14 吸血鬼のお姫さま
アメリアはその後も稽古をこなし、いよいよ公演初日となった。公演は夕方からとなっている。観客は吸血鬼のため、夜からにするかという話もあったが、シェーナがまだ幼いため、夕方という話に落ち着いた。
昼過ぎ。ザイアスとノアも早めに向かうとのことで、アメリアと一緒に劇場へ向かった。ザイアスとノアは集合が劇場ではない別の場所とのことで劇場の前で別れた。
開演一時間前になり、アメリアはともにメイクや衣装への着替えを済ませたシェーナと控室で過ごしていると、シェーナは呼ばれ舞台袖へ向かう。
気づけば開演十五分前。アメリアが廊下で聞こえる声に耳を向けると、いつもと違うため少し慌ただしいようだった。
アメリアの出番は終盤二十分ほどなので、一度休憩を挟んだあと。まだまだ時間に余裕があった。
時間に余裕はあるがアメリアは緊張をしていた。前はラウルが居たが今回は一人。ソワソワと落ち着かず、部屋を無意味にぐるぐると歩いていた。
するとカリンが控室に来た。
「ぐるぐるしてどうしたの?緊張してる?」
「わ!」
カリンの突然の登場に驚いた様子のアメリア。
「そろそろメイク直しと衣装チェックだって」
「ありがとう」
カリンに連れられて別室へ向かった。
アメリアが用意を進めている中、舞台は始まっていた。
とある国で吸血鬼のお姫様が誕生し、大変な祝福を受けたお姫様が五歳になり、何でも願いが叶うならどうするかという夢をみた。好きなくまのぬいぐるみに囲まれて過ごしてみたり、好きなケーキを毎日食べるというようなことを夢の中でしていると、目が覚めてしまう。
目が覚めたあと少し残念がるが、夢の中ではたった一人ぼっちだった。普段一緒にいる母と父と兄や仲良のいいお世話係のメイドなどがいないのはとても寂しいことにお姫様は気付く。
ここまでが劇の前半。一度幕を閉じ休憩時間になった。アメリアの準備は終わり、再び控室へ戻る。前半に劇へ出ていた人たちのメイク直しや衣装なおしで舞台裏は慌ただしかった。
劇はコミカルに描かれているが、元々は三歳になったお姫様の生誕を祝うためのものだったので、小さい子でもわかりやすいストーリーとなっている。
再び幕は上がり後半がはじまる。
目が冷めた直後にとても仲の良い兄に会いに行き、続いて両親、メイド、料理人、庭師、護衛の騎士と自身と関わる者たちにお礼を伝えに行く。突然の礼に困惑しながらも笑顔で対応してもらい、姫様自身も笑顔になる。
そして二年後にお忍びで城から出て城下町に行っても、貴族や城下町の者たちにも大切にされている様子だった。
そんなときに大切にしていたぬいぐるみをどこかで落としたまま城に戻ってしまった。
ぬいぐるみがないことに悲しむお姫様を慰める両親と兄。全力で捜索をするメイドや護衛たち。もういいのと周りを気遣い諦めた様子のお姫様。そんなときにお城に、お姫様がお忍びで訪れていたお店の店主がお姫様のものではないかとぬいぐるみを届けてくれていた。そんな優しく温かい環境でお姫様は育っていった。
ここでシェーナの出番が終わり、アメリアと交代する。アメリアが舞台に上がると、舞台から見えた景色は前回とは違く観客が少なかった。だが、大多数が軍服を着用しており物々しい雰囲気で、緊張感が漂う。一番は他国とはいえ国王陛下が観劇されているのが、舞台上からも拝見できる。国王陛下がこの劇をとても好んでいることをアメリアは知っている。それが緊張感を増幅させる。
アメリアは心のなかで落ち着くよう一呼吸をしてから劇へと集中した。
この日はお姫様の二十歳の誕生日。レヴァントゥレット国では成人として認められる日。城ではパーティが開かれていた。大勢の人たちにお祝いの言葉やプレゼントを渡され対応に追われており、嬉しさ反面体は少々疲れていた。
見かねた兄がお姫様を連れ出して、バルコニーへ向かい話をする。今のことや小さかったときのこと。そして未来の話。
お姫様とお姫様の兄はこの温かい国民の住む国のために、力を尽したいという話をした。
今何ができることがあるかというお姫様の問いに、歌ってはどうかと提案され、恥ずかしがりながらも歌を歌う。
パーティ会場にも聞こえており、耳を澄ます招待客たち。歌い終わると拍手が巻き起こった。照れ笑いしながら兄と会場へ戻り、両親である王と王妃に笑顔を向けたところで幕は降りた。
大きな拍手に包まれてアメリアや出演者たちは胸をなでおろす。
カーテンコールを行って、アメリアを含めた役者たちは舞台裏へと下がる。各々ねぎらいの言葉を交わしたり、水分補給をしていたところマチルダからも全員に向けたねぎらいの言葉を伝えられた。
マチルダは国王陛下にご挨拶をするため。足早にその場を去った。明日の公演は昼過ぎからのため、アメリアたちは衣装を着替えたら解散とのことで、シェーナとともに着替えに向かう。
あまり長い時間装着できないカラーコンタクトを取り、ウィッグを外そうとしたところエリーが来た。
「シェーナ、アメリアさん。レヴァントゥレット国王陛下がお会いしたいと仰っています」
そのような予定はなく固まるアメリアと、幼いながらも状況を察するシェーナは動きを止める。個人的にとのことで作法も必要ないと言われても、相手は一国の長。
断るすべもなく二人はエリーに連れられて挨拶をすることになる。
陛下はVIP客用の控室に通しているとのことで、そこに向かった。そこには陛下と数人の護衛とマチルダが居た。
「初めまして。アメリア・リスナールです。お会いできて光栄です」
作法が分からず、とりあえず片膝をついて挨拶をする。アメリアを真似してシェーナも挨拶をする。
「私が無理を言って来ていただいたので、気にしないでください。お二人ともそちらに」
椅子に座るよう促されたが、したがっていいのか分からず、アメリアがマチルダを横目で見ると頷いていたので、従った。
陛下は人間の年齢に当てはめると五十代くらいに見えた。
「お二人共、今日はありがとうございました。ご無理を言ってしまったようですね」
「いいえ、陛下やマチルダさんの思入れのある劇を演じることができて、幸せでした」
アメリアが笑顔で返す。
「お二方にこちらを」
陛下の声がすると護衛の二人が何かを持って、テーブルにおいた。小さな小箱がアメリアとシェーナの前に二つ並ぶ。護衛の二人が箱を開けると、アメリアの前の箱にはブレスレット、シェーナの前の箱には髪飾りが入っていた。
「私のわがままを聞いてもらったお礼です」
どう対応すればいいのか分からず再度アメリアはマチルダを見るがまた頷いていた。
「ご配慮いただきありがとうございます。ありがたく頂戴いたします」
「ありがとうございます、大切にいたします」
アメリアとシェーナがお礼を伝えると、
「以前もレヴァントゥレットの方に素敵なネックレスをいただきました。重ねてお礼申し上げます」
「礼を伝えるのはこちらです。我儘を聞いてくださってありがとうございました。おふたりともとても素敵でした」
一国の王に丁寧に改めて丁寧に告げられてたじたじになってしまう二人を見かねて助け船を出したのは側近の者だった。
「陛下、そろそろご移動の時間です」
二人は再度礼を告げて部屋を去った。




