第四項 十文字爆登場
「お面取って顔晒しても思い出してもらえないとかウケる! ひーひー。」
「わ、わらうな!」
お腹を抱えて笑う理亞ちゃんにぶち切れる男。
私も男には同情する。
だって、自信満々にお面を取って今まで隠していた顔を晒したのに、当の委員長には全然覚えられていないのだ。そのダメージは計り知れない。
さすがの委員長も男に弁解する。
「いつも一瞬で試合が終わるのでな。虫け……いや、相手の顔を覚える暇がないのだ。」
「お前、今虫けらって言おうとしただろ!」
「ああ、つい本音が出た。」
「そこは否定しろよ!」
論点は、男の名前から虫けらに移ったようだ。
それよりも、委員長はサラッと一瞬で試合が終わると言い切っていたけれど、それって普通にスゴいことじゃないか?
だって、その男はカポエイラ全日本二位。
ってことは、委員長が男と対戦するのは全日本大会の決勝戦。
なのに試合が一瞬で終わると言う事は、委員長が一撃で男に勝利するって事だ。
見所も何もあったものでは無い。わざわざ決勝戦を見に来るカポエイラフリークの人々は、移動時間の方が何倍も長そうだ。
特に男を応援しにきた人たちの心中は、もう何とも言えないやるせない気持ちになっているに違いない。
男が弱すぎるのか、それとも委員長が強すぎるのか。
委員長は、胸を張る。
「とにかく私が認識できるのは、女だけだ。その他は虫けらだ。」
「言い切った! 清々《すがすが》しいほどに言い切った!」
「委員長、男には容赦ないよね……」
委員長の格言? に喜ぶ、理亞ちゃん。
男女差別と言う言葉は、一般的に女性の不利に対して使う言葉かと思っていたけれど、委員長の場合は違うようだ。男に対しての差別発言がエグすぎる。
「虫けらじゃない! 俺は、十文字爆。カポエイラで世界を支配する男だ。」
「そうか。」
「そうか。って、興味を持て!!」
「世界どころか日本も支配できていない虫けらなんて、興味以前の問題だ。」
「ぐっ……!」
い、痛い。
委員長の言葉は相手の急所を確実に、そして正確にぶち抜いた。
私だったら即死していると思う。
それでも十文字爆と名乗る男は、後に引かなかった。メンタルつよつよだ。
「くそう! 俺と勝負しろ!」
「虫けらと相対する時間なんて無い。風祭理亞、西園寺由宇、行くぞ。」
「はーい。って、ヤバい。もう呼び方虫けらで確定してる。面白すぎて、おなか痛い、苦しい、死ぬ。あはははははっ」
バカにされてぶち切れている男、男のことが全く眼中にない委員長、ツボにハマって腹を抱えて笑う理亞ちゃん。
この三人の立ち位置、何とも不思議な光景だ。
「バカにしやがって、この野郎!」
ついに十文字さんは、腕を振り上げ委員長に襲いかかった。
「委員長、危ない!」
「うわあ!」
私は咄嗟に委員長に向かって悲鳴に近い言葉で叫び危険を知らせた。
ちなみに「うわあ」は委員長の言葉ではない。理亞ちゃんの悲鳴だ。
と言うことで、当の委員長……
「ん、なんだ?」
委員長は、殴りかかってきた男の拳を、何かのついでのようにサラッと避けながら、両手を地面について頭を下げ、足を大きく振り回してキックした。
よいっしょって、感じで。
「ぐはあ……!」
ぶっ飛ぶカポエイラ全日本二位の十文字さん。
大技なのだろうけれど、委員長は何事も無かったかのように「すんっ」とした表情だ。
いやいや、「なんだ?」で繰り出される技じゃ無いですよ?
足先見えませんでしたよ?
むしろ残像が見えた様な気がしますが。
私があんなん喰らったら即死です。ご臨終です。
まだ、委員長とは数時間しか過ごしてないけれど、脳内で何回死んだかわかりません。
状況がわかっているのかいないのか、理亞ちゃんは、委員長に向かってぴょんぴょん跳びはねながら腕を掴んだ。
「うっわー。あの技、メイアルーアジコンパッソですよね? かっこいい!」
「なんだ? 風祭理亞、カポエイラ知ってるのか。すごいな。」
「えへへ。最近、あるキッカケがあって覚えたんですよ。」
あるキッカケって、間違いなく委員長の技を見たからじゃ無いか。って、言うかメイアルー何とかって、良くわかりませんけど水系の呪文ですか? 何ですか? 覚えられる気が全くしないのですが。
それに最近覚えたって、昨日の公園じゃないか。委員長がキッカケじゃないか。キッカケホヤホヤじゃないか。
それでも委員長は目を細めて、理亞ちゃんの頭を撫でる。
「そうかそうか。今度、技について教えてやろう。」
「本当ですか?! やったあ! 絶対ですよー?」
喜ぶ理亞ちゃん。
あなたスポーツとか全然やらないでしょ。むしろ運動音痴の部類でしょ。
本当、調子が良いんだから。
委員長は、理亞ちゃんの反応が嬉しかったらしくて、ニヤニヤが止まらない。
委員長……女子に対してはチョロすぎる。
「本当さ。可愛いヤツだな。彼女が居なければ惚れてるところだぞ!」
「ええー。じゃあ委員長のこと誘惑しちゃおうかな。」
「おいおい、勘弁してくれよー。」
「えへへー。」
満更でもなさそうな委員長。
ちょっと、委員長、もう既に彼女いるって言ってたじゃ無いですか。
あの綺麗な美人の生徒会長が彼女って言ってたじゃ無いですか。
百合ハーレムでも作るつもりですか?
やばい、この2人、止まらないぞ。
公衆の面前で、何を押っ始めるかわかったもんじゃない。
「ちょっと、ちょっと、イチャついてる場合じゃないですよ。あの人、頭から血を流して倒れてますよ! 助けないんですか?」
「ん? 私には何も見えんが?」
「さすが委員長! 虫けらなんて眼中にないんですね!」
「あははははっ! さあ、帰るぞ。」
「はーい。」
私の忠告をサラッと受け流し、委員長は理亞ちゃんの肩に腕を回して学校へ向かう。
目の前で障害事件が発生しているのに。
むしろ加害者なのに。
あ、いや、元々は十文字さんが殴りかかってきたから、正当防衛か。いいのか。
……いいのか?
うん。気づかなかったことにしよう。
しっかし、公園に男二人がぶっ倒れている光景って、ヤバいよなあ。
「うう……あの人達、大丈夫かなあ。」
「ほら、西園寺由宇、行くぞ!」
「あ、は、はい!」
――く、くそう覚えてろよ……
――次は負けな……い……ぐはっ
と言うわけで、委員長に新たなる敵が現れました。
本当は十文字さん強いのだろうな。
……と言っても、委員長は、それ以上に「つよつよ」で、敵どころか人間としても見てなさそうだけれど。
果たしてこれからどうなるのか、不安しかありません。
前途多難なリア充爆ぜろ委員会なのでした。
続くっ!
って、続きたくないなあ……




