22 リッシェの変化
一方ザイアスたちはイチェスを出て数時間ほどで、リッシェに到着した。ラウルは当面ザイアスの別荘に滞在する予定だ。アメリアは自宅で過ごす。
アメリア家まで送ってくれたザイアスとラウルと別れ、部屋で少し休憩していると、部屋のチャイムが鳴る。
対応するとラウルとザイアスの家の使用人で、荷物を届けてくれたのこと。ラウルは滞在するかわりに手伝いをしていたようだった。
「ちょっと量が多いから部屋まで運んで平気?」
「うん、ありがとう」
アメリアが返事をすると続々と荷物が運ばれてきた。アメリアが想定していた以上のようで、少々唖然とする。
「ここ数日途絶えなく届いておりますので、まだ増えるかと思います」
すべて運びきったようで、使用人から大きな袋に入った手紙とともに告げられる。
「ほとんど劇団からだね、あの劇でファンになった人たちからだね、多分」
荷物に書かれた住所を見ていたのか、ラウルが教えてくれる。
「びっくりした、お酒もあるみたいだから後で持ってくね」
ラウルは一旦ザイアスのもとに戻り、アメリアはとりあえず手紙を眺める。ほとんどが劇団からのもので、あとはマチルダや学園都市で仲良くなった生徒たちがほとんど。
返事やお礼の手紙を書くためのレターセットが足りなそうであるため買い足しに近所までいくことにした。
レターセットを購入し、帰りにいつも作った服を置いてくれている友人のお店に向かうことにした。
「アメリア!一ヶ月ぶりくらい?」
「うん、一週間くらい戻ることになって。今回はちょっと洋服は作れなさそうなんだけど」
「アメリアの都合がつくときででいいよ」
「ありがとう。そういえば通りのあの行列はなに?」
「最近パン屋さんができたんだよ。お手頃な価格の」
「パン屋!」
アメリアが大きな声で反応すると友人が教えてくれる。
「驚くよね。少しずつ小麦が手に入りやすくなってきたみたい。今、原産地のペイシルでお祭りやってるみたいだよ」
友人から通りでもらったというチラシを見てみるとペイシルで収穫祭が行われているらしい。
少し話し込んだあと、アメリアは自宅へ戻ってプレゼントの開封をしつつ、お礼の手紙を書いていると夜になった。食事のことを考えてなかったことを思い出し、買い出しに行くためザイアスかラウルに付き添いを頼みに、ザイアスの別荘へと向かった。
ザイアスに買い出しの付き添いを頼むと、一緒に食べればいいと言われ、それならばとプレゼントのお酒をいくつか開けてもらうことにした。
アメリアは、家に戻って、お酒を運ぶと、夕食の準備はすでにできていた。
ラウルと三人で夕食を取る。この日はマッシュポテトとローストビーフ、サラダにスープといったリッシェでは一般的な食事だった。パンがなければ。
「パンだ!」
「パン、珍しいの?」
アメリアがいつもより大きな声を出すとラウルは不思議そうにした。ラウルはリッシェに来ることは初めてで、リッシェでは小麦類がほとんどないということを良く知らない。
ザイアスが事情を話すと、ラウルは納得していた。
「この街歩いてたけど、焼き菓子とかケーキのお店ないなあって思ってたのはそういうことなんだね」
「うん、リッシェはデザートだとプリンとかが多いよ。クッキーとかケーキは高級だから贈答品とかが多いかなあ」
「そうなんだ、マッシュポテトが異様な量だったのに驚いたけど、主食なんだね」
パンはまだ少ないようで一人一つ。代わりにマッシュポテトがたくさん盛りつけられている。
「うん。ザイアスのお家のマッシュポテトはとっても美味しいよ」
ラウルがひとくち食べてみると、
「本当だ、美味しい」
「あのねペイシルで、お祭りやっているみたいなんだけど、予定って空いてる?」
アメリアが先程友人からもらったチラシを渡すと、ザイアスは開いているとのことだった。なにか予定があるというよりは、一度こちらに戻って、使用人と打ち合わせや手紙を出したかったらしい。
ラウルにもペイシルの話をして、三人は明後日ペイシルに向かうことになった。
次の日は各々過ごして、ペイシルに向かう日になった。ザイアスの使用人が車を出してくれることになり、早速向かう。
半日近く車に揺られ、到着する。
旅の一番最初に来たときに比べて観光客が多かった。
各農家の家先でパンやケーキなどが販売されているようで、おそらく首都から来た客が買い物をしていた。
三人はとりあえず前お世話になった酒場へと向かう。こちらも昼から賑わっているようで、人がたくさんいた。
「いらっしゃい!ってザイアスとアメリアじゃないか」
店主のハンナが気づいてくれた。
「そちらは?」
「初めまして、ザイアスたちと一緒に旅をしているラウルと言います」
「初めまして、ここの店主をしてるハンナだよ。せっかくだからいっぱい食べていきな」
ザイアスたちは空いていたテーブル席につくと、パンやソーセージ、ビールを頼んだ。
しばらくするとアンネが戻ってきたようで、声がかけられる。
「久しぶり、元気だった?」
「ええ、アンネさんは?」
ザイアスが答えるとハンナは笑う。
「ああ、小麦の栽培も再開して毎日大忙しだけどな」
声を上げて笑うアンネに気づいて、ハンナもカウンターから出てきた。夕方に差し掛かっており、観光客はほとんど帰ったようで、酒場も落ち着きを取り戻していた。
「そういや、クロが戻ってきたんだよ」
「亡くなった吸血鬼の方ですか」
ザイアスが少し驚いて聞き返すと、アンナが答える。
「ああ、死体と思っていたものは良くできた人形だったんだ」
「人形……?」
ラウルは小さい声で呟く。
「ん?兄ちゃん、なんかクロに似てないか?」
ラウルを見たアンネが言うとハンネも同意した。
「もしかして、俺に似た髪色で目の色はもう少し暗かったりしますか?」
「ああ」
ラウルの問いにハンネが答える。
「父上かもしれない。名前はクロじゃないけど、ローディス・クラシオン。そこからもじったのかも。今はどこへ?」
「元々旅人だったからまた旅に出るってどこかに行っちまったよ。なんで死んだふりをしたのかもわからないけど、まあクロが元気ならなんでもいいかなって」
アンネが答えると、ラウルは少し残念がる。
「会えたら良かったけどしょうがないか」
「クロのコートがあるから見てみるか?あと私物も少し小屋に残ってるはず」
ハンナが提案するとラウルは反応する。
「明日、俺が案内する」
ザイアスが言うとラウルはお礼を伝える。アンナとハンネにお礼を言いつつ、ラウルは事情を軽く説明した。
「そうか、うちの旦那が仲良かったからなんか聞いてるかもしれないから聞いてみる?」
「お願いします」
「今は家で仕事してるから明日来たときにでも」
この日の宿は満室とのことで、三人は一度家に戻ることになった。
次の日は朝早くに車でペイシルへ向かった。車でも半日弱かかるため、移動中は三人とも眠っていた。
到着をしたがすでに昼時。とりあえず酒場へ入る。時間的なこともあってか、とても忙しそうであったため、先に山へ向かうことにする。車で近くまで向かうことになった。




