第七項 ネズミーランドのジェットコースターよりは余裕でこええ。
――西園寺由宇、今だっ!
委員長からの合図に、私は脊髄反射で反応する。
「あ、え、そうだった。はい! せーのっ!」
ここまでお膳立てされたら、もう大人しく従うしか無い。あ、お膳立てされなくてもビビりの私は従っちゃうけれども。だって怒られるの怖いもん。
村人から兵隊へのジョブチェンジ。
攻撃力弱々のひのきのぼうを持って戦いに挑むくらいの勢いで。ザコキャラの私は間違っても勇者なんて言える訳がない。
「やあっ……!」
私は、委員長、生徒会長、理亞ちゃんの手を踏み台にして……
「え、由宇ちゃんっ?!」
「飛びましたわっ!」
ポカーンと口を開けて驚く理亞ちゃんと生徒会長。
そう。
私は両足を思いきり踏み切って、一気にジャンプしたのだった。
無計画に。
ご利用は計画的に。
マジで。
計画、大事。
跳んだ私を見て、委員長は後方二人の騎馬に指示を出す。
「さあ、行くぞ!」
「え、どこに?」
理亞ちゃんは、意味も分からず困惑している様子だった。当の私だって、ドコに行ったら良いのか皆目見当がつかない。
むしろ制御不能。跳んだは良いものの後のことを考えていなかった。このままでは地面に激突してしまう。スカートぶわっと、パンツもろだし確定案件だ。
「うわあああああっ!」
空中でジタバタする私。
高いっ!
怖いっ!
いやあああああっ!
委員長の指示に従うことに夢中で、私、高所恐怖症だったのすっかり忘れてた!
本当に計画、大事。
大事、計画。
ダメ、行き当たりばったり。
計画、大事。
そりゃ、何回も繰り返したくもなるよ。
ラグビー部騎手も、私を見上げて驚いている。
「うわあっ! なんだなんだっ?!」
当の私も跳んだは良いものの、後のことまで委員長に聞いていなかった。日頃の従順な下僕キャラが染みついてしまっていて、質問など出来ないのだった。
どうするのこれ?
私はどうなるの?
どうなっちゃうの?
「ぎゃあああああっ!」
マジこええっ。
ヘタなアトラクションよりこええ。
ネズミーランドのジェットコースターよりは余裕でこええ。だって、安全バーしてないもの。むしろ安全バー取り付ける場所ないもの。
「西園寺由宇、ここだ!」
下に居る委員長が、私に向かって叫んだ。
「ひええっ!」
――スチャッ
……あれ?
私は委員長の騎馬に、スッポリと収まったのだった。
着地位置に待機してくれていた委員長。
正確、そして的確に。計算し尽くされた動き。
状況が飲み込めずキョトンとする私。
ここだ!
と言われたところで、私はどうすることもできなかったのだけれど、むしろ自然落下だったのだけれども。
ニュートン先生もびっくりな程に。それはもうリンゴを超えるくらいの芸術的な自然落下運動だった。
とりあえず、助かった……のかな。
「由宇ちゃん……すごっ。忍者かと思った!」
「着地、成功……だな。西園寺由宇、良くやった。」
理亞ちゃんと委員長から、誉められる私。
「はあ、はあ……何とか。死ぬかと思った。」
死ぬかと思った。
心の中で繰り返す私。
だって、高かったんだよ?
私の感覚的には、100m以上跳んでたよ絶対。知らんけど。
まあ、生きて帰れたことを素直に喜ぼう。
疲れた。
本当に疲れた。
「あ、由宇ちゃん、それ……」
理亞ちゃんが、私の右手を見て言った。
あ、これ。
もしかして……
「うおおおっ! ハチマキがっ……無い! ぐぬぬぬぬぬ……」
両手で頭を押さえて悲鳴、じゃないな、もはや、うめき声をあげるラグビー部。
「ってことはぁー?」
「あ、ハチマキ……」
私の右手には、しっかりとラグビー部のハチマキが握られていた。私がさっき跳び上がっている最中、無意識にラグビー部騎手の頭からハチマキを奪ったようだ。
まあ、ハチマキを取るために跳び上がったのだから当然と言えば当然なのだけれど、それはもう無我夢中で今自分が置かれている状況が理解出来ていなかったと言うのが本音だ。
――優勝は、リア充爆ぜろ委員会!
場内アナウンスが勝ち名乗りを上げる。
「うわーーーっ! やったあああああっ!」
「まあ、当然ですわね。」
「ふふっ。良くやったな。西園寺由宇。」
委員会の皆から激励される私。
何にしても良かった。
終わって良かった。
生きて帰れて良かった。
もう、勝ったことより騎馬から降りられることの方が数倍嬉しい。
「もうこんなのこりごりだよう……」
私は、へなへなと委員長の背中にもたれかかるのだった。
「ふふっ。もっと、もっと強く私のことをバックハグするのだ。その豊満な胸を押しつけるのだ。うふふふふっ」
「うわっ! そうだった! と言うか、そんなに頭を動かさないでくださいよう!」
私の胸に頭を押しつけてグリグリと動かす委員長。
ブラの中に髪の毛が入って刺激するんですよ、あれを。突起物を。
直接的な表現は避けますけれども。
お子様からお年寄りまで安心して楽しめる「リア充爆ぜろ委員会」をよろしくお願いいたします。
って、タイトル自体が安心して読めない感が満載だけれども。
「こらっ! 早く降りなさい! もう勝負は終わっているのですよ!」
委員長の頭グリグリでアタフタしている私に生徒会長は怒るのだった。
そうだった。
堂々と騎馬から降りることが出来るのだった。
――パチパチパチパチ
――おめでとーっ!
