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リア充爆ぜろ委員会  作者: 桐生夏樹
第五条 女だらけの大運動会~騎馬戦の部~
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第五項 ストーリー序盤に出てくる村人の私

 ラグビー部の先頭機馬が、私たちを憎悪の目で睨みつけている。


「ひええっ! 恐怖しかないですよ。」

「小娘、気張っていきなさい! 負けたら承知しませんわよ!」

「そんなこと言われても無理ですってー。」


 生徒会長の叱咤激励が飛ぶ。

 だけれど私は、あのラグビー部の目に、あの(けだもの)の目に完璧に飲まれていて、元気づくどころか、恐怖が倍増しているのが自分でも分かる。あんなん絶対に食べられちゃうって。それはもうサバンナのシマウマにでもなった気分だ。


 捕食されてしまう。

 あんなん丸呑みにされちゃうよ!


「大丈夫だ。自信を持て。」

「体格差を見ただけでも、余裕で私3人分はありますよ。勝てる気が全くしないですう!」


 相手に飲まれること無く、むしろ冷静に私へ声を掛ける委員長。そんなん言われても、私は普通以下の非力女子なのだ。


 人間離れした能力を持つ委員長とは違うのだ。


「のっしのっしと近づいてくる。ボスキャラ感えげつない。ウケる!」

「笑い事じゃないよう! 怖いよう!」


 委員長の後ろに隠れているものだから、言いたい放題の理亞ちゃん。まあ、後ろに隠れていなくても、私のことになると言いたい放題だけれども。


 もう理亞ちゃん、他人事が過ぎるよっ!

 

 と言っても、ラグビー部の先頭騎馬の目には、小物でしかない私と理亞ちゃんなんて目に入っていないのだった。


「がぁれーいーじぃーーーっっ! 今年は負けんぞおおおおっ!」


 ごええ。

 ごええ、濁点がついてしまうくらいには余裕で怖い。


 私はもう野ウサギのようにガタガタと震えることしかできない。シマウマから野ウサギに格下げだ。サバンナに野ウサギが居るかなんて知らないけれども。


 ぴょんぴょん跳ねながら逃げたい、逃げまくりたい、脳内の中に広大なサバンナが繊細に描かれる。もうこれドキュメンタリーだよ。


 それでも委員長は余裕だった。

 猛獣の扱いには慣れたものだった。それはもう猛獣使いだ。サーカス団で鞭を振るう猛獣使いだ。


「ふふっ。ここは返り討ちと言うヤツだな。」

「い、委員長、一体何をしたんですか?」

「この前言ったろう? 去年、百々花がぶっ飛ばした相手がラグビー部だ。まあ、反則負けになってしまったのだがな。」

「ひええっ! 何てことを!」


 なんと去年、生徒会長がぶっ飛ばしたのは、よりによってラグビー部だったのか……!


 おいおい。

 それ聞いてないですよ。


 逆恨みされるのも当然だ。

 なんなら生徒会長が、騎手をやれば良かったんだ。


 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、生徒会長は後ろから私に檄を飛ばすのだった。


「こらっ! 小娘、気合い入れて戦いなさい!」

「いやいや、無理ですって! 戦いになんてならないですって!」


 いくら気合いを入れたところで、相手はモンスターだ。ボスキャラだ。もっと言えばラスボスだ。


 そんな相手に、ストーリー序盤に出てくる村人の私が敵うわけが無い。いやもう騎馬から降りて、土下座したいくらいだ。有り金全部出しますから勘弁してくださいと謝りたい衝動が止まらない。


 ガクブルな私の様子を見てケタケタと笑う理亞ちゃん。


「由宇ちゃーん、頑張れぇ! あはははははっ!」

「理亞ちゃん他人事やめてっ!」


 本当に、この子は何なのか。

 心の中で私のことをどう思っているのだろう。やっすいオモチャくらいにしか思っていないのではないかと心の底から思う。


 こんな子と長い間友達をしているのは何故なんだろう。自分でも不思議でしか無い。


 まあ、友達をやめようとしても理亞ちゃんがグイグイ来るだけだから、やめられるものもやめられない。今までそうやってグダグダ続いてきた友人関係。


 でも、理亞ちゃんのことを嫌いになれないのは何故だろう。自分でも不思議なのだ。


 ラグビー部の先頭騎馬がイラついた様子で叫ぶ。叫ぶというか、もう噛みつかれる寸前だ。このままでは食べられてしまいそうだ。


「お前ら、何よそ見してやがる! 舐めるな! うおおぉ!」

「ぎゃあ……!」


 突っ込んできたあああああっ!


 こええええええええええええっ!


 ハチマキでは無くて、命を取られるんじゃ無いかくらいの勢いで襲い掛かってくるラグビー部。


 死ぬっ!

