11 公演最終日
残りの公演も無事に終了し、この日が最後の講演になった。この日は初日同様、ザイアスたちも見に来る予定だ。
「無事最終日を迎えられてよかったわ。皆、よろしくね」
マチルダの言葉をしきりに、マチルダの最後の舞台が開幕した。
一部が無事に終わり、アメリアとラウルは二部のための準備を終え、二部が開始する前にマチルダに声をかけられる。
「アメリア、最後よろしくね!」
「はい」
二部が始まり、アメリア扮するマチルダが女優の道を決心し稽古に励む。マチルダの母が主演をする予定だった劇の代役が決まり、ますます稽古に打ち込むところまでは、初日の公演を含め今までと同じだった。
舞台が暗転し、マチルダのナレーションが入る。
ーそして、私の初めての講演が始まりました。題目は『吸血鬼のお姫さま』。一夜限りかつ限定公演でしたが、レヴォントゥレット国へ友好の証として捧げた、国を上げての題目でした。
劇中劇は終盤のみで、パーティが開かれる様子が描写される。途中でパーティを抜けてバルコニーで休憩しているところ、バラード曲が流れ始め、歌い始める。バルコニーで歌うのは主人公に扮したアメリア。
高めの優しい歌声で歌い上げる。初日と同様に観客席に背を向けたまま。最後の大サビに入ると同時に振り向く。
アイスシルバーの長髪姿で、目の色は赤くドレスは赤と黒を基調としたパーティ用のロングドレスを纏っている。
歌声には優しさに加え凛々しさを増す。
観客は圧巻の歌声と姿に息を呑む。
曲が終わると観客は盛大な拍手を送る。セットの裏から観客が見えないようにアメリアは舞台袖に向かい、アメリアの出番は終わる。
一度暗転してセットの入れ替わりをしているときに、アナウンスが入る予定だったが入らない。
入れ替わりで舞台に立ったカリンをはじめ、出演者や照明担当は戸惑う。
裏ではマチルダが涙を流していた。
ー私は、そのあとも順調に知名度を上げ、母に近づくことができたかと思います。
状況を察したアメリアがマチルダがアナウンスをしている場所へ向かい、台本を片手に読み上げる。練習もしていなかったため、手に汗を握るが劇は順調に進む。
ー順調と思った矢先、再び悲劇は起きました。
シエラトエラ戦役に巻き込まれ、兄を失い二部は終わる。
舞台に立っていた人たちが、一旦舞台脇に下がる。
「マチルダさんは?体調良くないの?」
舞台脇でアナウンスをしているため、舞台に立っていたカリンはいち早く聞いた。
「大丈夫よ。いろいろな思いが込み上げたみたい。次は必ず出るわ」
マチルダについていたペトラが伝える。
「ごめんなさい、みんな。アメリアもありがとう」
いつも明るく自由奔放なマチルダが、申し訳無さそうに佇んでいた。
「いいのよ。この劇はお客様もいるけれど、あなたのための劇だもの」
ペトラがマチルダを抱きしめ、優しく声をかける。
「あともう少し、みんなよろしくね」
いつもの笑顔を取り戻し、舞台に立った。第三部も無事終わり、この日はカーテンコールのあとにマチルダが挨拶をする。
「この度はご来場いただきありがとうございました。私が表舞台に立つことは最後になると思います。
この劇は正直自分のために公演させていただきました。私のわがままを聞いてくれた出演者と劇団のみんな、スポンサーの皆さん、休憩を入れて五時間も時間を割いて観に来てくださったみなさん、ありがとうございました。
私は幸せものです、応援いただきありがとうございました。
」
頭を下げると、観客は盛大な拍手を送る。マチルダが舞台裏に下がったあともしばらく拍手は鳴り止まなかった。
「私はほんとうに幸せ者だわ、途中もう色々思いが溢れてきて、勝手に涙が止まらなくなったの。女優失格ね」
マチルダが泣きながら言った。車いすを押していたエリーが
「マチルダさんだから皆さん付いてきてくれたんですよ」
「そうだと嬉しいわ」
楽屋に戻り劇団員が用意した花束を受け取る。
「このあとは打ち上げよ!」
マチルダの一声で会場に向かい、豪華な食事とお酒を楽しみ、一時間くらいしたところでラウルとアメリアは劇団員にお礼を告げて、会場をあとにしようとした。
そんな二人にマチルダが声をかける。
「最後までいないの?」
「マチルダさんとの最後の打ち上げなので、劇団の方たちだけのほうがいいかなと」
「それは来週の入院前に、全員でやるわ。これはこの公演の打ち上げだから、時間が許すなら最後までいてくれると嬉しいわ。あなた達も主演だもの」
「ありがとうございます」
最後まで二人は楽しみ、お開きになった。
もう日が変わりそうな時間になっていた。二人が家に戻ると三人とも起きていた。
「お疲れ様ふたりとも!すごい良かったよ!」
「マリッサ起きててくれたんだ。ありがとう」
アメリアとマリッサはお部屋で話をしていたが、アメリアは疲れていたためすぐに眠った。
男性陣は部屋でいつものようにワインを飲む。
「お疲れ様ー」
「ありがとう」
「驚くって言ってたのはあのことだったんだな」
「うん、姫様が三歳のお誕生日に贈られた幻の公演。許可を頂いてワンシーンだけ。快諾されたみたいだけど」
二人が指しているのは第二部で出てきたマチルダ初主演の劇のことである。
「あの劇は王も姫様もとても気に入って、お喜びになられていた。主演はマチルダさんだったんだな」
懐かしむように話をして、ラウルはいつもより早く部屋へと戻った。ノアとザイアスは飲みながら話を続ける。
「まだ驚いてるよー、俺。
あの姫様役のアメリア、ほんとに可愛かったなー。姫様が成長されたらああいう感じなのかなー」
「ああ、俺も驚いている」
「姫様もどこかでお元気にされてるといいね」
「ああ」
この日はあまり深酒はせずに、ベッドに入った。
次の日の昼過ぎに全員がダイニングに集まる。
「次はハルモニア王国だ。少し離れたところにあるから何日か行くのにかかりそうだ」
ザイアスがペンダントを見せながら話す。
「ハルモニアってあんまり聞かないねー」
「今は跡継ぎ争いであまり外交とかはしてないね。内戦とかはないからそんなに危なくはないと思うけど」
世界時事に詳しいマリッサが言う。
「ハルモニアって気候はどうなのー?」
「この国より暑いと思うよ」
「なら、服とか買いに行こうかー」
ザイアスが不在になる一週間で片付けや服を新しくするなど準備をすることになった。
ザイアスは昼過ぎに実家へと出発した。残る四人は借りている家を片付けはじめた。




