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遥かなる旅路で  作者: 星野すばる
サルザールト編
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15 出発前夜

二人は控室に戻り引き続き着替えなどの帰り支度を再開する。支度を終えたところで丁度、シェーナの母が迎えに来ているとのことでカリンと三人で建物の裏にある関係者出入り口に向かった。


「シェーナ、とても素敵だったわ。お疲れ様」


シェーナが駆け寄ると母親がシェーナの目線になるようかがみ、優しく撫でた。

シェーナの母も関係者席で観劇をしていた。


「ありがとう、お母さん。でもちょっとだけ恥ずかしい」


少し不思議そうにした母親はアメリアとカリンの存在に気付いた。


「カリンちゃん!それと……」


「初めまして。アメリア・リスナールと申します」


「初めまして。シェーナの母です。娘がいつもお世話になっております」


「いえ、こちらこそ」


アメリアはシェーナの母親に頭を下げた。


「シェーナからお話は聞いてます。お会いできて良かったわ」


シェーナの母親は優しく微笑んだ。

シェーナとシェーナの母親は近くに住んでおり、途中まで四人で帰宅した。


二人と別れたあと、カリンがアメリアを宿まで送り届けてくれた。マリッサ、ラウル、アメリアでご飯を食べに行くため、カリンも誘ってみたところ、予定はないとのことで四人は近くのレストランに向かう。