――かっこ良かったよー!
騎馬から降りようとする私に向けて、観客から拍手が湧き上がる。
「ほら、観客の声援に応えんか。」
委員長は私の肩を叩く。
声援に応えろと言われても、どうしたらいいものやら。
中学時代、陸上で勝ったときだって、走り終わったら、そそくさと控え室に逃げるくらいなのに。表彰台でだって、1位になれなくて、2位で悔しいよー的な雰囲気を醸し出して、うつむいてるくらいにはコミュ障なのに。
大体、ビキニ姿で人前に出ていること自体、有り得ないのだ。
恥ずかしいことこの上ない。
「ほら、由宇ちゃん、早く!」
理亞ちゃんからも急かされる。
早くと言われたってなあ……
私は、観客の声援に向けて、ペコペコと米つきバッタのように頭を下げるのやっとだった。
「委員長、降りていいですかあ……?」
泣きそうな顔をして委員長に懇願する私。
「はははっ! わかったわかった。優勝した喜びより、騎馬から降りたい気持ちの方が強い西園寺由宇は面白いな。」
委員長は笑いながら、腰を屈めて、騎馬を低くする。もちろん、生徒会長、理亞ちゃんも後に続いた。
よいしょっと。
やっと騎馬から降りることができた。
自由っ!
地に足が着くって、何て幸せなのだろう。
「どーもどーもっ!」
観客に向けて両手を挙げて、声援に応える理亞ちゃん。
私も理亞ちゃんみたいになりたい。
委員長、生徒会長も片手を挙げて手を振っている。もうね、女優さんみたい。ホント絵になるなあ、この2人。
そんな中、私は、やっぱりペコペコと頭を下げるのだった。
「やったね! 由宇ちゃん!」
「うんっ!」
抱きついて喜ぶ理亞ちゃんと私。
「零様、愛してますわ!」
「うむ、私もだ。」
抱きついて愛を語らう委員長と生徒会長。
ん……?
まあいいか。
細かいことは気にしないでおこう。
怪我無く終わったことを喜ぼう。
――騎馬、退場。
退場を促す場内アナウンス。
「はっや。」
理亞ちゃんの言葉を背中に受けながら、私は全力疾走で退場門に向かうのだった。きっと人生で一番のスピードが出たに違いない。
だって、恥ずかしいじゃーん!
みんな忘れてない?
私、ビキニ着てるんだよ?
紐ビキニ着てるんだよ?
早くっ!
早くっ!
私は、退場門を抜け、更衣室に向かうのでした。
――おつかれー。
着替え終わった私を迎える理亞ちゃん。本当に疲れたよ。
それでも委員長は、容赦なく私に休む暇も与えずに、次の出場種目について説明をするのだった。
「さて次は、いよいよ部活対抗リレーの決勝だ。決勝は、陸上部を始め精鋭揃いだ。」
「えっとー。陸上部、サッカー部、バスケット部、演劇部、そしてリア充爆ぜろ委員会。っと。」
出場チームを読み上げる理亞ちゃん。
それにしても、その情報どこから持ってきてるんだろう。
うわー。
やっぱり、みんな早そうだなー。でも演劇部か。なんか意外。
「演劇部が決勝進出なんて意外ですね。」
「そんなことないぞ。演劇部は肺活量を鍛えるために、日夜トレーニングしているからな。その運動量は体育会系の部活にも引けを取らない。」
「えっ?! そうなんですか?!」
演劇部。
小学校の学芸会を想像してたごめんなさい。結構、がっつりトレーニングを詰んでいるのですね。
へぇー。
まあ、決勝に残れただけ良しとしよう。言うて、予選もギリギリで勝ち残ったしね。
「さて、決勝のラインアップだが。」
委員長が畏まって、私たちを見渡した。
そんなラインナップとか言ったって、予選と変わらないのですよね。だって、生徒会長は委員長にしかバトンを渡さないって言ってるし、理亞ちゃんは走らないし。オーダーの変えようが無い。
リレーはスウェーデンリレー形式で行われる。第1走者は、100m。続けて、第2走者200m、第3走者300m。第4走者が400mである。だから、足の速いランナーほど後に走ったほうが有利になる。
第1走者 理亞ちゃん
第2走者 私
第3走者 生徒会長
第4走者 委員長
ちなみに生徒会長は、委員長以外にバトンを渡したくないと言う制約があるのだ。
だから、このラインナップで、確定なのだ。
これ意外に考えられない。
でもまあ、監督の委員長としては、威厳を保たなければならないからね。うんうん。分かりましたよ。私は大人ですからね。ここは大人しく発表を聞くことにしますよ。
そして委員長は、分かりきったオーダーの発表をするのだった。
「まず、第1走者……私が行く。」
そうそう。
私が行くの。
行きますよね。
って。……え?
ここで言う「私=委員長」……?
…………
「えええええええーーーーっ?!!」
一体、委員長が何を考えているのか、私には到底理解できなかった。
一番、足の速い委員長が、一番、距離の短い第一走者。勝負を捨てたとしか思えない私なのであった。




