2 旅の始まり
次の日の朝になり、宿のロビーで四人は待ち合わせをしていたが、ノアが来ない。
「俺が部屋を出るときに声はかけたが、まだ寝てるのか」
半分呆れた表情をしながら、ザイアスが声をかけに部屋に戻ろうとした。
「おはよう、遅くなってごめん」
一番最後に、宿のロビーへあくびをしながらノアが到着した。
「そろそろ行くか」
ザイアスが声をかけ、宿から出発した。
四人は鉄道に乗るため駅へと向かう。リッシェでの移動手段は、鉄道やバスである。これから向かう村には、鉄道で四時間、バスで二時間、計六時間ほどかかる。
朝が早く朝食をとっていないため朝食と切符を買い鉄道に乗り込んだ。四人がボックス型の席に座ったころ、鉄道が発車した。
「眠いねえ、ザイアス」
「そうだな」
目を擦りながら、ノアはザイアスに話しかける。実はザイアスも朝はあまり得意ではない。
「寝てていいよ」
そんな様子を見たマリッサは鉄道に乗るときに買った朝食を食べながら声をかける。
「いや、大丈夫」
眠気覚ましにコーヒーを飲みながらザイアスは答える。ノアも眠い目を擦りながら、なんとか起きていた。
「あ、もうすぐ終点みたい!駅が見えた」
窓の景色をずっと見ていたアメリアがはしゃぎながらとなりの席のマリッサに言う。
「乗り換えだね。アメリアは鉄道に乗ったことないの?」
「うん。あ、でももしかしたら小さい頃あるかもしれない」
自身が覚えている限りでは初めての体験で、少し興奮ぎみのアメリア。四人で遠くに行くのもはじめてのようだった。
鉄道は都市部から長距離を移動する時に使用されることが多い。都市部暮らしだとバスや徒歩での移動が多く、あまり使用する機会がないため、栄えた街に住んでいると乗ったことない人も多い。
ほどなくして乗換駅に到着し、また鉄道に乗る。
四人でゲームをしながら過ごし、バスに乗り換える駅に到着した。
「学園があるところと全然違うね」
改札から出て、景色を眺めながらアメリアは呟く。駅の周りにも畑が広がっていた。
学園がある都市は、所謂大都市である。レンガで作られた建物が所狭しと立ち並んでおり、アメリアが言うとおり全然風景が違った。
「リッシェは結構広いからな」
驚いているアメリアに対しザイアスが声をかけた。
「さっきバスの時間見てきたけど、もうすぐ来るよ」
いつの間にか確認をしていたマリッサが教えてくれた。マリッサは気が利く性格であり、ザイアスとノアより年下ではあるがお姉さんのような存在である。
「急ぐか」
ザイアスが声をかけ、到着したバスに乗り込んだ。
二時間ほどバスに乗り目的地に到着した。小さい村だが民家がいくつかある。近くには牧場や畑があり、のどかな雰囲気。しかし、ザイアスとノアの顔は、バスを降りてからどんどん暗くなっていっている。
「結構暑いな」
「もう夕暮れなのに、日差しが強いね」
ザイアスとノアがため息混じりに呟いた。
「あれ、ここじゃ見ない顔だねぇ、旅のひとかい?」
野菜がつまったかごを背負った、通りすがりの元気そうな老婆が一行に声をかけた。
「そうなんです、今ついたばかりで」
いつもであれば、人当たりのいいノアが返事をするところだが、疲労が溜まっており、返事をする様子がないためマリッサが返事をした。
「なにもない村によくきたね。うちは宿をやってるから、来るといいよ」
何も決まっておらず断る理由がないので、老婆についていくことにした一行。
数分歩くと、木造の暖かみのある建物に到着した。
宿には二階建てで、二階に部屋が三つ、一回に酒場があると教えてくれた。とくに宿のあてがなかった一行は、二階の部屋を二つ借りることになった。