5 首都での情報集め
アメリアとザイアスは、ノアとマリッサが首都を離れている一ヶ月の間、城で寝泊まりしながら情報を集めていた。アメリアはその合間にミリアのドレスの案を考えている。
この日は首都の図書館を訪れ、十年前に起きた出来事を調べていた。
古い新聞や資料を読み進めるうちに、十年前に王族を乗せた船が事故に遭い、当時の王位第一継承者と第二継承者であった現王の兄二人とその家族が亡くなった事がわかった。
当時の王も老衰で六年前に亡くなり、今に至る。しかし、現在王家に属する者は、前王の弟夫婦、現王夫婦とその五人の子供たち、そして現王の弟夫婦を合わせても十一人しかいない。
ジオルグでは男性にしか王位継承権が認められていない。そのうえ、現在四歳の王子は病弱であるため、王家の存続が国中で話題となっている。
「それで内戦寸前までになったのか」
「王太子殿下が病気がちなのが報道されて、内戦寸前までいったみたいだけど、王弟妃がご懐妊されて、一旦は落ち着いたみたい」
ここまで調べるのに、図書館の裏の書庫から古い新聞を何度も出してもらっていたため、既に昼過ぎとなっていた。
続きはまた明日にすることにして図書館を後にした。城に戻るまでの間の広場に屋台があり、そこで飲み物と軽食を購入して近くのベンチで休むことにした。
運良くベンチが一つ空いていた。昼過ぎという時間帯のためか、広場は多くの人で賑わっている。
「内戦の詳細と最近の王家のことを知りたいから明日また図書館に行くでいいか?」
「うん」
買ってきたフルーツジュースと、勧められたサンドイッチを食べながら会話をする。
「ありがとう。ドレス作ってもらうのにごめんな」
「ううん、ドレスは時間もたくさんあるし大丈夫」
二人の結婚式は、この旅が終わったあととなっているため、今回のことで早くても一年後。
「何かできることはあるか?できることなら何でも協力する」
「たくさんあるんだけどいい?」
「もちろん」
「ミリアさんと連絡をする手段はあるんだけど、できれば何回か直接会って話したいのと、直近でパターン出しするから意見がほしいのと、布をどこで買うか迷ってるから相談したい」
形として、ザイアスがミリアにドレスをプレゼントすることになったため、ザイアスの意見も聞きたいアメリア。
「三ヶ月に一回くらいならこちらに来てもらえると思うからこちらから連絡しておく。パターンに関しては俺も意見はもちろん出す。布はミリアに聞いてみる。おそらくおまかせで問題ないはずだ」
「ありがとう」
「いや、礼を言わなきゃいけないのはこちらだ。無理を聞いてくれてありがとう」
話も一段落したところで、ザイアスが軽食を食べ終わり辺りを見ていたところ、杖をつきながら、空いている席を探すように辺りを見回している老婦人がいた。
「もし、座るところをお探しならこちらいかがですか。もう少ししたら帰るので」
ザイアスがとっさに声をかけにいった。
「ありがとう、お言葉に甘えてしまおうかしら」
ふわりと微笑む老婦人は、ザイアスが空けたベンチに腰を掛ける。二人掛けのため、ザイアスはアメリアの横に立つ。アメリアが急いで残った飲み物を飲んでいると老婦人は声をかけた。
「急がなくていいわよ。お嬢さん。気を使わせてしまって申し訳ないわ」
「いいえ」
「お嬢さん、私の髪色と似ているわね。珍しいわ」
老婦人が言う通り、彼女の髪色はアメリアの髪色ととてもよく似ていた。アルベールトも銀髪に分類されるがアメリアに比べて濃かったため、あまり似ているという実感はなかった。
「そうですね、ここまで似ているのは初めてです」
老婦人と自分の髪を交互に見ながら、アメリアも頷く。
「私もよ。家族とも違うから驚いたわ」
「ご家族は違うお色なんですか?」
アメリアは驚いたようで勢いよく聞く。
「ええ、どうやら私だけ色素が薄いの。遺伝ではないみたいだわ。貴女のご家族は?」
アメリアは黙り、少し表情が暗くなる。その様子を察して老婦人は頭を下げた。
「ごめんなさい。踏み込みすぎてしまったわね」
「……いいえ」
老婦人はアメリアが家族に対して複雑な事情があることを悟る。
「あなた達この国の方ではないわよね?いつまでいるの?」
アメリアはちらりとザイアスを見る。
「短くても一年ほどの予定です。時々空けるかもしれませんが。よくわかりましたね」
「それならこのあたりは私の散歩コースだからまた会えるわね。
その軽食、この国の人はあまり口にしないの。それに、貴方は吸血鬼でしょう?
