1 襲撃
次の朝、一行が身支度を整えた。
「忘れ物は大丈夫?」
余り物を持たないタイプなのか持ち物が少ないラウルが、一番に準備を終えて待っていた。
一行の準備が整い、まずは家の鍵を返しに劇場へと向かう。
劇場へと向かうと、マチルダとエリーが出迎えてくれた。ラウルが鍵を返し、お礼を伝える。
「短い間でしたがお世話になりました。ありがとうございます」
「お礼を言うのはこちらよ、ありがとう」
「本当です。マチルダさんの我儘に付き合っていただきありがとうございました」
エリーが一向に頭を下げると、事実のため言い返せないマチルダだった。
「役者人生は終えるけど、二人のおかげで後悔はないわ。少し入院して退院したら裏方に復帰する予定よ」
思うところがないわけではないであろう波乱万丈な人生。不慮の事故や病気。それでもマチルダはやりきったような清々しい笑顔だった。
「今までありがとうございました。おふたりともお元気で」
アメリアもお礼を伝える。
「またこの国に来たときは、ここに来てね。飛んでくるから!」
一行が劇場を去ろうとしたところ、
「アメリア!ラウルさん!」
劇場の奥からバタバタと走ってくる音がした。
「カリン!」
「間に合ってよかった。稽古の休み時間なの」
「今までありがとう」
カリンとアメリアは抱き合い、最後の別れの言葉をかわす。
「ラウルさん、ノアさん、ザイアスさん、あの日悩み聞いてくれてありがとうございました」
すでに吹っ切れているのが清々しい笑顔だった。休み時間は短いようで、カリンが稽古場へ戻っていった。
エリーがバスの停留所まで送ってくれることになり、一行は停留所へ向かう。
「次はどこへ行かれるんですか」
「ハルモニアです」
ラウルが答えるとエリーは少し硬い表情をする。
「もしかして、この国の西まで行って、ジオルグを抜けようとしてますか」
ジオルグとは今いる街エルフォルクから北西にある国の名前。一行はジオルグを通過して、ハルモニアへ向かおうとしていた。
「はい」
マリッサが答えるとエリーは止める。
「やめておいたほうがいいです。ジオルグは内線の影響で緊張状態にあり、入国と出国に検問が敷かれてます。
危ないですしどのくらいで行けるかもわからないので、首都まで行って、リッシェを抜けたほうが良いかと」
ザイアスは少し考えてから、
「ありがとうございます。そうさせていただきます」
停留所につくと首都までのバスは本数が多いようで、すぐにバスは来る。一行は乗り込みバスは出発する。
一行は首都に向かい、リッシェへ向かう。最初に来た村・ペイシルの近くを通過して、ペイシルに行ったときに乗り換えた駅へ到着する。そこから西へ向かう鉄道に乗り、ハルモニアに到着だ。ここまでで三日ほどかかった。
鉄道から降りると、夕暮れ時だがジメジメとした空気が肌にまとわりつく。気温も高く、蒸し暑い。
駅前は木造建築の低めの建物が立ち並んでいた。明かりはついているようだが、人の行き交いは少ないようだった。
駅員に宿を尋ねると、少し離れた場所の繁華街にあると教えてもらいそちらへ向かう。駅周辺は宿が少ないとのことだった。
歩いていると宿が見つかり部屋を取る。近くに地元の人に人気な屋台があるとのことでそこで夕食を取ることにした
訪れると、人気店とのこともあり繁盛していた。
屋台自体が大きいのか待つことなく、テーブル席に通されるとメニューが渡される。五人ともハルモニアに馴染みがなく、料理もよくわからず迷っている。
決まりそうもなかったため、ノアが店員を呼び止めおすすめを尋ねる。とりあえずそちらを注文し、到着を待つ。
「お前さんたち、外国の人か」
「ええ。この国初めてでー」
「お酒飲めるならこれがおすすめだぞ」
隣の席の四十代くらいの男性たちと話をして、おすすめを注文する。注文した食事が届き食事とともに頂いた。
「おいしい!」
「さっぱりしてる!」
アメリアとマリッサが嬉しそうに手を進めているいる様子を見た隣の人が笑う。
「食後のデザートもおすすめだぞ。ハルモニアで取れたフルーツを使ったなにかだ。日替わりでアイスとかシャーベットだと当たりだ。俺たちは帰るけど、満喫してってくれ」
一行は礼を伝えると、二人は帰っていった。
アメリアがフルーツを好きなのを知っているサイアスは注文をする。
もう店じまいの時間なのかあたりの客は帰り始めていたようで、残る客も少ない。
フルーツを使ったジェラートが届き、特にアメリアは美味しそうに食べた。
一行は食べ終わり会計を済ませようとすると、店員が近づいてくるがザイアスが静かに呟く。
「ノア」
ノアが店員の前に移動し、店員の右手を掴む。ザイアスは隣にいるアメリアを、状況を見てラウルはマリッサを連れて少し離れる。
「お兄さん、何か用?」
つかんだ手を少し強くすると、ナイフが落ちる。
三十半ばのガタイの良い、短髪の男だった。
店員は何も言わず立っている。
アメリアとマリッサは少し怯えているようだった。
対するノアは余裕の表情である。
「兄さんたち吸血鬼だな」
「だとしたら?」
「お願いしたいことがある」
店員は頭を下げる。話を聞いたところ、実は店員でなく城の騎士団の一人らしい。詳しい話をしたいから城に来てくれないかとのことである。
ノアはザイアスを見る。あとは任せると言いたげに。
「ああ、わかった」
安堵する様子の騎士団員。
「でもね、お兄さん。いくら俺たちが吸血鬼かどうか知りたかったとしてもいきなりナイフを向けるのは良くないですよよー。この女の子たちは吸血鬼じゃないので」
ノアがにらみを聞かせながら言うと、自覚はあったようで素直に謝られる。
「悪かった」
「まあこのナイフ、おもちゃだから痛くないけどね」
ノアがおもちゃのナイフを返すと、裏から店長と思しき人物が出てきて、平謝りされた。どうやら店員に扮させてほしいと頼まれたのは店長のようだ。
騎士団の男に連れられて、城に向かうことになった。城に向かっている間に話をする。
「俺は騎士団の副団長、ガルシオだ」
「ガルシオさん、ちょっと宿によっていいですかー。もう宿取っていて荷物をおいてあるのでー」
了承を得て、宿に一度寄る。荷物を持ち、一行は外で待っていたガルシオのもとへ急いだ。




