10 公演初日
休みが明け、稽古が始まる。
アメリアの足も悪化することはなく、この日は衣装を合わせて一通りの劇を行う予定だ。控え室も衣装担当やヘアメイク担当の人もおり、いつも以上に賑やかである。
次の日からは実際に舞台に立って、通して稽古を行い、来週からは調整された衣装で稽古が行われる予定だ。
またその間にメディア向けの取材や劇団主催の公演記念イベントをこなしていく。
この日の稽古が終わるとエリーに呼び出されるアメリアとラウル。
「こちら、初日と最終日のチケットです。予定が合うようでしたら、ご友人たちを誘ってください」
アメリアとラウルはチケットを受けとり、エリーにお礼を伝えて、劇場をあとにした。
家に帰り夕食を食べているときにチケットを渡すと、三人は予定を開けてくれるとのことだった。
「ザイアスとノアはきっと驚くよ」
ラウルがそれだけ伝える。二人は何をいっているのかわからない様子だったが、秘密にしたいラウルはそれ以上はなにも言わなかった。
「最終日の三日後に実家で予定があるから、もし次の国に行けることになっても一週間待ってほしい」
四人は特に問題もないので同意する。
「あ、この家借りられるの劇が終わるまでだろうだから、そのあとの宿も探しておこうか。今、臨時のスタッフの方も多くて宿とかに泊まってるらしいから、いいところあるか聞いてみるよ」
「ありがとうー」
食事を終えて片付けをしたあと、アメリアとザイアスとノアは部屋へ戻る。
「ねえ、ラウル。劇が終わったらどこかに出掛けない?」
部屋へ戻ろうとするラウルに声をかけるマリッサ。
「いいよ。せっかくだし、昔みたいに泊まりで行く?まだ宿はとってないし」
「うん、久しぶりだね」
「そうだね。あ、劇なんだけどシエラトエラ戦役の描写があるんだけどどうする?やめとく?」
シエラトエラ戦役で両親を亡くしているマリッサに、ラウルは申し訳無さそうに聞く。
「大丈夫だよ、気を使ってくれてありがとう」
二人は話し込むことはせず各々の部屋へと戻った。
一週間がたちこの日も一日中稽古があった。帰り支度をアメリアとラウルとカリンがしているとエリーに車イスを押されながらマチルダがやって来た。
「そういえばあなたたちはいつまでこの国にいるの?」
「最終日の一週間後までの予定です。あ、家の鍵は劇の最終日に返します」
ラウルが答えるとマチルダが笑う。
「この国を出るときまで使っていいよ、空き家だから。なら最終日の後に打ち上げするんだけど出れる?」
特に予定もない二人は頷いた。
「良かった、この国の美味しいものたくさん用意するから、楽しみにしててね」
笑顔でマチルダは言い、このあとも打ち合わせがあるといい去っていった。
目まぐるしく日は過ぎて、初日講演の四日前となった。休みも少なく夜も遅くなることがしばしばあったがなんとか乗り越えられた。この日の稽古が終われば二日間、休みをとり前日に最後の稽古をして本番を迎える。
この日の稽古も終わり、二人は休みに入る。二人とも疲れきっており、体を休めることを最優先にしたため、特になにもすることなく休暇は終わった。
本番の前日、最後の稽古が終わった。関係者が集められ、明日の流れを説明された。そのあとにマチルダから話をされる。
「二ヶ月間ありがとう!合計六日間の講演、みんなで頑張りましょう!」
大きな拍手が送られ解散となった。
次の日は昼頃に二人は劇場へと向かった。講演は夕方から一日一講演。三日連続で行い、一日休みをはさんだあと残り三日を連続で行って終了の予定である。
初日講演の日となり、二人はいつも通りの時間に劇場に向かう。最終確認を済ませ、ヘアメイクや衣装に着替える。
準備も終わり、関係者が休憩をする。時刻は開演三十分前となり、開幕まであと少し。すでに劇場には観客が入っている。
