受けなきゃならんのだ?」
そう、どうしても納得出来ない点がそれだ。おそらく俺も同様に、達成すれば救済を受けられる。というか、達成するしか道が無いのだから救済するのが確定しているのだ。
では何故この手順を強要するんだ?彼らからすれば結果は同じはずなのに。
「楽しかったであろう?」
は?突然何を言い出すんだ?
「明確な立場と目的を与えられ、世界中から応援され、良き仲間と旅をし、努力を積み重ねて、数多くの試練を乗り越えて達成する。充実感に溢れた時では無かったか?」
そりゃまぁ、確かにそうだったが・・・。
「分からぬか。それ自体が神の慈悲なのじゃ。それほど大きな達成感、充実感を味わえる生涯を送れる者がどれほど居ると思う?しかも大筋では影に日向におぬしを助ける力が働くのじゃ。世に生きる者の大半は、良き立場を得られず、周囲から応援されず、良き仲間に巡り合えず、努力が実らず、試練を乗り越えられずに終わる。現実にはそうではなかったかの?」
ぐぅの音も出ない。全くもってその通りだ。厳しい言葉だが否定は出来ない。
「神の代行者を務めるのは簡単ではない。均衡の維持はおぬしが考えるよりも遥かに困難を極める作業なのじゃ。我らはここ以外にも多くの世界を持っておるが、手を出さずにおけば全て同じ展開を辿る。人間が勝ち残り、他種族を全て滅ぼす。それだけに飽きたらず、人間同士で争い続ける。どの世界でもそうなった。この結末を避けるべく何度も挑んだが、我らは疲れ果て、やがて一つの結論に達した。全ての原因は人間に有ると。ならば彼ら自身に代りにやってもらおう。いつしか、そう考える者達が出て来て、世界の均衡調節を人間に代行させるようになった。だが人間は脆い。暫くこの任に着かせると皆が同じく心を病んだ。例外なく精神に異常を来して役に立たなくなった。我は『精神的自殺』と呼んでいるがな。散々好き勝手をし、我らの手を煩わせ、他種族を迫害し、度重なる我らの警告に耳を貸さず、挙句の果てに同種族で殺し合いを続け、その解決を我らに求める。見捨てずに彼らに代行させてみれば、結局最後まで全うせずに逃げる。仕方がないので、救済措置を設けた。それが勇者に依る魔王討伐じゃ。どうじゃ、これで納得出来たかの」
長々と目の前の幼女姿の使徒に説教された。彼女の目に宿る感情は侮蔑、怒り、哀れみと言ったところか。俺に理解出来たのは人間はこの世界の神達に良く思われていないって事だ。しかし大きな疑問が残る。俺はその疑問を解決すべく尋ねた。
「そこまで貴方達を困らせた存在を何故残している。抹消も出来たのでは?」
世界を生み出したというなら消し去る事も可能、神であれば選べたはずだ。
「おぬしは我に自らの子を殺せと申すか。長大な時と多大な手間を掛けて生み出した結果が、少しぐらい目論見通りで無くとも何だというのじゃ。確かにそう考えた神も居たかも知れぬが、生みの苦しみを知る者なればその様な事は有り得ぬよ」
幼女は俺をじっと見つめる。悲しみ、諦め、希望、慈愛、色々な感情を宿した目で。
俺は目線を逸らして俯くしかなかった。自身の浅はかさがただ恥ずかしかった。
「さて、疑問も無いようじゃの。おぬしへの説明はこれで仕舞じゃ。無事に達成して魂が解放される事を願っておるぞ。大丈夫じゃ、おぬしは独りではない。我もそこまで鬼では無いでな。諦めずに頑張るのじゃぞ」
そう言い残して使徒は姿を消した。気が付くと広い空間に俺だけが存在していた。目の前の画面では世界の動向がモニタリングされている。
「はぁ・・・やるしかないか」
どちらにしろ、選択肢は無いのだ。他人の不始末を尻ぬぐいする様で非常に気に入らないが、既に魔王に成ってしまった以上どうにもならない。俺としてはこのシステムを上手く使って自身の魂の開放を目指す。いや、何としても達成しなくちゃな。