13 再集合
少し時は戻り、アメリアの稽古が始まった。朝は近所に住むカリンと一緒に向かい、帰りはノアが迎えに来るという生活を続けていた。
稽古はアメリアにとって、とても楽しいようで、充実した日々を送っていた。お姫様の幼少期を演じるシェーナとも仲良くなり、前回の劇で共演したトーマスとも再会をしていた。ペトラはこの劇には出ないようで、会えていない。
この日は休みでノアと街にでかけた。
「明日、ちょっと出かけてくるねー。帰りはカリンが送ってくれるって言ってたから。明後日の朝には戻るよ」
「うん、気をつけてね」
アメリアの頭を撫でるノア。二人の表情は穏やかだった。
「今日はどこに行くの?」
「ミリアさんとザイアスに婚約のプレゼントを渡そうと思ってて、ペアのテディベアを作ろうと思うの」
アメリアの希望で手芸の道具が揃う店へ向かった。お目当てのものが見つかり、嬉しそうにしていた。そして食事を取り部屋へ戻る。
作業をするというアメリアは部屋へこもった。ノアも部屋へ戻る。ノアはすることもなくベッドへ横たわる。夜中に出る予定なので少し眠っておいた。
夕食時に目を覚まし、アメリアのところへ向かう。いつも宿のレストランで夕食をとるが、休みの日はレストランへ向かう。食事を取りアメリアを部屋まで送り届けた。
ノアは夜明けに宿を出た。シエラトエラで用事を済ませ明け方に戻る。もう少しでアメリアの起床時間とのことで朝食をとれるようにと待っていた。
「おはよう、アメリア」
「戻ってきたんだね、お疲れ様」
二人は朝食を取り、アメリアは稽古へと向かった。アメリアは劇団と宿との往復を繰り返し、ノアは絵を描いたり、アメリアを迎えに行ったりしながら日々を過ごしていた。
あっという間にラウルとマリッサが戻ってくる前日なった。アメリアは休みでこの日もノアと過ごす。この日はノアの誕生日。
街で買い物をしたり、スイーツを食べたりして過ごして、夕食は少し豪華なレストランで取った。ふたりとも楽しそうに一日を過ごし、アメリアはノアにプレゼントを渡した。
食事を済ませたあとは、いつものようにアメリアを部屋まで送り届けた。
「また明日ねー、おやすみアメリア」
ノアが部屋を出ようとするとアメリアが服をつかんで止めた。
「もう少し一緒にいたいの」
小さく呟くアメリア。背中越しの声もノアは聞き逃さない。くるりとアメリアの方へ向く。
「一緒に寝てもいい?」
ノアは優しい声音で言うとアメリアもこくんと頷いた。ノアはアメリアの手を取ってベッドへ向かう。
二人は向かい合って少し話をする。
「アメリア疲れてない?」
「ううん、疲れてないよ。いっぱい稽古して良い劇になるように頑張りたい」
「応援してるよ」
疲れてないといいつつも、疲れはあったのかすぐに眠ってしまったアメリア。
優しくアメリアを撫でると、ノアに抱きつくようにくっついた。
「ずっとこうしていられたらいいのに。俺とアメリアだと流れる時間があまりにも違うから」
小さく呟いた言葉はあまりにも切なく、そして誰にも届くことはなかった。
朝になりアメリアは目を覚ます。体を起こし軽く伸びる。するとノアも目を覚ました。
「ごめん。起こしちゃった?」
「ううん。おはよう、アメリア」
二人は朝食を取りに行き、アメリアは稽古へと向かった。
夕方になり、アメリアを迎えにノアは宿を出る。丁度ラウルとマリッサが戻ってきたようで、宿で手続きを終えたところだった。
「二人共お疲れ様ー」
「どっかいくの?」
「アメリアのお迎えにねー、二人はゆっくりしてて」
この日はバス移動で疲れていた二人はノアの言葉に甘えて部屋で休むことにした。
そして劇の三日前となる。ザイアスも実家から戻ってきた。この日は稽古は休みで、カリンも加えた六人で昼に食事をして、昼間から部屋で飲んでいた。
