9 演劇の街ふたたび
次の日になり、一行は出発をする。まず鉄道でツァイトの首都へ向かいそこで一泊することになった。
部屋は三部屋取れたので、ザイアスとノア、アメリアとマリッサ、ラウルという部屋割りになった。次の日には出発予定のため、夕食を取り早々に休むことにした。
「少し話していいか」
部屋に戻りザイアスがノアに話しかける。
「うん」
窓際にある椅子に腰掛けて話をする二人。
「ペンダントを集める目的がわかった」
「聞いてもいいの?」
「ああ。これを集めれば王妃様がお戻りになる」
ノアは驚いたのかザイアスを見つめ返す。
「どういうこと?王妃様も行方不明って聞いてたけど」
ザイアスは頷く。
「純血種しか使えない秘術ってきいたことあるか」
「うーん、聞いたことはあるけど。願いを叶えられるっていう」
ノアは言いながらも半信半疑のようだった。
「俺も存在するとは思っていなかった。秘術を使ったあとに試練が与えられてそれを成功させれば、眠りから目を覚ますことができるらしい。期間は十年。それを過ぎてしまうと千年眠りから覚めないと聞いている」
ノアは少し考えてから質問をする。
「それは旅をはじめてから十年でいいの?」
「ああ」
「結構順調に集まってるってことだよね」
「ああ、そのまま旅を続けるよう仰せつかっている」
「あと一つ。これは興味本意だけど王妃様がそこまでして叶えたかった願いって?」
「それは聞いてない」
本当に知らないのか知っていて話さないのかはわからないがザイアスは言い切る。ノアはこれ以上は聞くことはなかった。少し間が空きのノアが尋ねる。
「三人には話すの?」
「ああ、詳しくは話さないが、俺たち吸血鬼の事情ってことは話す。それでも俺たちについてきてくれるかは三人が選ぶべきだ」
ノアも同意のようで頷いた。
一方、アメリアとマリッサは、各々のベッドで向かい合いながら寝っ転がって話をしていた。
「あのね、ノアと付き合うことになったの」
「おめでとう!ちゃんと伝えられたんだね」
「うん。相談に乗ってくれて本当にありがとう」
アメリアは少し恥ずかしそうにしながら話しており、マリッサは笑顔に見えた。
「本当に良かった、変なやつじゃなくて」
なんて言いながらも少し憂いがあるマリッサ。少し無理に笑っているようだった。アメリアも気付いてはいるようだが、言葉をかけることはしなかった。
「変なやつって」
「学園のときにいたじゃん。ロクにはなしたこともないのに付き合ってほしいって」
「え、あれってそういうことだったの」
気づいていなかったアメリアは驚き、マリッサが大きく笑う。今は無理をした笑顔ではなかった。
「気づかれてもなかったのね」
「だって知らない人だったし、どっか一緒に行ってほしかったのかと。悪いことしちゃったかな」
「そんなことないよ。段階踏まないのが悪い。中にはそういう出会いもあるのかもしれないけど、アメリアを少しでも見てたなら、いきなり告白なんてしない」
首を振りながら断言するマリッサを見て笑うアメリア。女性二人の夜は早々と過ぎ去った。
次の日となり一行はマチルダたちが劇団を構える街、エルフォルクへと向かう。バスに揺られて半日ほどで到着した。
まずは劇団へと向かうことになり、劇場に到着する。受付の人に事情を説明すると、すでに話は通っていたのかほどなくしてエリーがやってきた。
「皆さん、お久しぶりです。お元気でしたか」
「ええ」
ラウルが答えると、エリーは少し困ったように続ける。
「マチルダさんは本日休みなので詳しい話は後日でも構いませんか」
「はい、マチルダさん、具合でも悪いんですか」
「いえ、お元気です。『吸血鬼のお姫様』の衣装や小道具をを少しだけ現代風にしたいと意気込んで、毎晩無茶をしていたようで寝ているようです」
相変わらずの自由奔放ぶりに苦笑する一行にエリーは聞く。
「宿とかは取ってますか?」
「いいえ、これからです。どのくらい滞在することになるのか先に聞いておきたくて」
ザイアスが答える。
「一ヶ月ほどになるかと思います。今回はアメリアさんだけの出演になります。前回の別荘は使用中でしてお貸し出来ないので宿をこちらで用意します」
「いえ、こちらで取るので」
ザイアスが断るが、エリーは続けた。
「私達の要望で拘束させてしまうので、こちらで用意させてください。それに今は人気の劇が公演中なので、宿も取りにくいかと」
そこまで言われてしまうと断る理由もないのでお願いすることにした。
「どのくらい連泊するかは後ほどまたお伝えしてもいいですか」
マリッサがエリーに尋ねると快く了承してもらえた。夕方のため食事を取ってから再度来訪することとなり、勧められたレストランへと向かった。
