21 変化
夜遅く、約束通りブライトがノアを訪ねてきた。
片手にワインを持っている。
「ノア、ワイン飲めるか?」
「ええ、大好きですー」
二人はワインを飲みながら談笑をする。
「敬語は使わなくていいよ。ノア、クリュプトン家の次男坊だろ」
「よく知ってるねー」
「お前の兄貴と友人だからな」
その言葉にノアは驚く。ブライトはそんなノアの様子を笑いながら見ていた。
「自分の兄貴に友人なんかいたのかと言いたげな反応だな。分かるけど」
笑いは収まらない様子で軽口を叩く。
「あの真面目を絵に書いたような兄上に友人がいるとは思わなかったー」
「俺はジリストン家の三男坊なんだよね」
「話は聞いたことあるなー」
「放浪グセのある三男坊って?」
二人は顔を見合わせて大笑いしていた。
「お前の兄貴から弟の話は聞いててな。俺に似た芸術好きの軽いやつがいるって」
ノアは更に笑う。
「兄上からしたら俺は異端も異端だしねー」
「だけどお前さんのことすごく買ってるぞ。ふらふらしてるけどやることはきちんとやるし、自分なんかより努力してて強いって」
「えー、兄上、いつも会うたびに小言を言ってくるよ」
驚きながらも返すノア。
「あいつなりの生存確認だからな。お前さんもあんまり避けずにやってほしい」
「兄上には嫌われてると思ってたんだけどなあ。帰ったら話してみるよ」
ノアはいつもどおりの様子だが心なしか嬉しそうだった。
「俺のことよく気づいたね」
「お前さんは目立つからな」
少し苦笑しているノアに言葉を重ねる。
「兄上もだと思うけど」
「あいつは顔はいいが雰囲気が近寄りがたいからな。目立ちはするが」
二人とも再度大きく笑い、夜はふけていった。
次の日の朝、マリッサはノアの部屋を訪ねた。
「おはよう。ご飯の準備できたって」
「おはようー。ごめんね、わざわざ呼びに来てもらって」
すでに準備が終わっていて、今から向かう様子だったノアは言う。
「あの、ノア、ありがとう」
「んー?」
「昨日のこと。でも無理しないでね。私、誰かに止めてほしかっただけだったのかもしれない」
「それでも約束は守るよ」
微笑みながらノアは言う。
「ありがとう」
二人は朝食を食べて、アストラとともにサシャのもとへと向かった。
小島に到着し、サシャのいる小屋へむかい、マリッサが声をかけると、おずおずとサシャが出てきた。
サシャはアストラの顔を見ると、顔を下げておずおずと挨拶をする。
「師匠……、今まで迷惑かけてごめんなさい」
「迷惑なんかじゃない。久しぶりだな、元気だったか?」
「はい、いつも必要なもの届けてもらっていたので」
「なら良かった」
立ち話もそこそこに小屋の中に入る。
「急で申し訳ないのだが、早めにしておきたい話がある」
サシャは何を言われるのか、緊張している様子だった。
「サシャ、何処かの学園に行かないか」
「え!学園?でも……」
学園を気になっていたサシャは喜ぶが当初から気にしていたお金の問題が頭をよぎる。
アストラは察している様子で、はっきりと言う。
「お金は気にしなくていい」
「でも……」
「サシャを引き取るときに補償や遺産の手続きをしているからそれを受け取っている。もちろん手はつけていない。サシャが必要になったとき渡そうと思っていた」
「でもそれは今までの生活費で使うべきで……。
私は何一つ働いていないから」
「サシャひとりくらいどうってことない。俺は弟子たちを実の子供のように思っているから生活費なんていらない」
「師匠……、ありがとうございます」
涙ぐみながらお礼を伝えるサシャ。
「まだ街に行く勇気がなくて、嫌なこと言ってきた子たちもまだいるかと思うと……」
「だから学園に行って一回色々勉強してくるといい。卒業後もし戻ってきたくなければ別場所で暮らすのもいいしな」
「……ありがとうございます」
「卒業後のことはゆっくり考えればいい。まだすら入学してないしな」
くすりとサシャが笑うとアストラも笑った。今後の話もして、サシャはイチェスに行くのは勇気はないが、その他に行くなら大丈夫そうとのことで、学園見学がある日は、弟子たちと一緒に行って見ることになった。
「ありがとうございます」
「お礼は二人に言ってほしい。学園を勧めたのはノアだ」
サシャは二人にも礼を伝えた。
今まで通り二人も旅立つときまでは荷物を届けに来ることを話し、この日は早めに引き上げた。
アストラの家につき、アストラからお礼を伝えられる二人。
「俺たちは何もしてないですよー。サシャさんが頑張ったのと、アストラさんたちが優しいからなんでー」
マリッサもノアの言葉に同意して頷く。
「いや、二人がいなければどう接してあげるのかいいかわからなくて、何も変わらなかったかもしれない。いくら礼を伝えても足りないくらいだ」
深々と礼を伝えるアストラに二人は困った様子だった。
「こちらこそ、居候させていただいてありがとうございます。とても助かっています。なので気にしないでください」
マリッサが伝えると頭を上げてくれた。
「いつまでいてもいいからな。部屋は余ってる」
三人は笑ってこの場は解散した。