すぐに席に通されて、注文を済ませる。


「ありがとう、カリン。アメリア送ってくれて。今日は俺たちは劇場に近づけなかったから」


劇場の周りは警戒態勢で多くの警備員やレヴァントゥレットからの騎士たちがおり、一般人は近づくことを許されていなかった。


「ううん、アメリアと長く話せて嬉しいから気にしないで。ザイアスさんとノアさんはまだ戻ってないの?」


「うん、遅くなるって言ってた」


マリッサが答えるとちょうど食事が届いた。周りの客に配慮しつつ今日の劇の話をしたり、雑談をしたりしてこの日は早めに解散することになった。


次の日も公演がありアメリアは朝早く劇場に向かった。ザイアスとノアは明け方に帰ってきたようでまた眠っている。公演の一時間ほど前にラウルとマリッサは劇場に向かった。


公演は昨日と同様に問題なく終わり、アメリアは打ち上げへと向かった。最後まで参加して、帰りはエリーが送ってくれた。


アメリアは自室に戻る前にザイアスの部屋に寄るとノアとラウル、マリッサもいた。


「お疲れ様、劇すごく素敵だったよ」


「お疲れ様、俺も感動した」


二人が声をかけてくれて嬉しそうにするアメリア。


「俺もちゃんと見たかったなー、ねー、ザイアス」


「仕方ないだろ」


二人は護衛という名目でいた為、横目でしか見れていなかったとのこと。


「アメリア、お疲れ様ー。これ飲む?」


部屋にあったアメリアお気に入りのフルーツジュースをノアが渡すとアメリアは喜んで受け取った。


「お疲れ様、お陰でペンダントが埋まった。アメリアありがとう」


これで7つ目。ようやく半分を超えたところ。

一行は三日後のカリンが主演の劇を見た次の日にサルザールトへ戻ることを決めた。


一行はアメリアの劇が終わった打ち上げをして、カリンの劇の日までは自由に過ごした。

そして劇の日になり、一行は劇場に向かった。


女騎士の一生を描いた劇で、アクションがメインの劇だった。吸血鬼の身体能力を活かし、スタントなどは立てずにすべてカリンが行っていた。


劇が終わり一行は劇場をあとにする。カリンとはこのあと飲む約束をしている。数時間後、宿にカリンが訪ねてきてザイアスの部屋へ集まった。


「お疲れ様、すごくかっこよかった!」


アメリアがカリンに伝えると嬉しそうに笑った。


「ほんと?よかったあ」


初の単独主演で緊張もしていたようで、気が抜けたようにカリンは笑った。明日は休みで一日おきの公演が2週間ほど続くらしい。


「みんなは明日もう出るの?」


少し話したあとアメリアとマリッサが明日に備えて寝ることにしたところ、カリンが聞くとザイアスは頷いた。


「そっか、また来てね。アメリア、マリッサ、また女子会しようね」


お互いの連絡先を伝えた。前回は伝えそびれており、連絡が取れていなかった。


「ふたりとも部屋まで送るよー」


ノアとともに二人は部屋をあとにした。

ノアが戻り、残った夜に強い四人は飲み続ける。


「ねえノアさん、なんか言うことない?」


カリンがニコニコしながら言い始める。


「バレてるかー」


ノアは笑いながら言う。


「うん、見てればわかるよ。ノアさんが特にアメリアを大切にしてるのは前からだったけど」


「え?なに」


事情を知らないラウルは話が読めないようだった。


「まあ否定はできないねー」


ノアは笑いながら言う。ラウルが不思議そうにしているのを察して改めて伝える。


「アメリアと付き合うことになったよー」


「え?ほんと?全然気づかなかった」


ラウルだけ驚いていた。気づいてもいないようだった。


「どっちから告白したの?」


カリンは興味津々な様子で聞く。


「俺だよーってなんか恥ずかしいね」


笑いながらも照れているノアに遠慮せずカリンは話を続ける。


「わあ、かっこいい!いつから好きだったの?」


「それは俺も気になる。気づいたの最近だったからな」


珍しくザイアスも興味があるようで、話を聞こうとする。


「えー、んー、学園入ったときくらいかな。その前からも守ってあげなきゃとかは思ってたけど。年も離れてるからね」


照れくさそうに答えるノア。

一行の中だとアメリアが最年少、ノアが最年長である。


「旅が終わったらどうするの?」


今度はラウルが聞く。


「決めてないけどなんかひっそり暮らせればいいかな。五十年くらい休暇取れないかなーとか思ってる。

俺は次男だから継ぐ家も領地もないしね」


「とはいってもノアはどこからも引っ張りだこだろ。家業から離れられても騎士団や警備隊から」


家や爵位、領地を継げるのは何かがない限りは長男のみ。次男以降だと領地内に住んだり、外に出たりと様々。ただ、階級は貴族階級のままである。こちらは吸血鬼の血の濃さで決まっているため、変わることはない。ただ、世間的に見ると可哀想という哀れみを含んだ目で見られやすい。


「なんというか貴族階級ってどの立場でも結構大変だよね」


ラウルが呟く。


「そうだね、私みたいなのが例外だと思う。私は姉妹の中では末っ子だからってのもあるけど」


「でも戻ったら結婚でしょ?」


貴族階級は血の濃さと言われつつも、家同士の繋がりは重視される。大体は思想の合う家や上の爵位を持つ家に嫁ぐ。いわゆる政略結婚。そのため、あまり生涯未婚ということはない。ただ、最近は階級が同じであれば恋愛結婚も増えてきているらしい。


「うん、まあこればかりはねー。若いうちはやりたいことやらせてもらったから、何も文句はないよ。

相手も気に入る人でいいって言われてるし。千年共にするのに合わない人だったらきついからって」


「たしかにそうだよね、うちもその辺は無理強いされないかな」


「ああ、俺のときもお互いに話しをして慎重だったな」


三人は口々にする。


「ザイアスも婚約者の方と面識あったんだっけ」


学園都市でのことを知らないラウルが聞く。


「ああ。だがアメリアとのほうが仲がいい。

結婚式のドレス、アメリアに作って欲しいって言ってるくらいには」


アメリアが服を作ることを知らなかったラウルとカリンは驚いた。最近は何かと忙しいか機材がなくてほとんど服を作っていなかった。


そろそろお開きとすることになり、ラウルがカリンを送る。

歩きながら話をする。


「ノアにはびっくりした。カリン、よく気がついたね」


「女の勘だよ」


なんて言いながら笑う。


「俺さ、すごい悪いやつなんだけど、少しノアが羨ましい。俺には真似できないから」


「立場が違うし仕方ないと思うよ。長男は家を残していかなきゃいけないから」


「でもそれは吸血鬼の事情であって、あの子には関係ないから」


「吸血鬼と人とか、階級とか生まれた順番ってさ、私たちの努力ではどうにもならないから卑下する必要はないと思うよ。それに羨ましく思うのは自由だと思うし、ラウルのこと悪いやつなんて思わないよ」


カリンは通行人がいるため少し声を落としながら言う。


「ありがとう」


カリンの家に着いて、二人は最後に挨拶を交わす。


「また会おうね。私あと数年でこの国は出ちゃうけど。出たとしてもレヴァントゥレットで会えると思うから」


「劇団やめちゃうの?」


「うん、見た目が変わらないからずっと同じところにいられないかなって。演劇を続けるか別のことをするかわからないけど」


吸血鬼は二十代で当分見た目は変わらなくなる。人が多いところで吸血鬼であることを公表しないで過ごす場合は少し気にする必要がある。


「そっか。またね」


と手を振って別れた。



同時刻のザイアスとノアは部屋で話を続けていた。


「なんか俺ばっかり好きに生きてるねー」


「否定はできないな」


なんて言いながらザイアスは笑う。


「でもノアは好きなようにやりつつもやることはやってると思っている」


「なんだかんだ家業の手伝いとかもしてるしね。それにさっきはああ言ったけど、おそらく休めないのはわかってるんだよねー」


「そうだな、色んなところから声かかってるだろ」


「それなりにねー。とりあえず今は騎士団所属になっているけれど、俺集団行動苦手だからなー。諜報部隊とかならいいけど。本当はそっちのほうが得意だし」


騎士団とは国王が持つ軍隊で、よりすぐりの腕前を持つ吸血鬼が所属する。


「そうだなと言いたいが、体術もかなりの腕前だからな。若手だとトップだって聞いた」


「小さい頃から叩き込まれたからねー。もともとは家業の手伝いをするためだけど」


話しているとラウルが戻ってきた。

明日は出発ということで、休むことになった。

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