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遥かなる旅路で  作者: 星野すばる
サルザールト編
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16 イチェス

出発の日。サルザールトに三日ほどかけて戻り、目的地であるイチェスへと向かうことになった。滞在中にお世話になったマチルダやエリーに挨拶するため劇団に寄る。


礼を伝えて別れるとシェーナとカリンも来てくれて、別れを惜しむ。


「アミー、また来てくれる?」


「うん、来たら会いに行くね。元気でね、シェーナ」


アメリアは大きく手をふるシェーナに手を振かえし、一行はその場をあとにした。



予定通りサルザールトのイチェスへ到着した。観光名所ではないようで、賑わっている様子はない。

首都同様レンガ造りなのは変わらないが、アパートのような建物ではなく一軒家で、一軒一軒の敷地が広く、工房のような建物を備え付けている家が多い様子であった。


一部の工房では、店もやっているようで看板が出ている。


とりあえず住民と話をしようということになり、ノアが店に入る。あまり大きくはないので一人で声をかけてみることになった。


「いらっしゃいませ」


奥から若い男の人が出てきてくれて対応をしてくれる。ノアは並べられた、ガラス細工を見ている。


「どういったものをお探しでしょうか」


「友人への婚約祝いを探していてー」


「でしたらこちらはいかがでしょうか。」


進められたのはピンク色と水色のペアグラス。


「じゃあこれでー。あとネックレスとか無いですか?赤色の。赤色だと難しいですかねー」


「お買い上げありがとうございます。そうですね、この街の奥にある街一番の大きい工房では取り扱っているかと思います」


買ったグラスを包みながら店主が教えてくれた。ノアが店を出て一行と合流をして、その話をすると教えてもらった街一番の大きい工房に向かうことになった。


奥に進むとひときわ大きい工房が見えてきた。看板も小さいながらも立っており、営業をしていることがわかった。ここも大人数では迷惑だろうと考え、ノアとマリッサで向かった。


店に入ると厳格そうな年老いた男性が奥から出てきた。いかにも面倒くさそうな表情を浮かべている。


「あのー、赤のガラスを扱っているって聞いたんですけれど」


「またガラスか」


小さく呟いた。その声はノアには届いたようだった。


「ガラス以外にも何か作られているんですか」


「うちは昔陶器をメインに扱っていたが、最近はガラス細工ばかりだ」


「陶器も見せていただけますかー?」


主人は裏へと戻り数分後、グラスと皿をいくつか持って戻ってきた。


「素敵ですねー、この曲線と色。グラデーションも素敵ですけど、色そのものが素敵です」


ノアは学園では絵画を専攻していたからか、芸術品は好きなようで、持ってきてもらった陶器を見つめている。


「あんた、陶器が好きなのか?」


「ええ、と言いたいところですが、芸術品はなんでもって感じですね。学園で絵画専攻してたのもあって、色の使い方とか表現の仕方とか意図とかを考えるのが好きでー」


「そうか。若いもんだと珍しいな。最近はガラス細工のほうが人気だからな。俺は陶器のほうが得意なんだが……」


「両方好きなんですけど、このグラスとお皿が特に好きです。こちらは購入できますか?」


「ああ、もちろん」


「マリッサ、それ気になるの?」


店主と話し続けていたノアが、マリッサの視線に気づき声を掛ける。


「うん、私、陶器を見るの初めてで、この色すごい素敵だなって」


「すみませんー、それも包んでもらえますか」


「ああ」


店主が黙々と陶器を包んでいると、唐突に話を振られた。


「少し頼まれごとをしてくれないか、時間に余裕があればでいいが」


とりあえず店で話を聞くことになった。


「今日はいないが何人か見習いがいるんだが、そのうちの一人に会ってほしい。その女の子は戦災孤児で、たまたま居合わせた俺が引き取ることにした。その子も陶器を好きになってくれて、陶芸を教えてたんだが、スクールで心のないことを言われて塞ぎ込んでしまった。もう五年だ」


「戦災孤児……」


マリッサがつぶやくと店主も反応する。


「知ってるかわからないがシエラトエラ戦役だ」


サルザールトからは遠いので知らなくてもおかしくはないが、二人はもちろん知っている。


「あの子は十八でまだ若い。事情が事情なだけに無理に連れ出したくもないが、もっと色んな経験をさせたい。俺はもう老いぼれだからいつ死ぬかわからん」


「私話してみたいです。私もシエラトエラ戦役で両親を失っていますが、祖母や友人のお陰で立ち直ることができたので」


「ありがとう、その兄ちゃんが話が得意そうだからと声をかけてみてよかった。その子はここから少しだけ離れた小島に住んでいる。行くときに声をかけてくれれば見習いが船を出す」


ノアが五人で来ている旨を伝えると、船が小さくて三人しか乗れないとのことだった。まずはマリッサとノアで向かうことにした。


ザイアス、アメリア、ラウルは話を聞いたあと待つことになった。店主が教えてくれた宿へと向かい部屋を取る。マリッサとノアはさっそく小島へと向かった。


店主の見習いが船を出してくれて、島に到着する。すぐ近くに家が立っており、そこに住んでいると教えてくれた。


ドアを叩くと反応があった。


「え、誰?」


「初めましてー、イチェスの奥にある大きな工房のご店主から頼まれて伺いました」


「どうせ連れ戻しに来たんですよね、帰ってください」


ドア越しに伝えられる。ノアとマリッサは顔を見合わせる。


「今日は帰りますが、また来ます」


初めから無理強いするのは良くないと判断してマリッサが答えた。船へと戻り、工房へ戻り店主に話をした。


「やはり、初めての人だと会ってもくれないか。年が近そうだからいい話し相手になればと思ったんだが、そう簡単にはいかないな。二人ともありがとう。あとはこっちでなんとかする」


「もし良ければ、定期的に声をかけてみましょうかー。船を出してもらう必要があるので無理にとは言えませんが」


ノアの提案に店主は少し考えてからうなずいた。


「無理のない範囲で行ってみてあげてほしい。二日に一回生活用品や食材を弟子たちが届けてるからその時でもいいか」


二人は用事は特にないので、提案のとおりにする。


「兄ちゃんたちどこに住んでいるんだ。首都か?」


「今旅をしていてー。今日は宿で泊まろうかと」


「うちの部屋が空いているから好きなだけ使えばいい。もてなせはしないが」


この日はすでに宿を取っている旨を伝えて、明日から使わせていただくことにした。


一旦工房をあとにして宿で待っているザイアスたちと合流して話をした結果、ザイアスたちは一旦リッシェに行って、サルザールトの南の街を少し調べながら戻るとのことだった。


「一ヶ月後に婚約パーティを開くから少し準備をしたい。それにこの街の宿は少ないからあまり占領する訳にはいかないからな」


「もう一ヶ月かー。前と同じところ?」


「ああ、ミリア嬢の家の別荘だ」


前とはミリアたちの卒業パーティ兼アメリアの誕生日パーティのときのこと。ミリアの別荘のほうが広く、友人たちも集まりやすいらしい。


軽く話をしたあと、ちょうど夜になったため、夕食を取って各自の部屋に戻る。明日、三人はリッシェに向かうことになった。


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