第2話 アルティメットうなぎを食べに行こう! その②
“アルティメットうなぎ”とは、一言でいえば、
『究極の生物』
である。・・・とAは言う。
古来より、うなぎは日本人に好まれて食べられていた。
何故か?
それはその効能の素晴らしさにある。・・・とAは続けざまに言う。
・不健康への反乱
・美容への助力
・性力への繋ぎ手
その他、様々な効果がある。・・・とAはさらに言う。
「そのうなぎの最上位に位置する、うなぎ界の首領が“アルティメットうなぎ”であり、ヤツが体内に持つ栄養はこの日本列島全ての生物を集めた栄養値に匹敵するだろう!」
「いや!」
「それすらも凌駕しかねない程の圧倒的な栄養を持っているかもしれない!!」
「そのうなぎを食べること、それすなわち日本列島を食するのと同じこと!」
「ひと舐めで一千万キロカロリー!ひと齧りで一京キロカロリー!一匹丸々食べればなんと無料大数カロリーを摂取することになるだろう!!!」
聞いて私は、ト〇コじゃないんだから・・・と内心、苦笑いをしていた。
さらには、
「その生命力、タフネス、柔軟性、成長性、繁殖力、環境適合能力、変態さは他の生物の追随を許さぬほど優れている!しかも今述べた能力はヤツのほんの一部にしかすぎない!」
「なろう小説の主人公のように、ヤツは一秒単位で進化を続け、今なお進化を続けている!その能力は計り知れないほど!測定不明なのだ!!」
「つまり、ヤツは究極の生物!」
「すなわち、生物界の頂点!“アルティメットうなぎ”様なのだ!!!」
ジョ〇ョじゃないんだから・・・と内心、私は呆れながら思った。
これを柳川へと向かう電車の中で聞かされる私の身にもなって欲しい。
数の少ない周囲の目がすごく痛いよ・・・
―――冒頭で述べてなかったが、私たちが今いる場所は、居酒屋での飲み会から一夜明けた、朝一電車の中である。
地元のマイナー鉄道会社である西々(にしにし)鉄道さんの見事なまでにお客様の乗っていない電車を利用して柳川へ行こうとしているところである。
結局のところ、昨日の居酒屋では“アルティメットうなぎ”の詳細を聞くことはできなかった。
Aが酒を飲みすぎて、頭の中が『くるりんぱ』になってしまったため、朝一電車で詳細を聞くことになっているのだ。
そして冒頭に至る。
そして今ここである。
「・・・究極の生物らしく、セックスは必要なし?」
「いや、するよ。もうそれはガッツリとね。子孫を残すこともアルティメットさ。産卵数は少ないけどね 。( ´∀`)bグッ!」
「ハハハ・・・それはもうハハハだね・・・」
「だろ?見事だろ? 『そんな“うなぎ”を食べる』。これほどの贅沢は地球上のどこを探してもないだろうよ」
そんなテンションギガギガで話すAには非常に大変申し訳ないことであるが、私はこう思う。
食べたくなくなるぅ~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!!
いや、ホントにマジで食べたくなくなる。
Aの話でどんどんどんどん食べたくなくなり過ぎて笑えてくる。
うなぎは好き♡ 超大好き♡
これは私の本音である。だから付いてきた。Aと一緒に柳川へと行こうとしている。
だって“アルティメットうなぎ(笑)”だよ? 普通の鰻ではないんだよ?
家の事情と私の好みで今まで食べに食べてきた鰻たち。
そんな数多くの鰻たちを凌駕すると豪語するAのアルティメットうなぎ話。
そりゃ食べるっきゃないっしょ!と思っていたのだが、Aの話を聞けば聞くほど、段々段々、胡散臭さが増してきた。
(・・・よし! これ以上はゲームの攻略本で先の展開を知るが如く、実物を見た時の感動が薄れそうだから適当に受け流そう!!!)
私はAの話を話半分に聞き流しながら、スマホで時間を確認するふりをしながら、うなぎの有名店を検索しながら、電車に揺られながら、目的地の柳川へと向かうのであった。