8 想い
次の日の夜三人が帰省を終えて、夜にリッシェに戻ってきた。一旦アメリアの家に上がり、五人で話をする。
「アメリア、お願いがあるんだが」
挨拶もそこそこに、ザイアスが話を切り出す。
「どうしたの?」
ザイアスの改まった様子に少し身構えるアメリア。
ザイアスが話し始めようとしたところで、来客を告げる玄関のチャイムが鳴る。
アメリアは玄関に向かうと、手紙とプレゼントがザイアスの使用人を通して届いた。確認するとプレゼントはエリーが観客に頂いたものを送ってくれたようだった。
手紙の方を確認すると送り主はマチルダ。
アメリアは四人がいるダイニングに戻る。
「どうした」
「プレゼントが届いたのとマチルダさんからお手紙」
「手紙はおそらく俺がお願いしたい件と同じだ」
ザイアスは何かを知っているようだが、とりあえずアメリアは手紙を開けて読む。
要約すると、この間演じた劇の劇中劇『吸血鬼のお姫さま』を一日だけでいいから演じてくれないかとのことだった。陛下の回復祝いとして、招待を予定しているとのこだった。
手紙の内容を一緒に見たザイアスが苦笑する。
「マチルダさんはこう書いてくれてるが、陛下が切望されているんだ。あの劇を気に入っていたのと、王女である姫様はミュージカルのラストシーンと同じように今年二十歳を迎えられる」
もともと『吸血鬼のお姫様』は吸血鬼たちの国、レヴォントレットに友好の証として捧げられた劇。
アメリアは一つ疑問を持った。
「お姫様は……?」
「詳しいご事情を話すことはできないが、陛下と姫様が今お会いできる状況ではない」
ザイアスの表情は曇る。
アメリアは少し考えたあと、
「マチルダさんとお話したい。劇に出たいって話を。私に務まるかわからないけど」
「いいのか」
「うん。状況も立場も違うけど、家族に会いたい気持ちはすごくよくわかるの。差し出がましいかもしれないけど、少しでもお役に立ちたい」
家族を探しているアメリアは、家族に会いたい気持ちはよくわかるのだろう。
「差し出がましくなんかない。ありがとう」
ザイアスがいつもに比べて丁寧にお礼を伝えた。
「どうするー?サルザールト行く人とツァイト行く人に分かれる?」
ツァイトはマチルダたちがいる国。
「全員でツァイトに行くか、ラウルとマリッサが先にサルザールトへ行ってもらうかを考えている。
陛下がツァイトにいらっしゃるときに、父上も同行するから俺とノアは一緒にいたほうが良い」
ノアは理解してうなずいているが、事情を知らないマリッサは首を傾げる。
「俺、名目上、ザイアスの護衛だからねー」
「そうなの?」
「家業の都合でねー」
五人で話し合った結果、まだツァイトの滞在期間がわからない点とサルザールトでの合流が難しい点を考慮し、とりあえず五人でツァイトへ向かうことにした。
「誕生日おめでとう、ザイアス」
話に区切りがついたところで、マリッサとアメリアが声を揃えるて祝福する。そして、昨日用意したプレゼントを渡す。
「二人ともありがとう」
この日は休んで、明日ツァイトに向けて出発することになり、この日はラウルはノアの家に泊まることになった。
ノア、ザイアス、ラウルがアメリアの家を出ようとしたときに、アメリアがノアに声をかける。ザイアスとラウルは先に玄関に向かっており、マリッサは少し離れたところにいたため、ほぼふたりきりの状況。
「あのね、お話したいことがあるの」
「分かったー、夜また来るね」
ラウルが待っているため、会話は少なかったが二人は夜に会う約束をした。
しばらくしたあとアメリアの家にノアが訪ねてきた。アメリアの自室で話をすることにする。
ノアが持参したフルーツジュースを飲みながら他愛のない話をする。話が切れたところでアメリアが決心したように話を切り出す。
「ノア、あのねっ……」
