11 二人の帰省
朝になり、マリッサとラウルはマリッサの実家へと向かった。アメリアとザイアスとなんとか起きたノアが見送った。
二人はバスを乗り継ぎ夕方頃にマリッサの実家に到着した。
マリッサの祖母、ソフィアに二人は挨拶をして、ラウルはサーカス団の団員たちが借りている家に向かった。
マリッサは実家でソフィアと夕食を取ることになった。
「また突然来てしまってごめんなさい」
「いや、いつでも帰ってきていいんだよ。それにそろそろ戻ると思ってた」
この時期はマリッサは、学園の休みも重なるため帰省することが多かった。
「当日は私は商談があっていけないけど、後日お墓参りに行こうか」
「はい」
「そういえば、ジェラルが戻ってきてるわよ」
「え、本当ですか。後で会いに行ってきます」
食事を終えて、マリッサは自室に戻った。
追憶式までの間、マリッサは実家でソフィアの手伝いをしながら過ごした。対してラウルは元サーカス団の団員たちの家で家事をしながら過ごしていた。
ある日マリッサはラウルたちに届け物があり、家へと向かった。
「あれ、マリッサが届けにきてくれたの?ありがとう」
元サーカス団の団員たちは仕事のようで、ちょうどラウル一人のようだった。
「ううん」
「そういえば、昨日ジェラルに会ったよ。今日ご飯食べに行くけど来る?」
予定などは特になかったマリッサは行くと返事をして、三人で夕食に行くことになった。
夕方。三人は待ち合わせ場所で合流し、ジェラルのおすすめのレストランに向かう。
「マリッサ、久しぶり」
「戻ってきてたんだね」
マリッサと親しそうに話す、黒髪短髪の爽やかそうな青年はマリッサの幼少期からの幼なじみであるジェラル。年はマリッサと同い年である。
「うん、ちょうどマリッサが前回戻ってきたときは、俺いなかったからね」
レストランに到着して食事を取り長く話し込んだ。夜もいい時間となり、帰りはジェラルがマリッサを送ることになる。
「あのさ、ラウルさんと付き合ってるの?昔から好きだったよね」
「気づいてたの?」
マリッサは驚いているようでそんな様子を見てジェラルは笑う。
「うん、俺マリッサのことずっと見てたからね」
さらっと告白のようなことを言うジェラル。マリッサはあまりにも自然な流れの発言に気づくのが遅れた。
「え……?」
「ラウルさんと付き合ってたら申し訳ないけど、俺、マリッサが好きだよ。返事はすぐにとは言わないから考えてくれる?」
「ラウルとは付き合ってないけど……」
「ごめんね急に。またね」
マリッサが驚いているうちに気づいたら家に到着していた。ジェラルは爽やかに言いたいことだけ言い残し、去っていった。マリッサは半ば放心気味に家へと入った。
部屋に到着し、ベッドへ沈む。頭の中の整理ができていないのかブツブツと呟いていた。
「ジェラル……気づかなくてごめんね」
マリッサは布団へ潜るといつの間にか眠りについていた。
追憶式の当日になり、約束通りマリッサとラウルはシエラトエラへ向かった。元サーカス団の団員たちも休みを頂いたとのことだったが、朝早く行くということで別行動となった。
追憶式は一日中行われる。慰霊碑にユリを捧げて近くにある川にもユリを一輪流すのが慣例だ。
二人はバスでニ時間ほどかけシエラトエラに向かった。
慰霊碑がある場所へと向かうと、人は多いようだった。
近くにユリを売っている場所があり、そちらで購入し、慰霊碑に献花する列へ並ぶ。
「マリッサとは来るの初めてだったね」
「うん、むしろこの日に慰霊碑に来るのは初めて」
いつになく静かな二人。十年時が経っても大切な人を亡くした哀しさは消えない。他の訪れている人も同様で会話は少なく静かだった。
だが、その静寂は破られた。
列の前の方から悲鳴が聞こえた。 状況はよくわからないが逃げる人によって列は崩れる。
「俺たちは吸血鬼だ!!!」
マリッサたちにも声がしっかりと聞こえて事態を把握する。
あたりにいた人は急いで逃げるが、呆然として遅れてしまっている人もいた。男たちは三人組のようで、まだ叫んでいるだけのようで武器などは出していない。
「マリッサ、念の為逃げよう。走れる?」
マリッサも呆然としている一人。足がすくんで動けない。そんなマリッサを抱えて少し離れた。
警備員も近くにいて辞めるよう声をかけているが、声を上げるのをやめない三人。まだ手を出していないため牽制をしている。
そして懐からナイフを出す。あたりから悲鳴が上がる。
一人の制服が違う警備員が三人の前に出てナイフを持っている男の手を掴み、力が抜けたところでナイフを奪う。加勢しようとした男の脇腹を蹴り飛ばし、立てなくする。ナイフを持っていた男は投げ飛ばされて腰から落ちる。最後の一人は逃げようとしてたが、同様に動きを封じられた。
「お前一体なんなんだ……」
現れた警備員に対し、ナイフを持っていた男が掴まれた自身の手を確かながら尋ねる。
「吸血鬼だよ、お前らと違ってね」
後半の言葉は小さく、辺りの人たちには聞こえない。
耳打ちされ何かを聞いた別の警備員が男三人を連行していった。
「怖い思いをさせて申し訳ございません。体調の悪い方がいらっしゃいましたら医務室へご案内します」
何人か座り込んでいる人に声をかける制服が違う警備員。
十年前、実際にシエラトエラ戦役を目の前にして生き残った人もおり、トラウマからか泣き出す人もいた。
「本当にいたんだ。特別警備隊」
「初めてみた」
あたりの人が口々にする。
特別警備隊とはシエラトエラ戦役のあとにできた、吸血鬼による警備隊。基本的に人間の住む場所の警備隊は人間が所属するが、シエラトエラ戦役後にレヴォントレットから派遣されている。
特別警備隊は吸血鬼による有事の場合にしか、姿を表さない。
人同士の争いには吸血鬼は基本的に手は出さないのが暗黙の了解だ。だが今回は吸血鬼と名乗ったため姿を表した。警備隊は人間しかいないため、区別がつかないためである。
「大丈夫?マリッサ」
ラウルにより少し離れたところにいた二人。ラウルが声をかけるがしゃがんでいるマリッサの顔色はあまり良くない。
「大丈夫?」
聞き慣れた声がした。
「ノア?」
マリッサが不思議そうに声を上げる。ここにはいないはずのノアが二人の前に現れた。ラウルは先のやりとりでノアの声が聞こえたことに気づいていたようでそれほど驚いていなかった。
「怖かったね、マリッサ。医務室へ行く?」
ノアがマリッサに視線を合わせながら問いかけるが首を振り立ち上がる。
「近くに喫茶店があるから、そこで一旦落ち着こうか」
ラウルに連れられて喫茶店へ向かった。ノアは休憩時間が三十分後とのことで、その後喫茶店に来ることになった。