 と思った瞬間、委員長は後ろ2人に指示を出し、ダンスのステップを踏むかのように華麗に避ける。


「左っ!」

「ひゃあ!」


 突然の方向転換に振り落とされそうになったけれど、委員長にしがみついて事なきを得る。私が抱きついた直後の委員長の恍惚とした表情は気づかなかったことにしよう。


 今は、避けられたことだけを喜ぶことにしよう。深追いしてはいけない。もう1人の心の中にいる私が言っている。


「さっすが委員長、華麗に避けますね!」

「伊達に、()()()、し。を名乗ってはおらんだろう?」


 華麗。

 枯石零。

 かれい、しぜろ。


 …………


 委員長、説明しなければわからない氷漬けになりそうなオヤジギャグを炸裂させるくらいには、まだまだ余裕のようだった。


 その余裕、私にも1mgくらい分けて欲しい。

 とてもダジャレを言う余裕なんて、私には全く無かった。


「殴りかかってきたときの風圧がハンパないです! 当たったら死んじゃいますよう!」

「やられたら、やり返しなさい! 倍返しですわ! それが鬼龍院家のしきたりですっ!」

「私、鬼龍院家じゃないですよう! 無理ですう!」


 どこかのドラマで聞いたようなセリフを吐く生徒会長。倍返しどころか()()()()()()返しも出来る気がしない。


 やられたら、やり返す。

 100分の1返しだ!


 これでは全くドラマにならない。


「おらあっ! 無駄口を叩いてるんじゃねえ!!」

「うっきゃーっ! こえええっ! ウケるーっ!」

「だから、理亞ちゃん他人事やめて! ……きゃあ!」


 ラグビー部騎手から飛んでくる右ストレート。


 私の髪が、右ストレートの風圧でブワっと(なび)く。ラグビー部の攻撃は、騎馬の体当たりだけでは無くて、騎手の方も()()()()()()()だった。


 今まで騎手は目立った活躍は無かったけれど、細い身体の割にモリモリ筋肉が付いている。強者ラグビー部の騎手として選ばれるだけあって、動作が俊敏だ。


 私の頭をめがけて飛んでくる右ストレートを必死で避ける。いやもうあと1mmのところでハチマキ取られてた。いや、取られなかったのは、たまたまだ。ハチマキの紐の棚引き方が、たまたま取りに来る手に合わなかっただけだった。


 運が良かった。

 それに尽きる。


 次も避けられる保障なんて何も無いのだ。


 だがしかし、そこは誉め上手な委員長。


「おおっ! 中々避けるの上手いじゃ無いか。さすが、私が見込んだだけのことはあるな。」

「たまたまです! それに、こんなことで誉められても全然嬉しくないですよー!」


 謙遜ではない。

 本心である。


 たまたま。()()()()だった。

 決してR18のたまたまでは無い。


 こほん。

 私は純情乙女。下ネタなんて言わないのだ。言ってはならないのだ。


 今、緊迫した場面すぎて、コメディ感が全くないから、そろそろ皆さんに和んでもらわないとと言う『語り部としての使命感』なのだ。


 決してビッチな訳では無い。

 私は彼氏に一途な純情乙女なのである。


 最近、連絡を取ることが少なくなって、彼氏から嫌味を言われることが増えたと言うのはあるけれど、まあ、そこは駆け引きなのである。乙女の可愛い駆け引きなのである。


 決して百合に目覚めたとか言う訳じゃ無い。


 訳じゃあないのだ。


 ……たぶん。


 ふわふわと妄想に浸っていると、生徒会長が一気に現実へ引き戻す。


「ぼーっとしているんじゃありません! ほら、次が来ますわよ!」

「ひええっ!」


 うわあっ!

 本当だった。

 ラグビー部騎手が大きく右手を振りかぶって殴りかかってくる。


 もう、ハチマキじゃ無くて私の顔面に向けて、殴りかかってきている。


 ぎえええっ……!


「うらあああっ……!!」


 地響きが上がるほどの雄叫びをあげるラグビー部。


 だがしかし、委員長は冷静だった。

 サッとラグビー部騎馬の右横に移動する。


「ほらっ! 右脇が開いたぞ! 今だ!」

「あ、そうか。さっきみたいに。えいっ!」


 そうだった。

 さっきのバスケ部みたいにブラ紐を引っ張れば良いのだ。騎手の頭には手が届かないけれど、ブラ紐だったら何とかなりそうだ。


 ラグビー部だって乙女である。

 ブラ紐が解けたら「きゃあ!」だろう。


 ギャップ萌えだろう。

 まあ、「きゃあ!」なラグビー部は想像がつかないけれど、その恥ずかしがる姿を見せて貰おうでは無いか。


 はっはっはー。


 私は、ラグビー部騎手の右脇を掻い潜り、ブラ紐を掴む。


「おおっ! ブラ紐掴んだ! さすが由宇ちゃん!」


 これで、チェックメイト。


 ふふふふふ。


 って、え?

 私はラグビー部騎手のブラ紐を掴んで引っ張った。


 のに、何故?


 私の手のひらには何も入っていなかった。

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