「緊張でおかしくなりそうだけど、マチルダさんのために、観に来てくれている方のために頑張る」
アメリアは近くにいたラウルに話す。アメリアは表情が固く言葉通り緊張している様子が見受けられた。対して人前に立つことに慣れているラウルはあまり緊張はしていないようだった。
「大丈夫だから落ち着いて」
「間違えても大丈夫よ、なんとかなるわ。でもマチルダは昔から明るいくて元気な子だから、笑顔だけは忘れずによろしくね」
近くにいたペトラから優しい声がかけられる。アメリアは頷き、開演10分前となり、一部に出る予定のキャストは舞台袖に呼ばれる。
「私のわがままに付き合ってきてくれてありがとう。最高の舞台にしましょう」
マチルダが言うと、全員が頷き準備に入る。幕が上がり劇が始まる。
一部から三部までの構成で、まず一部が始まる。
一部は、マチルダの両親とマチルダと兄の様子が描かれる。マチルダの父は劇団の経営を、母は劇団のスター。兄は父の補佐を行っており、マチルダはまだ学生で手伝いをしている。マチルダは役者を薦められるが母のようになれないと乗り気でなく、ただ稽古には何となく参加するという日常が描かれる。
―そんな平和な日常も幕を下ろしたのでした。
マチルダのナレーションが入ると舞台は暗転し、声だけになる。
―この日は大雨。父の運転する車に両親と私が乗っていました。大雨の影響で土砂崩れが起きました。
『マチルダ!』
『お父さん!お母さん!』
―私はこのあとのことは覚えていません。目を覚ますとそこは病院でした。
病院を模したセットに変わっており、アメリアが扮するマチルダは両親の死を知り、取り乱す。
『お兄ちゃんだって、みんなだって思ってる!
スターのお母さんじゃなくて、経営者のお父さんじゃなくて、私が死ねばよかったって!』
『そんなことを言わないでくれ、マチルダ。俺はお前だけでも生きててよかったって心から思ってるよ』
舞台が一度幕を閉じ、休憩のアナウンスがされる。
一部に出てた人たちは舞台袖に行き、二部の用意を始める。
「アメリアとってもよかったわ、あともう少しよろしくね。ラウルは二部もよろしくね」
アメリアは二部の前半で出番が終わり、ラウルは二部の最後まで出演する。次の衣装に着替えたり、メイク直しをしているとすぐに二部が開始する。
マチルダは退院は出来たが塞ぎ込む日々が続く。劇団の経営者である父もなくし、兄や父の部下と力を合わせてなんとか劇団の運営を行っていた。
そんな周りの姿をみて、兄をが父の姿を追うならば自分は母の姿を追うと決心し、今まで惰性で参加していた稽古に没頭した。そんな様子を周りがみており、マチルダの母が主演に抜擢されていた劇の代役を務めることになった。
ー無事、初公演を行うことができました。私にとって忘れることができない演目のひとつです。
パーティをしている城らしき場所のバルコニーでの様子が演じられ、最後にアメリア扮するマチルダがセットの上で後ろ向きに現れたところで暗転する。
ここでアメリアは出番を終え、舞台裏に下がった。変わるようにカリンが舞台に上がった。
アメリカが共用の楽屋に向かうと、
「お疲れ様、アメリア」
「ありがとうございます、トーマスさん」
マチルダの父役のトーマスに声をかけられる。
「最後、カーテンコールまで休憩してね。カーテンコールのときそのままの衣装だっけ」
「いや一章のときの服装だわ。メイク直しもしないと」
劇中劇のためにウィッグを変え衣装も変えているため、もともとの衣装に着替える必要があると通りかかったペトラが教えてくれた。
二部と三部も無事終了し、カーテンコールも終了する。軽く片付けを行い、明日の確認をおこなったあと、この日は解散となった。観客用の出入り口とは違う場所から出て二人は帰宅した。




