この世界の空気のまずさ。
仲間に無線をする、ヘルメットをとる。途端に視界が明るくなる。
「流石に黒くなっちゃったか、」
先月買い換えたばかりのヘルメットだ、しかし、まあそうなるであろう。
頭に水をかけると珍しく花の香りがした。
もうこんな季節なのか、早いな、などとつい無駄なことを考えてしまう。
そういえば、自分の名前は春である。
ご察しの通り、何というか、春という季節に生まれたので名前が春なのだ。
秋でも冬でも夏でもない、春なのだ。
なのに、皆は春という季節を知らない。
心地よい春風とともに、蒸気の脂っぽい香りが鼻腔に突き刺さる。
多分、移動用の列車か何かかだろう。
その時、目の前が真っ暗になって
「お前、生身だろ? 死にてーのか!」
そんな声が聞こえたような気がしたが、意識が飛んだ。
~~~~~~~~~十年前~~~~~~~~~~
「春!」
彼女が呼んでいる。
前を見るといつでも彼女がいて、彼女はずっと、後ろのぼくのほうを向いていた。彼女は美しく、凛としていて白く、自分から見るととてもかっこいい!
「***」
名前を口に出そうとすれば言えるかもしれない。しかし、それは恥ずかしいし、何となく自分が、彼女よりも下に見られてしまう気がして
そっけなく答えた。
そんな日常が続くのだと思っていたものだと思っていた。
が、しばらくして、彼女は死んでしまったらしい。
~~~~~~~~~現在~~~~~~~~~~~
ここはどこだろうか、と思いとりあえず周りを見てみる。
「あっ大丈夫か?」という何とも言えない暖かい声が聞こえた。
「誰?」
「私?、エキドナっていうの、」
どうやらエキドナという女らしい。見るからに機関士だろう。すこし濃い肌とメリハリのついた体、堀の深い、でも非常に整った顔立ち。身長は、自分が170ないくらいだから173くらいかな?なんて思った。
敵、ではないらしい。
「あんた、あんなとこでヘルメット外したら死ぬよ!何してんの?」
「ああ、ってそんなに死素量多かったか?」
死素量とは、生物が魂を燃やしている時または死んだときに出る物質で、特に戦争などの戦いが盛んなところなどに多い。しかしながら、あそこは野原だったはず。そういえば、蒸気のにおいがしていたような気がする。
(カタンコトン、カタンコトン)
コップの水が揺れていいる。
地震か?
「あんたは、うちの電車の煙にやられたのよ」
「うち?」
窓の外を眺めてみる、すると
「え?」
外に広がっていたのは、後方に流れていく木々と、
「なんだこれ、」
宙に舞うどくろと、光に当たり可視化された死素の色だった。
「っ、」
思わず息をのむ。
因みに列車は多分、人口石炭で走っているのだろう、きっとそうだ。
石炭は化石燃料だ、死素が出てもおかしくはない。しかし多すぎる。
「何故こんなに死素が漂って、」
彼女の目から光が消えた。
「私らの命燃やしてるんだから当然でしょ?」
後ろの扉があき、人が入ってくる。
「誰だ!」
「やっぱりもう限界か、仕方ない、捨てるか。」
彼女は外に放り出された。
「エキドナ!」
自分もこのままじゃまずい気がして外に出た。