7 いたずらな運命
一行が宿に戻ってきたのは夕暮れ時。
先ほどのことを説明するため、四人のみで話せるザイアスとノアの部屋に集まった。
「大丈夫って言ってたけどどういうこと」
「もう小麦畑を再開しても、猪たちは荒らさないよってことだよー」
「そうじゃなくて」
マリッサは疑問をノアにぶつけるが、的を得ない回答をされて少し苛立ってしまっている。根拠を説明されずに言われても、納得できなくて当然かもしれない。マリッサが知りたかったのは過程。どうやってその事を知ったのかである。
「マリッサ、気になるのはわかるけど、ノアが話したくないならそれでいいんじゃないかな」
アメリアが宥めるように言う。
「そうだね……ごめん」
マリッサははっとした表情をしてから、素直に謝った。
「いや、話したくないと言うか、どう話せば伝わるかなーって思って」
頭をぽりぽりと掻きながら困ったように笑うノア。
「んー、動物と話せる訳ではないんだけど。
俺、集中すると感覚が鋭くなって、なんとなく相手がどう思っているかわかるんだよね。話したところで伝わらないことも多いんだけど」
人は体調の良し悪しとか機嫌とかはわかるけど、なに考えているかは当たらないことが多いとノアは言う。
ノアの場合は吸血鬼特有の五感が優れてることに加え、心理学やプロファイリングといったような情報から推測する力に優れているということをザイアスが補足するように教えてくれた。
「特殊能力というよりは推測にちかいから確実ではないんだよね。説明難しいねー」
興味津々なマリッサの眼差しに耐えきれなかったのかザイアスの方を向き、助けを求める。
「もう荒らさないってどういうことだ」
ザイアスは助けはしなかった。
「猪たちはそもそも荒らす気はなかったって。
元々、食料が足りなくて畑から拝借しちゃうこともあったみたいだけど、クロさん来てからは荒らしてないし、今はクロさんが残した食料があるみたい。
クロさんがいなくなったあと探しに山を降りただけって」
「なるほどな。
あの山、クロさんが色々植えてたんだな。
ほっといても育つ植物とかを」
山の様子を見て気になっていたのか、すべてが繋がったみたいな様子のザイアス。
猪は吸血鬼・クロになついており、亡くなってから姿を現さなくなり探し回ったら、村の人に小麦畑を荒らされたと思われたようである。
「この話、アンネさんたちに伝えておいてー。ザイアスー」
説明するのがめんどくさいノアはすべてをザイアスに押し付けた。しかめっ面をしながらも、ザイアスはアンネたちに話に向かった。
数十分後、ザイアスが戻る。
「明日の夜、アンネさんとハンナさん、村長を山に連れていくことになった」
いきなり大丈夫といわれても、本当に大丈夫かとか山の近くに人を近づけて襲われないかとか思うのが普通である。いくら小麦畑を再開したくとも襲われてからでは遅いため慎重に判断したいだろう。
「俺も着いていくよー」
「頼む、俺は動物と意思疏通できないからな」
夜に行く予定のためマリッサとアメリアは部屋で待つことになった。
山の方は街灯が少なく、二人は夜目がきかないため、何かあったときに足手まといになってしまう可能性が高いと彼女たちは判断した。
だが、二人が頑張るのに自分達はなにもしていなくていいのか、と思うマリッサとアメリア。
「俺たち明日の昼間は寝るから、朝まで飲むのに付き合ってー」
二人の心情を察したのかノアが提案する。ザイアスとノアは最近朝起きて夜寝る生活だった。しかし、明日は夜に行動するため生活を逆にする。
「うん!」
アメリアが笑顔で返事をした。
夕食まで各々の部屋で休むことになり、マリッサとアメリアは自分の部屋へ戻った。