「アメリアは一ヶ月滞在するとして、三人はどうする。イチェスはまだ休みだが」
食事を待っているときにザイアスが話を振る。イチェスは、次に行く予定の工芸の町。
「私、少し実家に戻ってもいいかな」
少し申し訳無さそうに聞くのはマリッサ。事情を察した様子のラウルが続ける。
「俺もシエラトエラに行こうかな。もう少しだもんね、シエラトエラ戦役の慰霊式」
ラウルとマリッサは話をして、二日後にマリッサの実家に戻ることになった。二週間ほど滞在をする予定だ。
「ノアは?」
「俺は特に用事もないから、ここにいるよー」
「なら俺はまたレヴォントレットに戻る。陛下に付き添うのと婚約のお披露目がある」
「いや、俺が用事があってもいくべきでしょ」
ノアは呆れたようにザイアスに言う。注文した夕食が届き、各々食べ始める。
「こちらを優先するように言われている」
ザイアスが言うと、旅の目的を聞いているノアは察した様子だった。
「俺はここにアメリアといるから、ザイアスは行ってきてー」
「ああ。それとこっちで友人たちとの婚約パーティーはする予定だから、四人にも来てほしい」
こっちとはおそらくレヴァントゥレット出ないこちらの大陸のこと。
ザイアスの相手を知らないマリッサとアメリアは少し戸惑う。その様子を見てザイアスは相手を伝えていなかったことを思い出す。
「相手は学園のときに会ったミリア嬢だ。国で行う親族とのパーティには来ない友人を少人数呼ぶ予定だから、気負いしなくていい」
アメリアは相手がミリアなことに驚いていた。マリッサはあまりミリアと関わっていなかったため、たいして驚いていなかった。
「珍しいね、婚約パーティーを友達とするの」
ラウルがザイアスに聞く。結婚パーティは聞くがあまり婚約パーティーは聞かないためだろう。
「結婚はこの旅が終わってからになるからいつになるかわからない。今なら卒業したばかりで友人が集まりやすいからやりたいというミリア嬢の希望だ。待たせる分、叶えられることは叶えてあげたい」
「周りは女の子たちだから、結婚とかしたらみんな集まれるかわからないもんね」
ラウルが言うと、
「たくさんお祝いしなきゃね、パーティ行かせてもらうね」
「うん、私もたくさんお祝いしたい」
と、マリッサとアメリアは伝えた。
夕食を食べ終え、一行はエリーがいる劇場へと戻った。到着すると、エリーがたまたま通りかかり話をすることができた。宿泊日数等伝えると手配してくれるとのことだった。
「三日後から稽古になりますので、劇場に来てください」
「はい、よろしくおねがいします」
アメリアとエリーが話をしていると、カリンが近くを通ったようで駆け寄ってきた。
「ひさしぶりー!あ、はじめまして、カリンです」
カリンは初対面のマリッサに気づき、挨拶をする。
「はじめまして、マリッサです」
二人は会うのは初めてで自己紹介をする。
「アメリアから話聞いててずっと会いたいなって思ってて」
「私もです」
「明日明後日お休みだから明日ご飯食べにいきません?三人で」
女性三人で楽しそうに話をして時間を決めたあと、カリンは打ち上げがあると言って去っていった。
エリーから用意された宿の場所を教えてもらい、宿へと向かった。
「わ、高そうな宿」
ラウルが入り口で足を止めて呟く。
「すごいねー」
ノアも同意のようだった。いつも泊まるような質素な宿ではなく、レンガ造りでホテルのような外見だった。
中へ入り名前を告げると各々に鍵が渡された。一人一室のようだった。とりあえずザイアスの部屋で全員集まった。
「少し話しておきたいことがある。
ペンダントを集める目的は、国からの命で俺たち吸血鬼に関わることだ。期限は十年」
ザイアスは淡々と話す。口外できない目的の詳しい内容は伏せて伝えた。
「最近辺りに怪しい動きもあるが、今は気にする必要はないと思っている。状況が変わり危険が及ぶようであればすぐ伝える。それでも着いてくるかは三人が選んでほしい」
真剣な表情で言い切ると、沈黙が流れた。
「むしろ俺がついていってもいいかって聞く方なんだけど。一人で飛び回るより正直安全だしね」
ラウルは少し笑っていた。
「私もついていきたい。でも邪魔になったら言ってね」
「私もアメリアと一緒。でも十年はいられるかわからないからその時は伝えるね」
三人の回答はザイアスにとっては拍子抜けだったようで、少し呆気にとられている様子だった。
「ザイアスの心配も無用だったねー」
「でも話してくれてありがとう」
アメリアが伝えるとザイアスは笑って返した。もう夜のためこの日は各々休むことになった。