「後三日だね」
「うん、緊張する」
ラウルがアメリアに声をかけた。
劇は二日間で二公演のみ。一日目が国王陛下を招いての公演で、極少数の関係者のみ。二日目は抽選に当たった劇団の会員のみの限定公演。
「私達も招待して頂いたのだけど良かったのかな」
「主演クラスの家族や親しい人にはいつも席を用意してるからから気にしないで」
二日目の公演にマチルダから招待を受けたラウルとマリッサは、カリンから宥められる。
ザイアスとノアは一日目に同席するのが決まっていたため、二日目の招待は断っていた。
「あと、これ私の劇のチケット」
カリンがチケットをザイアスに渡すと、ザイアスは代金を渡そうとする。
「いいのいいの、これも招待のチケットだから」
「何枚もあるものではないだろう」
「私は両親も来れないし、友達も少ないからいいの。あ、両親と仲悪いわけじゃないよ。領地を離れられないだけで」
「ありがとう」
ザイアスも有り難く受け取る。
「そういえばカリンも観に来てくれるの?」
アメリアはカリンに尋ねると頷いた。
「観に行くというよりは手伝いで裏方にいるよ。一日目だけ。そのほうが何かあったときにシェーナやアメリアが安心するだろうってマチルダさんが」
「安心?」
疑問に思ったマリッサが尋ねる。シェーナは子役で舞台は慣れているだろうし、アメリアは前回の一回のみだがその時はそんな話はなかった。
「普段とは違うからね、一日目は。何かがないとも言えないしって緊張させることをいってごめんね」
他国の王を招くため、いつも以上に警戒態勢なのはアメリアも知っていた。それほど驚いてはいない。
「ううん、大丈夫だよ」
「アメリアって意外と肝が据わっているよね」
意外そうにラウルが言う。
「そうかな、でも他国の王様にご覧になっていただくのは緊張する」
なんて言ってアメリアは笑った。
早いうちに解散するが、ザイアスとノアはザイアスの部屋で少し話していた。
「マリッサは大丈夫そうか」
シエラトエラで起きたことは把握していたザイアス。
「多分ね。でも強がってないといいけど」
「騒ぎを起こした奴らは反純血種派の仲間だったと聞いた」
重々しく話すザイアスにノアは反応する。
「そっか。ちょっと何したいのかよくわからないなー」
「吸血鬼が騒ぎを起こしてるのに、純血種が出てこないなら意味がないというパフォーマンスをする予定だったみたいだ。吸血鬼も含めて平等に暮らすための一歩だと話していると聞いた」
「話にならないね。反純血種派が共存から遠ざかるようなことしてるのに。この間だって人に怖い思いさせて。
今の状態が最善だと思うけど」
珍しくノアが低い声で言う。
「……そうだな。反純血種派の吸血鬼はほぼ普通階級の力を持たない吸血鬼と聞いている。力を持つ純血種や貴族階級のことはよくわからないのだろう」
「思ったけどさシエラトエラ戦役も純血種の株を下げるのが目的だったんじゃない?」
「可能性はあるな。結構色々なことが絡んでて真相はよくわからないって聞いている」
「俺だって人と共存したくないわけではないけど、俺たちは吸血鬼。所詮人から見たらバケモノだ。ある程度の距離は必要なのに」
俯きながら話すノア。まるで自分にも言い聞かせているようだった。
「ノア?」
ノアの様子に少し気になったザイアス。ノアは何を思ったのか突然話を変えた。
「俺、アメリアと付き合うことになったよ」
「そうか」
先程のノアの言葉もあり、短く返すザイアス。
「止めないの?」
「止まるものでもないだろう。感情を制御するのは難しいのは俺も知ってる、だが」
ノックの音がする。ノアが対応をするとラウルだった。
「話そうとするといつも中断されるな。今ではないということか」
誰にも聞こえないように静かにザイアスは呟いた。




