4 帰省と仲間
次の日の朝、ラウルが宿を訪ねてきた。受付の前に休憩ができるスペースがあり、そこでマリッサに手紙を渡していた。
「俺から話すべきなのにいけなくてごめんね」
ラウルは申し訳なさそうにマリッサに言った。マリッサは首を振りながら答えた。
「大丈夫だよ、公演頑張ってね」
「ありがとう。
あと、ザイアスたちに今日またあの酒場で飲まないか聞いておいて貰える?」
「わかった」
ラウルは公演に向けた打ち合わせがあるとのことで、団員がいるところへと戻った。
マリッサはとりあえず部屋へと戻る。
少ししたあと四人はザイアスとノアの部屋へと集まった。
「これから行くのか」
「そんなに時間がかからないから、いまから出ても夕暮れ前には着くよ。
あ、そうだ。ラウルがザイアスたちとまた今日飲みたいから昨日のお店に来てって」
「わかった、特に用事もないから行く」
「でも珍しいなあ、ラウルが他人に自分から関わろうとするなんて」
マリッサは不思議そうに呟く。
「年が近いからかなー。あの団は若い人が多そうだし、ラウルとは少し年が離れてるよね」
「確かに、そうかも」
マリッサは煮え切らない表情を浮かべながらも同意した。マリッサは実家へと向かうことになり、バスまでザイアスたちは見送った。
「あの宿で待ってる。ゆっくりしても構わない」
「わかった、ありがとう」
マリッサを乗せたバスは出発した。
マリッサにとっては慣れた道のりである。数時間後、バスは停車した。マリッサはバスを降り、実家へと歩いた。
足を止めた先は一言でいうと豪邸だった。煉瓦作りの塀があり、門を潜ると庭が広がり、五十人くらいは住むことができるだろう邸宅が建っていた。チャイムを鳴らし、マリッサが名乗ると、一人の女性が迎えに来た。
「おかえりなさいませ、マリッサお嬢様」
突然の来訪に少し驚きつつも、即座に対応する。
「連絡もせずいきなりごめんなさい。おばあさまはいらっしゃる?」
「ええ、ご案内します」
使用人の女性が荷物を持ち、二階にいるマリッサの自室に一度寄り、荷物をおいた。その後女性につれられ、邸宅の最上階まで上がった。女性がノックをし、答えが返ってきたのでマリッサは入室する。
「ただいま戻りました、おばあさま。
急に戻ってきてしまって申し訳ございません」
「久しぶりだね、マリッサ」
「お話があるのですが、いまお時間大丈夫ですか」
「大丈夫だよ、ナターシャ、下がって良いよ」
マリッサをこの部屋まで連れてきた、メイドの女性・ナターシャが下がる。マリッサの祖母は、優しさと高貴さを兼ね備えたような、初老の女性だった。
「そこに腰かけると良い」
テーブルとイスを指差し、マリッサもそこに腰かける。
「ラウルたちのサーカス団の団員を雇っていただけないでしょうか」
マリッサの祖母は驚いた表情をした。
「やめてしまうの」
「ラウルが言ってました。
一番年が下だった子達ももうスクールを卒業して、堂々と働ける歳になった。このままサーカス団を続けていても収入は安定しないからそろそろやめ時だって」
スクールは義務のため、在学中は家業など一部を除き職に就くことはできない。
マリッサの祖母は話を聞いて頷いた。
「賢明な判断だね、ラウルはあの子達の将来を考えてる。この国はサーカスは盛んではないからね。働ける年になれば定職についた方がいい」
「これ、ラウルから預かった手紙です」
マリッサの祖母は手紙を受け取り、封を開ける。
五枚ほどの便箋に綴られた手紙を読む。
しかし、最後の一枚を読むときの表情は険しそうだったが、手紙を読み終え顔をあげた頃には温和そうな表情に戻っていた。
「本当に兄弟思いの良い青年だ。
団員を出来れば同じところで働かせたいって書いてあった。あの子達は家族を失っていて、帰る場所がないから、散り散りにはできるだけさせたくないって」
「ラウル……」
「いいよ、全員ここで働いて。
でも、一つ交換条件といったらなんだけど、お願いがある」
マリッサの祖母は、テーブルに手紙を丁寧におき、マリッサの目を見ながら告げた。
「なんでしょうか」
「マリッサが、適正を見極めて配置を決めなさい。あとは二ヶ月ほどサポートをしなさい。旅をして色々な知見を深めるのも良いけど、今回のことを通して、少しずつ、跡継ぎとして家のことも知ってほしい」
「わかりました、二ヶ月間、戻ります」
マリッサは祖母の意図を汲み、了承した。
夕暮れを過ぎ、マリッサの祖母とマリッサで夕食をとった。マリッサはこの日は泊まり、明日は一度トレランスに戻ることにした。そして、サーカス団の団員たちを連れて、改めてここへ戻ることになった。
一方、ザイアスたちは夜に昨日と同じ酒場へ向かった。到着すると、ラウルはすでにお酒を飲んでいた。
「来てくれたんだ、良かった」
「誘ってくれたからな」
ザイアスたちも着席し、昨日と同じようにお酒を嗜む。雑談をして一時間ほどたったころザイアスが切り出した。
「俺たちに用があるんだろ」
ラウルは手にしていたグラスをテーブルにおいた。
「お見通しだね、ああ、そうだよ。
君たちの旅に俺も連れていって欲しいんだ」
アメリアは驚いた表情をしているが、ノアとザイアスは特に表情を変えなかった。
「ザイアスとノアは驚いてないね、気付いてたのかな」
「なんとなくねー」
ノアはいつも通り、笑いながら返した。
「詳しい話は宿でしたい。ここではあまりしたくない」
と、ザイアスが言ったため、酒場を後にして、宿へと戻る。ザイアスの希望によりアメリアは自分の部屋に戻ることになったため、ノアが送り届けた。
「ごめんね、アメリア。
仲間はずれとかではないんだけど、少し話しておきたいことがあって」
「大丈夫だよ、気にしてくれてありがとう」
アメリアはノアに笑顔で答え、部屋へと入っていった。
ノアが部屋に戻る、各々腰掛けられると頃に腰を掛けた。静寂を破ったのはラウルだった。
「俺は吸血鬼だけど、ザイアスたちに何かしようとは思ってないよ」
「吸血鬼なのは分かってる。だからアメリアは部屋に返した。敵は自分から敵とはいわないだろう」
ザイアスが尤もなことをいうと、ラウルも同意なのか頷いている。
「俺は君たちに会ったことがあるよ。十三年くらい前かな、姫様のお誕生日を祝うパーティで。
ノアとザイアスは、周りにずっと人がいて、話しはできていないけどね」
ラウルの発言には二人も驚いたようだった。
「そうか、ならいい」
「結構あっさりだね」
「あのバースデーパーティに招かれるのは限られた家だけだからな。そもそも開催自体も招かれたものしか知らないはずだ」
ザイアスは神妙な表情をしながら返す。
「それにマリッサとアメリアに危害を加えなければ、俺は構わない」
「そんなことしないよ」
「マリッサに吸血鬼って伝えてないよねー?