そこで言葉は切れて、続きが出てこない。この間の返事だと察したノアはアメリアの次の言葉を待つことにした。
あまりにも言葉が出てこないため、落ち着くようにノアがフルーツジュースのおかわりを勧める。アメリアは素直に受け取って、一呼吸おく。
「あのね、私もノアのことが好きなの。一緒にいたいなって思うの」
顔を真っ赤にして恥ずかしそうにアメリアが伝えると、ノアは断られるのかと思っていたのか驚いていた。
「ほんと?」
確認するとアメリアはこくんと頷く。その様子を見てノアは座っているアメリアを抱きしめる。アメリアも嬉しく思い抱きしめ返す。
「ありがとう。大好きだよ、アメリア」
ノアの真っ直ぐな言葉にますます顔を赤くするアメリア。そんな様子を見て微笑ましく思うノアは優しく頭を撫でる。
「私、こんなに恥ずかしがり屋じゃなかったのに」
顔の赤みが戻らないアメリアは拗ねるように言う。
「俺のこと、意識してくれて嬉しいよ」
ノアはアメリアのことを大切に抱きしめた。
数分後ノアはもともと座っていた場所へと戻る。
「どうすればいいの?」
アメリアの顔の火照りは落ち着いたあと、真剣な表情でノアに聞く。ノアは笑いだした。
「難しく考えなくていいよー。アメリアが好きなようにして」
恋愛が初めてでどうしたらいいかわからないアメリア。好きなようにしていいと言われたので好きなようにする。
ノアのところに行きぎゅっと抱きしめる。
そして頬にキスを落とす。
普段はおとなしいアメリアからすると思い切った行動である。
「したかったの?ほんと、可愛いねー。
俺はこれからのことだと思ったんだけど」
勘違いをしたことに再度顔を赤くする。
驚きつつもアメリアを愛おしく思うノア。仕返しとばかりに軽く唇にキスをする。アメリアは照れて顔を隠す。
アメリアの初々しい反応にノアは嬉しそうである。
「なんか余裕ある」
拗ねるように言うアメリアだが、ノアはそれも含めて愛おしいのだろう。
「そうかなー」
「うん」
「俺のほうが年上だからねー」
なんて言い合っているとノアが話す。
「なら、俺から言おうかな。
俺と付き合ってくれる?」
アメリアの目を見て柔らかい笑顔で伝えた。
「うん」
少し恥ずかしそうにはにかみながらアメリアは頷いた。
「今まで通り、ザイアスとかラウルとかとも話していいの?」
「もちろん。嫉妬とかしないよー。
だってアメリアが楽しそうであればそれが一番いいから、行動を縛ろうなんて思わないよ。アメリアは?」
「私も今まで通りで大丈夫。でも、一番好きでいてもらえるように頑張る」
満面の笑顔で話すアメリアの頭をノアは撫でる。
アメリアの言葉の裏にノアの婚約者への意識があることもノアは気付いていた。
「今のままでいいんだよー。どんなアメリアでも好きだけどね」
ノアが伝えるとアメリアは恥ずかしそうにはにかんだ。
この日はノアの家にラウルが泊まるため、ノアは家へと戻った。
「ごめんねー。おまたせ」
ラウルはノアの家の客室でくつろいでいた。ノアの家は使用人等は今はおらず、二人だけだった。
「ううん、なんか用事?」
「うん、ちょっとね」
二人は軽く飲む約束をしていたようで、ワインを開ける。
「ここは別荘?」
「そうだよー」
「ノアとザイアスは一緒にいたの?」
「いや、俺たちも別々だったよ」
レヴォントレットでは別行動をしていたようで、実は三人も久しぶりなようだった。
「パーティは出たの?」
「うん。ザイアスとはそこでしか会ってないよー」
「見つけられなかったなあ」
少し残念そうな表情を浮かべる。
「俺たちはあまり表に出てなかったからー」
「二人とも家業でもしてたの?」
「うん、別行動だけどね」
ラウルはこれ以上踏み入ったことは聞かなかった。夜も遅く、明日は出発のためこの日は休むことにした。