この国ではその服装だと寒いわ」
老婦人は食べ終えた軽食の包み紙に目をやったあと、ザイアスへ視線を向けて微笑んだ。
「私はアーシェラ、貴方達はなんとお呼びすればいいかしら」
「俺はザイアスで彼女はアメリアです。お家までお送りしましょうか?」
「いいえ、すぐ近くだから大丈夫よ。またいつかお会いしましょうね。老人の暇つぶしに付き合ってくれてありがとう」
アーシェラは二人に笑いかけると帰路へついた。
「とても優しい方だったね、アーシェラさん」
「ああ、あの方はおそらく良家の方だろう、もしくは……いや今はいい」
二人も城に戻るために帰路につく。
城に戻り夕食を取る。夕食はラウルも一緒に食べている。
この日に知ったことをラウルにも共有する。
「王家のことは俺の方でも探ってみるよ。城で働いてる人とも少しずつ話せるようになってきたから」
「助かる」
そこでラウルは、向かいに座るアメリアの様子に気付いた。
「アメリア?少し疲れた?」
「え?ううん、大丈夫」
口数の少ないアメリアにラウルは問いかける。
「アメリア、部屋まで送る。ラウルは少し話したいことがあるから後で部屋へ行く」
食事は済んでいるので、早々と部屋に戻ることにした。
アメリアの部屋に着くと、ザイアスが少し話したいといい、窓際の椅子に腰掛ける。
「大丈夫か、アメリア。アーシェラさんとの話か?」
「なんでもないよ」
「ごめんな、俺が力不足で見つけ出すことができなくて」
目を伏せながら謝罪の言葉を口にする。
「違うの。私もわかってるの。お父様とお母様ももう見つけるのは難しいって。ザイアスのお父様も探してくれてても、見つからないって聞いてるし」
下を向きながら小さく言葉を紡ぐ。
「リッシェのあのお家も、元々住んでいたお家じゃないって私分かってるよ」
「……父上が話しているかと思ってた。あの家はアメリアのお父上の別荘だ。本邸はどこにあるのかは俺も知らない」
アメリア側が小さく紡いだ言葉を拾い上げてザイアスは真摯に答える。
「他にもなにか知ってることがあれば教えて?
私は事故にあったあと、ザイアスのお父様が助けてくれてあの家に案内してくれたこととお父様の特徴とかしか知らないの」
ザイアスをまっすぐ見て訴えるアメリアだが、ザイアスは首をふる。
「俺も詳しいことはあまり知らないが、知ってることは、父上とアメリアの御父上は、たまたま知り合ったらしい。家族ぐるみの付き合いではなかったから、アメリアのご両親と俺は数回しかお会いしたことはない」
一旦飲み物を口にしてから話を再開する。
「あの事故のことも詳しくはわかっていない。父上がリッシェのあの別荘でお二人と待ち合わせしていたらしいが、連絡がいつまで経っても来なくて、リッシェの役所に問い合わせた。
そして数週間後に事故の話と、アメリアだけが残されたことを聞いた。父上はアメリアを引き取り、あの別荘に住まわせたんだ。
レヴァントゥレットに連れて行こうかと考えたが人が過ごすにはあまりにも過酷な環境だ。
父上は国に領地があってあまりこちらに来れないから代わりに俺がこっちに住むことになった。あとはアメリアが知ってるとおりだ」
「ありがとう、ザイアス。私のせいでこっちに来てたんだね」
「アメリアのせいじゃない。俺がこっちに来たかったんだ」
「ありがとう」
「俺はお礼を言われることはしていない。むしろ責められてもいいくらいなんだ」
後半の言葉はとても小さく、アメリアには届いていなかった。
「もうね、両親には会えないとは思ってるの。ラウルみたいな奇跡はあるかもしれないけど。
でも血縁関係にある人にはまだ会えるかもしれないって思ってる。居るのかもわからないんだけど」
頭ではわかっていても、やはり悲しい気持ちは抑えられないアメリアは少し涙をこぼす。
「大丈夫だ。父上もまだ探している。俺も諦めていないから」
ザイアスが頭を撫でると、アメリアは頷いた。




