18 小島
次の日になりマリッサとノアは工房へ、ザイアス、ラウル、アメリアはリッシェへと向かうことになる。アメリアとマリッサは何かを話しているが、バスの時間となり三人はリッシェへと向かうバスへ乗り込んだ。
マリッサとノアは工房へと向かい、職人である店主と見習いの三人に挨拶をする。部屋を貸してもらう間は家事や雑用をすることになった。二日に一回小島へと向かう。
二回、小島に向かったが最初と同様に顔を見ることさえ叶わなかったが、諦めずにまた向かうことにする。
この日も小島へと向かう日で船に乗っているときに船を出してくれる見習いの男性から質問をされる。
「どうしてサシャにそんなになんども会いに行こうとするんですか?知り合いではないですよね」
サシャとは小島に住んでいる女の子の名前。男性が疑問を持つのは当然である。
「ええ、でも私と境遇が似てて」
察しが良いのか男性は頷いた。
「そうですか、ありがとうございます。俺もあの子がまた工房で作品を作って欲しいと思っているので」
男性曰くサシャは手先が器用で、繊細なガラス細工を作れるらしく、見習いの中でも将来有望らしい。
「師匠も見習いのみんなもなんて声をかけてあげればいいのかわからないんですよね」
男性は呟くように話す。すると目的地についた。
男性に渡された生活用品と食材を持ってマリッサとノアは小屋へと向かう。いつも通りノックをして声をかけて、ドアに生活用品と食材が入った袋をかけて帰ろうとすると、返事が返ってきた。
「なんで毎回無視してるのに、知り合いでもないのに、いつも来てくれるんですか」
「私が貴女と話してみたかったからです」
マリッサが答えるとドアが開いた。
「何も無いですけどそれでもいいなら」
少し緊張気味の黒髪ロングの女性、サシャがドアから顔を出してマリッサとノアを招き入れた。
お互い自己紹介を済ませて会話をする。
「師匠に頼まれて連れ戻しに来たんですか」
「いいえー。色んな経験をさせたいとは仰っていたけど、無理に連れ出したくもないって」
「なら、知らない人を巻き込まなくても」
「私が話してみたいって言ったんです」
マリッサが言うとサシャも興味を示す。
「私、嘘つきらしいけどいいんですか?」
嘲笑するようにサシャは言う。
「スクールの子に言われたんですか?」
「はい、聞いているかもしれないですけど、私はシエラトエラ戦役での戦災孤児です。あの場には吸血鬼は居なかった。両親を殺したのは人間だったっていったらそんなの嘘だって」
シエラトエラ戦役は吸血鬼による虐殺と世間では言われている。マリッサもその認識であるので、驚いている様子で何も返せなかった。沈黙を破ったのはノア。
「サシャさんはわかるもんねー。人間が吸血鬼か。そもそもその場にいないのに、見てもいないのに嘘って決めつけるのは良くないね。ご両親が亡くなってるのにそんな嘘つく必要ないのに」
ノアの言葉にサシャは涙を流す。
「ごめんなさい、初めて会う人にこんなこと話すなんて。今思えば私も軽率だったんです。吸血鬼側しか判断がつかないのにああ言ってしまって。あの場にいた人からしたら嘘をついているのは私だって今なら分かります」
「それは嘘ではないですよ。私達人が知ることができないだけで」
「そうだね、マリッサ。見え方が違うだけで両者ともに嘘はついていない。どっちがいいとか悪いとかもないよ。
大丈夫。俺たちは嘘だって言わないよ」
ノアは前半はマリッサを、後半はサシャを見て伝えた。
「ごめんなさい。初対面でいきなり泣いちゃって」
「大丈夫だよー。落ち着くまで待ってるよ。初対面だからこそ話しやすいこともあるかもしれないしねー」
少しサシャが落ち着くのを待つ。
「そうかもしれません。師匠は優しいけど腫れ物を扱うように接してくるようになったし」
「どう声をかけていいのかわからないような感じだったけどねー」
サシャはくすりと笑う。
「師匠らしいかもしれません。もうここに長くいて、戻る勇気もなくなっていて」
「ここまで送ってくれたカルクさんは貴方の作品をまた見たいって言ってました」
「工房に戻るか決めるのは今日じゃなくていいよー。サシャさんとここで話せたことと、まだ少しここにいて整理したいってことをアストラさんに伝えてもいいかなー?」
アストラとは店主のこと。
「はい。師匠やみんなにもいつも感謝していると伝えてほしいです。またガラス細工や陶芸をしたいと伝えてください」
「はい、必ず。また来ます」
二人は小屋をあとにして、船の場所へと戻る。カルクにサシャと話せたことを話すと、彼は驚きつつ喜んでいた。
工房へと戻り二人はアストラにサシャの様子を話す。
「そうか、二人ともともありがとう。あともう少し会いに行ってあげてもらえないか」
「もちろんです、あとに一つ提案ですがサシャさんを学園に入れてみたらいかがですか?」
ノアの提案にアストラは頷く。
「そうだな、一回ここを離れて同じくらいの歳の子と切磋琢磨するのもいいだろう。見習いたちも芸術専攻で学園を卒業してる。それにあの子が元気なら戻るところはここじゃなくてもいいんだ」
「アストラさん……」
スクールは学園と違い場所ごとに通うスクールが決まる。サシャの心を閉ざす原因になった子たちも、まだこの街に住んでいるかもしれない。
そのことにアストラは気付いている。
「そろそろ夕食の時間だ」
三人は食事を取りに向かった。




