8 若きものの悩み
昨日と同様、マリッサはザイアスたちと入れ替わるように、学園へと向かった。
マリッサとサリは学園祭の準備を進める。一方ザイアスたちは苦戦をしながらもなんとか講義を行う。そう過ごしていると、ザイアスたちにとって休み前の講義日になった。
この日も四人で夕食をとる。すでにマリッサは今週の業務を終えている。
「なんか疲れてるけど大丈夫?
慣れないうちは大変だよね」
マリッサが三人を見ながら心配する。
「ああ、ちょっと学生たちもくせ者でな。
これを解決するのが近道だと思ってるから何とかする」
この日は休み前の講義ということもあり疲労は最高にたまっている。慣れない講義に、歯向かってくる生徒との信頼関係の構築とやることが多く疲れても仕方がない。
「明日は大丈夫?」
明日はサリを含めた五人で出掛ける日である。三人の様子を見ながらマリッサは聞く。
「大丈夫ー。俺も楽しみにしてるから」
ノアが笑顔で答えている横でザイアスとアメリアも同意するように頷いている。
夜になり、マリッサと別れ学園に向かう三人。今日が終われば二日間休みだと、気持ちを引き締しめる。学園に着いた。学園では別行動で、授業の無い時間は各々講師室で準備等をしていた。
ノアは講義へと向かい、アメリアとザイアスはこの時間は講義がないので、各々の講師室へと向かう。
アメリアが準備をしていたところ、ノックの音がした。
「アメリア、少しいいか」
ザイアスの声だった。アメリアは了承してからドアを開けた。
「今日、空いてる時間にアメリアの講義見に行っていいか」
「いいよ。でももう大丈夫だよ」
「俺のところがあまりうまくいってないから参考にしたい」
ザイアスが真剣な表情で伝えてきたため、アメリアは参考になるか分からないけどと言いながら了承した。
アメリアが担当する講義の時間になり、ザイアスと一緒に教室へ向かった。
「今日も昨日からの続きを行ってください」
一週間といいつつも講義の時間は一日九十分。アメリアが設けた期限まであと二回しか時間はない。学生たちはこの部屋に数台備え付けてあるミシンを使って製作を進める。
アメリアは自分も製作しつつ、部屋を見回る。
「ここはもう少し丁寧に縫った方がいいですよ。
裏側なので見えるところではありませんが、見えないところだといって手を抜くとほつれに繋がります」
「あ、ありがとうございます」
アメリアが、一人の学生に声をかける。
「すみません、縫っているとどうしてもずれてしまうんですけど良い方法ありませんか」
ミシンで柄物のシャツを縫っている学生だった。アメリアは近くまで行き、アドバイスをする。
「見えている端の部分を合わせるのではなく、縫う場所を見ると良いです。針が落ちる両側の部分を同じ強さ、速さ、手加減で移動させると良いですが、慣れも必要かと思います。あとは上側の布がずれがちなので、最初に数ミリ程度ずらしとくと良いです」
「ありがとうございます」
「この部分少しやってみても良いですか?」
生徒に了承をとり、先ほどの説明を自身で行いながら再度丁寧に説明するアメリア。その手際のよさに質問をした生徒も驚いている。
「こんな感じです。慣れもあるので意識して今後もやってみてください。また何かあれば聞いてください」
その様子を見た他の生徒も次々と質問をした。そして時間が来る。
「本日の講義は終わりますが、次の時間は空いてますので何かあれば講師室まで来てください。
ザイアスは後ろで腕を組ながら見ていた。
「なにも心配要らなそうだな」
誰にも聞こえないような小さな声で呟き、安堵した様子で授業が終わるまで見ていた。
授業が終わり、講師室に二人で戻る。
「心配してくれてたんだよね、ありがとう」
アメリアが礼を伝えるとザイアスは恥ずかしそうにしていた。
「なんでもお見通しなんだな」
アメリアは笑いながら、部屋へと戻っていった。
アメリアは次の時間は空いているため、部屋で服を作っていたところ、ノックの音が聞こえた。
答えたところ、先ほどのクラスの生徒だったため中に入れた。
「先生、今お時間よろしいでしょうか」
最初の授業で難癖をつけてきたクラスの中心の女子学生だった。
荷物は部屋においてきたようで、何も持っていない。先ほどの講義で質問したいわけではない様子だった。
「大丈夫ですよ、どうかしましたか」
アメリアは自身が座っている席の正面に椅子を移動させ、座るように促す。学生は座り、話をはじめる。
「私、卒業したら実家関連で別のことをする予定です。でも服を作るのをやめたくないんです」
真剣な眼差しで悩みを吐露する。
「店を持つのは今は無理なのはわかっていますが、何らかの形で服を作って世に出したいって思ってて……」
彼女は家を継ぐために、勉強をしなければならないらしい。継いだあとか結婚したあとか、自分の子供に家を譲ったあとかいつかはわからないが、落ち着いてから店を出す時間はあると思っているとのことだった。でもいつになるかはわからない。百年後か二百年後かもしれないと。
「参考になるかわかりませんが、どなたかのお店に置いてもらうのはどうでしょうか。
それで一定数お客さまがついてきたら、オーダーメイドを承るみたいな」
彼女は良い案と思いつつも、不安が拭えない様子。
「ご友人とかは持つ予定や継ぐ予定はないですか?私は学園のときに講義が一緒だった友人のお店にたまに置いてもらっています」
「お店を持ちたいって思わないのですか?」
人間は百年しか生きれないのに、やりたいことをやらなくて良いのか理解ができないと彼女は言った。
「お店を持ちたいですが、いまはそれよりやらなければならないないことがあるんです。ですが私も貴女のように、服を作るのはやめたくなかったので、お店におかせてもらうという形で続けてます」
アメリアは微笑みながら本心を伝えた。
「そっか、ごめんなさい。変なこと言って。
あと最初の授業の時は意地悪言ってごめんなさい」
「いいえ、あれはあなたの本心ではないですよね?
話し方もそうですし」
彼女は苦笑いを浮かべる。
「気づいていたんですね。ただコロコロ変わる講師は信頼できないって思ってて」
「なにかあったんですか?」
「家柄を見たりして気を使う講師が多かったんです。例えば明らかに違うことを言ってるのに、否定もしなかったり。
確かにそうなる気持ちもわかりますが、ここでそういうことをされると来る意味がないなって思ってしまいます」
「そうですね。私はあまり貴族制度に馴染みがないので感覚はわからないのですが、間違っていることには間違ってると言えないと講師としては駄目ですね。
服飾、特にデザインだと正解はないことが多いですが」
「また相談しに来ても良いですか?」
「もちろんです」
お礼を伝えたあと彼女は部屋をあとにした。迷いを吹っ切れたような様子だった。
アメリアは見送りながら、懐かしそうな表情を浮かべていた。
この日もすべての講義が終わりザイアスたち三人は寮へと戻った。




