7 婚約者
五人でビールを飲んだあとアメリアとマリッサは休むことになり、ザイアスとノアとラウルは飲み続けることにした。
アメリアとマリッサは部屋につき、寝る支度をすませて、ベッドにはいる。
「マリッサ起きてる?」
「うん、起きてるよ」
「あのね、さっき両親のことを話したと思うんだけど、私の旅の目的はお父さんを探すことなの。もしくは親戚とか」
マリッサはアメリアから旅の目的までは聞いていなかったが、両親の話をされたときに、薄々勘づいていた。
「ラウルも同じだよね」
「うん、私は手がかりがあまりないから望みは薄いかもしれないけど。ザイアスのお父様と仲が良かったみたいで容姿を教えてもらったけど、それしか分からない」
ラウルは父親のことを覚えているがアメリアは覚えていない。
「そっか、見つかると良いね。話してくれてありがとう」
「ごめんね、マリッサ。あんまり聞きたい話ではないと思うけど、マリッサにだけ伝えないのはよくないなってラウルが一緒に旅をする前から思ってて。
こんなタイミングになってごめんね」
アメリアは今までは話すきっけがなく、マリッサも両親を亡くしているということを知ってからはマリッサのことを考えて伝えるかを悩んでいた。しかし、マリッサだけに伝えないのは心苦しかった。
「ううん、ありがとう。言いにくいこと話してくれて。私のことを気にして私にだけ隠されるより全然良い」
マリッサは優しい声音で言う。
「こちらこそありがとう」
話せて安心したアメリアとマリッサは眠りについた。
一方男性三人はマチルダに頂いたビールを飲んでいた。あと、ザイアスが観客から差し入れで頂いたワインを三人で開けた。
「美味しいね」
ガラスを傾けながらラウルが言う。
「ラウルもワイン好きだよねー。今さらだけど」
「うん、お酒はなんでも好きだけど一番ワインが好きかな」
「俺たちと一緒だねー」
「言いたくなければ言わなくて良いんだけど、血は飲まない派なの?」
ラウルが二人に対して聞く。
「ああ、緊急時だけだ。といっても力の制御も出来るようになってからは、血液パックですむ」
貴族階級が持つ能力を使いすぎると反動で血を欲する。まるで飢えているかのように血が欲しくなる状態になるが、力の制御が出来るようになったお陰で、そういう状態にはならないとのことである。
「俺もそんな感じー、最近の血液パック美味しいし、いろんな味があるから飽きないよー」
血液パックとは人工的に作られた血液のことで牛乳パックと同じようなパックに入ったものである。成分を血に寄せているだけのため、色は赤くなくノア曰くいろんな味があるらしい。
「初めて見たよ、血液パックが美味しいっていう吸血鬼」
物珍しいものを見るかのようにノアを見るラウル。一般的にはあまり美味しくないようだった。
「最近のは美味しいよー。一個あげるよー。おすすめの苺味」
怪訝そうに受け取り飲むラウル。飲むうちに表情は変わっていった。
「今時のってこんなに美味しいの?」
「でしょー!これね、同じ学園に通ってた吸血鬼が作ったんだよー。効果も従来どおりで、今は会社を立ち上げて販売していて大人気!」
「これは革命的だね」
「リッシェに販売店があるから今度機会があれば寄ってみるか?配達もやってるが限定品も結構売ってる」
固定の場所にいるときは配達してもらっている二人に便乗することにしたラウル。
「限界だったのか」
ザイアスがラウルに聞く。ワインでなんとか気を紛らわそうとしても限界がくる。だから二人に聞いたのではないかと推測した様子のザイアス。
「ああ、血液パック嫌いすぎて最低限にしていたら、体調に出るくらいには。二人は特になんともなさそうだしどうしてるのかなって」
吸血鬼にとって、普段食べている食事もお腹は満たされるが、栄養としてはあまり意味がない。吸血鬼にとって食事はただの嗜好品でしかない。
「そっかー、早く教えてあげればよかったね」
ノアが言うと突然真面目そうな雰囲気でザイアスが言う。
「そういえば、婚約者が決まりそうだ」
突然の告白にノアとラウルは驚く。
「えー!突然だねー」
「話は昔からあったが断っていた」
「ってことは心に決めた人ができたのー?ってそんなわけないか」
聞いておいて自分で否定するノアを苦笑しながら見るラウル。ラウル自身はあまり口出ししない方がいいと思い黙っている。
「ミリア嬢だ、あの学園都市の」
「あー、あの子ねー、」
ミリアとは学園都市の講師をやっていたとににアメリアが担当をしていたクラスのリーダー格の少女だ。
「アメリアのことが大切だって話もして了承を得た。むしろ政略結婚だからそんなものだし、自分のことを二番か三番くらいに大切にしてくれればいいって言われた。自分には俺だけだけどって」
「良い子だね」
今まで黙ってたラウルが言う。
「ああ、ミリア嬢を愛せるようにしたい。でもアメリアが大切なことは変わらない」
「そっかー、アメリアには話すの?」
「ああ。マリッサにも話す。婚約することが確定したらにしようと思ってるからまだ先になるが」
「そっかー」
「家を継ぐ必要がある以上結婚は考えられないし、それで恋人になっても別れる未来しかないなら、今の関係が一番良い」
ザイアスはまるで自分に言い聞かせるように言う。
「そうだね、わかるよ」
ラウルも同意する。ラウルも貴族階級で長男という立場にあり、家を継ぐ必要がある立場である。しかもラウルの方が父親が行方不明である現状、家を継ぐ時期はザイアスより早い。
「それに正直、好きだけど結婚したいとか付き合いたいとかはあまり思ったことがないんだ。そもそも俺はその立場にないし、あの子が辛い思いをするだけだ」
家を継ぐ必要があり、伴侶とする相手もそれなりの爵位を持つ家の関係者となる。その通説を破ると批判は女性側に向く。そんな貴族の内情を知っている以上、諦めるなとかを言うつもりは二人にはない。
「そもそも、俺のことはそういう関係になりたいと思ってなさそうだから考えること自体、烏滸がましいかもしれない」
ザイアスは続ける。
「次の国に行く前に一度実家に帰る。本当はこの国にいる間に帰る予定だったが、ミリア嬢も卒業したばかりでまだ慌ただしいそうだ」
「わかったー、今回は俺は良いや。帰ったばかりだから」
ミリアの都合で劇の最終公演日の三日後にザイアスは一度実家に帰り、両家の顔合わせをすることになっているとのことだった。
詳しい話などはもう少し近づいたら決めることにして、この日は寝ることにした。