一緒に旅をするなら隠しきれないよ」
「ああ、伝えるよ。
嫌われるのが怖くて、話せていなかったけど隠し通せるものでもないのは分かってるよ」
ラウルは続ける。
「良くわかったね、マリッサに伝えてないって」
「マリッサが前にいってたからねー。
ザイアスと俺は初めての吸血鬼の友達だって」
「そっか。あと聞かないんだね、何で旅についていきたいかって」
「無理に聞くつもりもない。
むしろ何で旅をしてるのか聞かないんだな」
「俺も目的はあるけど確証を得てないから今は話したくない。だから他人のも聞かないよ」
三人とも、いや、マリッサとアメリアもいれて五人は考え方は同じだった。本人が言いたくないことは聞かない。ザイアスとノアとラウルはその事に気づき笑う。
「これは一緒に旅をするなら話さないといけないから話すが、他言無用で頼む」
ラウルが頷いたのを確認してから、ザイアスはネックレスを出した。
「これ、ほとんどの台座が埋まってないね」
ザイアスが手にしているネックレスを覗き込みながらラウルが言う。
「ああ、各地に回って条件を満たすと石が嵌まる仕組みになってるが、詳しくは良くわからない」
「不思議だね。
今回は俺たちのサーカス団だったのか」
「ああ、目的地はな。
目的地は夢で見るが、何をすればいいのかはいつもわからない」
「二つ埋まってるけどどこに行ったの」
「リッシェにあるペイシルという町と学園都市だ。ペイシルでは辞めていた小麦栽培を再開するきっかけを与えたことと、学園都市は新しい講師が着任することになって石が埋まった」
ラウルは考える。
「目的地に向かって、困ってることを解決すれば良いのかな」
「今はそう思っている。学園都市には三ヶ月ほど滞在した。一ヶ所に長い間留まることもあるから、急いでいるのであれば同行は薦めない」
詳しい条件はザイアスもわかってないが、今までは現地で困ってる人たちがいて、それが解決したら石が嵌まっていた。とどまる期間も決まっていない。
「急いでいないわけではないけど、当分は大丈夫」
「アメリアには俺たちから伝えておくー?」
「いや、俺から話すよ、まだ起きてるかな」
ノアに案内されてアメリアの部屋へと向かう。ノックをすると返事が返ってきた。
「アメリアー、まだ起きてる?」
「ノア?どうしたの」
「ラウルから少し話したいことがあるって」
「わかった、今開けるね」
アメリアは鍵を開けて扉を開き、二人を招き入れる。
「二人で話す?」
「ああ」
ラウルがノアに答え、アメリアとラウルは二人きりになった。
「なにか飲みますか?」
「いや、大丈夫
あと、敬語は使わなくて良いよ」
「わかった、そこに座っていいよ」
アメリアが指を指したイスに座るラウル。アメリアは二つあるベッドのうち、ラウルに近い方のベッドに座った。
アメリアも口数が少ない方なので声を掛けることはしない。部屋には沈黙が流れる。
「君たちの旅に同行させてもらおうと思ってるんだけど、いいかな」
「うん、わかった」
考える時間もとらずアメリアが答える。
「アメリアもあっさりだね」
拍子抜けをしたのか、表情の乏しいラウルも少しだけ表情を崩した。
「ザイアスとノアが良いって言ったなら、私に反対する理由はないよ」
「俺が吸血鬼でも?」
優しい声音が少しだけ厳しくなった。
「うん。吸血鬼とか人間とかは関係ないよ。ノアとザイアスが一緒に旅をしても大丈夫って判断したんだと思う」
アメリアは笑顔でいう。
「ありがとう」
ラウルはいつもの優しい声音に戻る。
「マリッサには吸血鬼ってこと、伝えないの?」
アメリアも、マリッサがノアとザイアスが初めての吸血鬼の友達だといってたことを覚えているとのことだった。
「いや、伝えるよ」
ラウルは少し俯いた。
「そっか」
アメリアは少し複雑を浮かべるが、特にそれ以上は言わなかった。
「ありがとう、アメリア。
今日はこれで失礼するね」
ラウルは部屋を出た。部屋を出るとノアが待っていた。
「ザイアスがこれからのことを少し話したいって」
「ああ、わかった」
二人は部屋に向かって歩き出した。




