8 自分達のやりたいこと
夜は開けて次の日になった。マリッサは社員寮へと向かい団員たちに予定を伝える。団員のなかで最年長であるルイに話をする。
「今日からこの寮を片付けてもらいます。
部屋はすでに準備されてるって聞いてますが大丈夫でしたか」
「はい、とても綺麗でした」
「では、共有スペースに家具などが届くので、設置や掃除などをお願いします」
掃除道具一式を渡すと、掃除が始まる。マリッサは適材適所を決めるため様子を見る。小一時間見ていると色々なことがわかってきた。掃除を器用にこなす者や力があり大きな家具の組立と設置を難なくこなす者、要領よく指示を出す者など、特技を活かしててきぱきと準備は進んだ。
昼過ぎになり昼食をとり、作業は再開する。ソフィアが三日ほどかかると想定していた作業は夕方には終了した。そのときに、ラウルがやって来た。
「大丈夫そう?」
「ラウル兄ちゃん!」
ラウルが来てくれて嬉しそうな団員たち。
「前話した通り、用事があって離れるから挨拶しに来た。また二ヶ月後戻ってくるよ」
「気を付けてね」
「うん、マリッサもこいつらよろしくね」
ラウルは寮から出ていった。
明日からどうしようかと、マリッサは考える。
「明日、買い物に出ても良いですか」
マリッサが考えを巡らせているところ、要領よく指示を出していた青年のサミュエルが言った。
「なにか足りないものでもありました?」
「料理とかしたいので食材と器具がほしいなと思って」
「食事はこちらで用意しますよ」
「他の働いているかたはご自分で用意されているのであれば自分達もそうしたいなと思いまして。仕事をさせていただくのみならず、こんな立派な家を貸していただいて、これ以上甘えるわけにはいきません」
マリッサも了承して、ソフィアに伝えることにした。この日は解散として、マリッサは家へと戻っていった。
マリッサはソフィアとご飯を食べることになっている。夜ご飯は一緒に食べる決まりだ。
「あの子達はどう?」
ソフィアが尋ねる。
「年下と思えないくらいしっかりしてます。ご飯も他の従業員は自分達で用意しているなら、自分達もそうしたいって言ってました」
「そう、良い子達じゃないか。将来も有望そうだね」
ソフィアは笑う。
「有望そうと言えば、今日すべて準備が終わりました」
「仕事もできそうだね。三日間って元々話してあったのに一日で終わらせるのはなかなかできないよ。効率良く動けるのもあるし、人間期日に余裕があればサボりたくもなる」
ソフィアは声を出して笑う。
「配置の件ですが今日様子を見て決めました」
「そうかい、今回は私から現場の者に声をかけとくよ。実際仕事が始まってからマリッサからも挨拶くらいはしておいて」
「わかりました」
仕事の話はそこそこにして、マリッサの旅の話をこの日はした。どんな場所にいって、どんなことをしたのかを話すととても盛り上がった。食事も終わり、マリッサは部屋へと戻り休んだ。
次の日はまた、社員寮へと向かった。
「こちら、調理器具と食材を買うお金です」
ソフィアから渡されていた経費をルイに渡そうとした。
「いえ、自分達で出しますので大丈夫です」
マリッサは少し考える。そして思い付いたことを提案する。
「器具は設備品なので、経費として落とします。食材はお願いできますか」
「ありがとうございます」
折衷案を出したところ、ルイたちも納得してくれた。そして、町を軽く案内しつつ買い物をして、昼過ぎに戻る。すでに、コンロや冷蔵庫などはあるため、購入した調理器具を設置する。また買ってきた食材を冷蔵庫にしまった。
午後はマリッサから簡単に会社の説明をした。また、仕事内容も説明をして、この日は終了とした。
次の日は、制服の準備のため全員でマリッサの家へと向かい、サイズに問題がないかの確認をした。そしてソフィアから本格的に会社の説明がされた。会社の事業内容や就業規則等を細かく話された。
休みを二日挟み、本格的に仕事が始まった。
団員たちの仕事内容は、貿易品の梱包やチェックといった軽作業、船への積み降ろし、マリッサの実家の使用人と様々である。マリッサが決めた配置でとりあえずは仕事をしてもらい、将来的にやりたいことがあれば上司に話すと言うことになっている。これは特別扱いではなく、会社としてそういう仕組みになっており、上司とは定期的に面談があるらしい。
マリッサは定期的に団員たちの仕事場の責任者のところへ周り、様子をうかがったり、たまに社員寮へと顔をだし、様子を聞いたりと忙しく過ごしていた。
仕事がはじまり、数日がたつ。団員たちはマリッサやソフィアが想定していた以上に評判がよかった。元々客商売をしていたためか、愛想がよい。また、公演の準備なども自分達でやっていたためか、要領よく物事をこなす。そして、芸などを毎日練習するといった習慣があったためか、日々の努力も怠らない。
だが少々問題も出てきた。マリッサが現場の責任者に話を聞くと、仕事はとても真面目にやるし、成果も出すが、面談をしても自分の希望や意見はあまり話してくれないとのことだった。
まだ、始めたばかりだからあまり気にしていないが、もっと自分のことも話してほしいとのことだった。
マリッサはそのことをソフィアに話すと、ソフィアが手を打ってくれた。
数日後、ソフィアは全員集めて話をする。将来のことだ。またどんな仕事があって、それぞれがどんなことをしているのかを伝えた。
「今できないことでも、やりたいことがあればそれを私たちはなるべく叶えられるようにするから、上司にも話して。マリッサでも構わないわ」
ソフィアは真摯に伝えると、打ち合わせがあるとのことで部屋を出ていった。
「私たちのやりたいこと……」
「今まであまり考えたことなかったね。生活するのに精一杯で。やりたいことや欲しいものは二の次だったから」
マリッサは団員たちの声に少し胸を痛めた。
「例えば自分のやりたいことがこの会社でなくても、学園に通ったりして別の仕事についても構いません。この会社で一生働く必要もありません。言うならば自分達がやりたいことをやるための手段として利用してくれればいいです」
マリッサは自分の思いも伝える。団員たちは少し考えるような表情をして、この日は解散となった。
数日が経ち、マリッサの元や責任者達に団員たちがやりたいことの話があった。中には今は答えが出せず今出来ることを頑張りたいという者もいた。船長や整備士になりたいという声や園芸に携わりたいという話もあった。
また、自分達のような孤児を受け入れる施設を将来は作りたいという者もいた。ソフィアにも助言をもらいながらアドバイスをした。
もちろん今すぐなれるものでないものも含まれており、団員たちはそれを重々承知しているようだった。
もうすぐここにきてから二ヶ月が経ちそうな頃となり、マリッサは再度旅に出る準備を整え始めた。既にソフィアや団員たちに出発日を伝えてある。そして、ラウルがマリッサを迎えに訪れた。




