12 弔い
喫茶店に向かった二人は静かにコーヒを飲んでいた。
二人の間に会話は殆どない。マリッサは俯きラウルはその様子を心配そうに見ていた。
少し経ったあと、マリッサが顔を上げ口を開いた。
「献花しにいかなきゃ」
顔色が悪いのは変わらず、誰から見ても半ば無理に発した言葉なのは明白だった。
「今日はやめておこう」
「でも……」
「献花するのも大切にされてる儀式だけど、無理してしなくてもいいんだよ」
ラウルとマリッサの話し合いは平行線。明らかに無理しているマリッサをラウルが宥めている。
「お待たせー」
ノアが休憩時間になったようで合流した。空いている席へ座る。
「どうしたの?」
様子がおかしい二人にノアは投げかける。
「献花しにいかなきゃって」
先に答えたのはマリッサ。
「行こう、マリッサ」
ノアが間髪入れずに返すとラウルは驚く。
「明らかに調子悪そうなのに……!」
「じゃあさ、マリッサ。献花に行きたいのはどうして」
ラウルの牽制を気にせずノアはマリッサに問う。
「今年で丁度十年できちんと弔いをしたいの。もう私は大丈夫ってお父様とお母様にご報告をしたいの」
「なら行こう?俺もついていっていい?」
マリッサは頷くがラウルはまだ止める。
「マリッサの様子を見てると行かないほうがいいと思う。辛いことを思い出す必要はないよ」
「マリッサがねそれを望んでるなら俺もそれでいいよ。でもね、辛い気持ちに区切りをつけて前に進もうとしているなら応援したいなって」
ノアはマリッサの方を向く。
「二人ともありがとう」
方向は違うがノアもラウルもマリッサを考えてのこと。ラウルも納得したようでこれ以上は止めなかった。
「でももう少し時間をおいたほうがいいね」
「そうだねー、夜まで式はやってるからね」
顔色の悪さが少し回復するまでは、喫茶店で休むことになった。
「そういえばなんでノアがいるの?さっき騒動を止めてた特別警備隊員はノアだよね」
ラウルがノアに聞くとノアはうなずいた。
「ザイアスが行ってくれって言われててー。なにか起きるかもしれないからって」
案の定問題は起きた。ザイアスの勘は冴えているようだった。
「あの三人の目的はよくわからないけど、今警備隊たちが事情聴取してるよ。俺は関われないからね」
トラウマを思い出させるような出来事だったため、マリッサや喫茶店の客に気を使いながら言葉を選ぶノア。関われないという言葉にマリッサは少し疑問に思いつつも、事情を把握している様子のラウルは納得してる。
「アメリアは一人にしてるの?」
今度はマリッサが聞く。
「今日は稽古で帰りは夜になるからカリンが送ってくれるって。俺も車で朝に着くように帰るよー」
「車!?」
自家用車の普及まだされておらず、移動手段はバスが多いので驚く二人。
「ザイアスが手配してくれてたんだよねー」
「アメリアのこと一人にしたくないんだね、リッシェのアメリアの家以外で」
妙に納得するマリッサ。
「そうだねー。アメリアが少しでも寂しい思いをしないように昔からザイアスは気にしてたから。もちろん俺もできるだけそういう思いはさせたくないけど」
言葉にはしなかったが、アメリアは両親を知らないうえに頼る親族もいない。ラウルとマリッサも察していた。
マリッサはお手洗いに行ったため、ラウルとノアが二人になる。
「ラウルも辛かったら辛いって言っていいんだよ。ラウルは年下のサーカス団の団員たちといたっていう経緯もあるし、マリッサも居るしで言いにくいと思うけど」
「平気だよ」
「誰だって辛いときは吐き出していいんだよ。俺は年上だしいつでも話聞くよ」
ノアは優しく微笑んでラウルも頷く。
「今度一緒に飲みたいな」
ラウルが言うともちろんとノアは頷いた。
マリッサが戻ってきて、三人で献花台に向かうことにした。ユリを献花台に供えて手を合わせた。
ユリを流すのが慣例だが、ノアは休憩時間が終わるとのことでラウルとマリッサ二人で向かった。
全て終えてすでに夜。バスの時間を確認するが、最終バスは終わってしまっていた。
「ごめんなさい、私が……」
ラウルは遮って否定する。
「気にしないで、泊まることになるけどシエラトエラからは離れる?」
シエラトエラにはあまり長居したくない二人は少し離れた街まで移動してそこで泊まることにした。近場であればまだ最終バスに間に合う。
「ふたりとも帰れるー?」
ノアの声がした。私服に着替えてもう帰宅する様子だった。ラウルが気づいてノアの方へ向く。
「ノアも帰るの?」
「うん。もう人は少ないからね。本来の特別警備隊の人もいるし、先に帰っていいよって」
「私達は泊まってくよ」
「もし嫌じゃなかったら車乗ってく?マリッサも今日はお家でゆっくりしたほうがいいよ」
二人はノアの言葉に甘えることにした。ノアの予定が想定より早く終わったため、まだ迎えの車は来ていななった。一時間ほど喫茶店で時間を潰し、迎えの車に乗り、マリッサの実家まで送り届けられた。
運転手とノアに礼を告げて、マリッサは実家へラウルは家へと戻っていった。
マリッサはこの日は夕食後部屋へと戻り、疲れからかすぐに眠った。
次の日はソフィアと二人でお墓参りへと向かった。
近くのためさほど時間はかからず、家へと二人は戻った。
「昨日は大変みたいだったようね」
談話室で二人で軽く休憩を取っていたところ、ソフィアがマリッサに話しかける。
「はい」
「怪我がないようで良かったわ。あと一週間はゆっくりしてなさい」
「いいえ、お祖母様のお手伝いをさせてください」
「ありがとう。でも無理してはだめよ」
「すべての国を回るのも後三国。そこを見たら戻ります」
真剣な表情で伝えるマリッサにソフィアは少し困惑していた。
「一緒にいる方達と最後までいかなくていいの?」
「ええ。私とは流れる時間が違うので」
マリッサがはっきりと言いきると、ソフィアはそれ以上何も言わなかった。
「あと部屋にジェラルが持ってきてくれたプレゼントを運んであるわ。昨日の晩に来てくれてマリッサが元気になったら渡してくれって」
「ジェラルは?」
「もう出たわ。あの子も家業で忙しいみたいだから」
ジェラルはこの町で一番大きい商店の次男。他の街や国にも系列の商店を持っており、ジェラルも飛び回っている。そのため、この町を空けること多い。
部屋へ戻ると大きな花束が置かれており、手紙が添えてあった。
【挨拶できなくてごめんね。また会える日を楽しみにしてるよ】とあった。
元気になったらという言葉から、昨日あったこともおそらく知っている。あえて触れないところに優しさが滲み出ていた。
「ありがとう、ジェラル」
その後、マリッサはラウルを訪ねた。ラウルは家の中にマリッサを案内する。
「マリッサどうしたの?」
「昨日はありがとう」
「俺は何もしてないよ。ノアのおかけだ」
「ううん。ラウルの言葉も嬉しかったから」
マリッサの言葉に嘘偽りはないが、ラウルはあまり納得できていない様子だった。
「ノアとザイアスには敵わないなあ」
なんてぼやくラウルにマリッサは微笑んだ。
ニ週間の滞在期間を過ぎ、元いた宿へ戻った。




