4 稽古の始まり
ザイアスがスープを作った日から一週間がたった。アメリアとラウルは研究生に混ざって稽古をしたり、台本を読み進めたりしている。マリッサ、ザイアス、ノアは一日おきごとくらいにアルバイトをしながら、家事をこなしながら過ごしていた。
「ただいま」
夕方頃、ラウルが一人で帰宅した。ダイニングへ向かうとアメリアの不在にザイアスが気付く。
「アメリアは?」
「歌の稽古が上手くいってなくて長引きそうだから、帰るの遅くなりそうって伝えに来た。少し休んだら劇場に戻るね」
「アメリアが歌の稽古が上手くいってないの?あんなに上手いのに」
マリッサが驚いている。アメリアは歌が上手く、その事はザイアスもノアも知っている。ラウルも劇団に行った初日に聞いているため、知っている。
「いや、音を外すのが上手くいかないみたい」
「どういうことー?」
「いや、マチルダさんは今では演劇界の歌姫とか言われてるらしいけど、当初は音が外れまくっていたらしい」
ラウルはオブラートに包んで話しているが要約すると音痴だったとのこと。そこから初公演まで練習をして歌が上手くなり、劇も演じることが出来るようになったということだった。
その過程を演じるための練習だ。
「マチルダさんって天才なのかと思ってたけど、努力の賜物だったんだね、かっこいいなあ」
この国に来る前からマチルダのことは知っていたと言うマリッサ。他国にいたマリッサが知っているくらい、演劇の世界では有名らしい。
「そろそろ戻るね」
ラウルは劇場へと戻った。
その後、エリーが訪ねてきて、マチルダからアメリアのために水とのど飴が差し入れられたとのことで届けられた。まだアメリアは劇場にいることを伝えられると驚いていた。
ラウルが劇場に戻って二時間くらいしたあと、二人が帰ってきた。ダイニングへ向かう。
「お疲れ様ー、アメリア大変だったね、ラウルから聞いたよー」
ノアが出迎えてくれた。ご飯もすでにできているようでザイアスが準備をしている。
「ちょっと疲れちゃった、大きく声を出すのって疲れるね」
言葉通り疲れている様子のアメリア。明日は二日間お休みらしく、この日は遅くまで残って練習したらしい。
テーブルに夕食が並ぶ。食べ始めることになるときに、マリッサが教えてくれた。
「ザイアスがついに全部一人で作ったんだよ、明日から私がレストランで教わった少し凝った料理を作ろうと思ってるんだ」
「すごいね」
「ザイアス器用だし覚えるの早いんだよね」
会話が弾んでいると玄関のベルが鳴る。ノアが対応すると言い玄関へと向かった。
「夜分遅くにごめんなさい」
「あれ?エリーさん、どうしたんですかー?」
「先程お伺いしたときに、料理の良い匂いがしたって伝えたらマチルダさんがすぐ届けろって聞かなくて」
少し困ったようにエリーが言うと一緒に来ていた劇団の男性が玄関に段ボールを三箱ほど積んだ。
「ソーセージとチーズとパンの追加と牛肉とじゃがいもや野菜です」
「ありがとうございますー、でもいつも頂いてばかりで申し訳ないので、次からは大丈夫ですって伝えていただけませんかー?」
ノアが申し訳なさそうに伝えると、エリーは首をふる。
「アメリアさんとラウルさんは名目上研修生なので、稽古中に賃金を出せません。でもご自分の我が儘で三ヶ月も付き合って頂くから、有用なものは届けたいとのことです」
研修生とは所謂稽古をつけてもらう側であり、舞台の役をもらわない限り、賃金は出ない。そのためこの一ヶ月は無給となっている。二人は巻き込んでしまったからと特例を提案されたが、他の研修生を考え断っている。
「立派な家を貸していただいただけで十分助かってますよー、でも有難うございます」
「いえ、お礼を言うのはこちらです。なにか足りないものがあればいつでもお申し付けください」
丁寧にお辞儀をして、エリーは帰っていった。ノアがエリーと話した内容を四人に伝えると、
「今度、マチルダさんにお会いできたらお礼を伝えるね」
とアメリアが言った。
明日はラウル、アメリア、ノアがお休みのため、三人が料理をすることになった。




