プロローグ
私、エマ・フロウライトには前世の記憶がある。
ラノベなんかでよくある、転生というものなんだろうか。
エマと呼ばれることに既視感があった。
そう、前世の私の名前もエマだったのだ。
六歳の誕生日、プレゼントで貰ったオルゴール。
その曲を耳にした瞬間、私の記憶は勢いよく蘇った。
私は毎日残業・毎週休日出勤の所謂ブラック企業のOLだった。
ただただ毎日仕事と食事と睡眠だけを繰り返す日々。
そんな生活で恋人なんて作る余裕もなく、私の枯れた心は癒しを求めた。
そこでハマっていたのが恋愛シュミレーションゲームだった。
所謂、乙女ゲームである。
最後にプレイしていたのは、『ロイヤルローズ』。通称『ロイロ』。
ヒロインのロゼッタが、貴族や王族のイケメン達と知り合い、恋に落ちていく王道ストーリー。
ヒロインと自分の性格がかけ離れ過ぎて、いまいち感情移入出来ずにプレイしていた気がする。
乙女ゲームのヒロインはだいたい、素直で可愛く、健気でまっすぐな子が多い。
三十路近くの社畜女にはもうそんな純な感情は残っていなかった。
プレイ中も自分と置き換えて疑似恋愛するというより、人の恋物語を読むという感覚が正しい。
まあ、そもそも恋愛経験ゼロの喪女だったから……うん。
そんな悲しい女の一生はあっけなく終わったようだ。
死因はどうも覚えていない。
事故に遭った記憶もなければ、体調も悪くなかった、はず。
最後の記憶が三十路手前なだけであって、その後も長生きしたのかもしれないし、分からない。
どちらにせよ、こうして別の人間として存在しているということは、そっちの人生は終わったと考えていいだろう。
終わったものはしょうがない。今の人生を生きることの方が重要だ。
記憶が蘇るきっかけとなったオルゴールの曲。
これは前世プレイしたゲーム、ロイロのエンディング曲だった。
どうしてそれがオルゴールの曲として存在するのか、答えは簡単に見つかった。
「そういえば、第二王子のウィリアム様も同じ月に生まれていたわね」
「公爵家のオズワルド様もだったな、そのうち社交界で会うだろう」
両親の会話に出てきた、二つの名前。
それは、ロイロの登場人物、攻略対象キャラの名前と同じだった。
混乱する頭がぐるりと回って出した結論は、ここはロイヤルローズの世界だということ。
ただしその記憶の中に自分の名前は一度も出たことが無い。
つまり、ロイヤルローズの世界の、名も無いモブ令嬢に転生したということ。
結論に至った私は、混乱した頭を少しづつ落ち着かせていった。
名前も無いモブなら、ラノベでよくある破滅回避とかをする必要も無さそう。
恐らく、自分の行動はそこまでゲームのシナリオに干渉しないだろう。
今まで通り、エマ・フロウライトとして生きていれば問題はないはず。
そこまで考えて、ふと思い当たる。
ヒロインに嫌味を言う意地悪キャラでもなければ、ヒロインのお助けキャラってわけでもない。
ということは、私は私で好きなようにしていいってことかな?
きっとヒロインは攻略対象の中の一人と結ばれる。
それなら、他のキャラとだったら私もチャンスがあるのでは?
ロイロの攻略対象は全部で五人。
一人目は、ウィリアム・ナイトレイ。
このアイギス王国の第二王子で、メイン攻略対象キャラだ。
性格は真面目で努力家、そして天邪鬼でツンデレ属性。
プラチナブロンドの綺麗な髪に、王家の証であるブルーの瞳。
ベタな設定だが、王道には王道の良さがある。
二人目は、オズワルド・クロウフォード。
ウィリアム王子の幼馴染でクロウフォード公爵家の嫡男。
近衛騎士団の団長で、優しく温和でたまに少しサディスト気質。
明るいブラウンの髪に、翡翠色の瞳。
弟が二人いるせいか、お兄ちゃんポジションのようだ。
三人目は、ノア・ラズウェル。
ヒロインの幼馴染でムードメーカーなラスウェル侯爵家の嫡男。
スポーツ万能で人懐っこく、元気で明るい性格。
赤に近い焦げ茶の髪に、黄金色の瞳。
赤は無邪気で元気っ子、これもまたベタである。
四人目は、メルヴィン・クロウフォード。
ヒロインより一つ年下で、オズワルドの義理の弟。
だいたい無表情で、口数が少なく大人しい美少年。
白銀の髪にオズワルドより少し明るいグリーンの瞳。
正直に言って、私が前世一番気に入ってた子だ。
五人目は、シエル・バーンシュタイン。
王子の命を狙って送られた敵国の暗殺者で、隠し攻略キャラ。
飄々として時に残酷さをにじませる、ミステリアスキャラだ。
黒髪に暗い深紅の瞳で、攻略キャラの中で一番背が高く年齢も上。
大人な男性に憧れる女子のハートを掻っ攫っていた。
それぞれとても魅力的で、それぞれのルートシナリオも評判だった。
ヒロインはこの中の誰かと、将来結ばれる。
しかし、今の時点でヒロインが出会っているだろうキャラは、幼馴染のノアだけ。
シエルもすべてのキャラの攻略後にしか落とせないので除外。
つまり、残り三人に関しては今から行動できる私にもチャンスがある、かもしれない。
しかもその中には、私が前世大好きだったメル……可愛いメルヴィンくんもいる。
「よし、決めた」
どうせ私はゲームでは名も無いモブ令嬢。
だったら私のシナリオは、私自身で書き上げていくしかない!
六歳になったばかりの小さな令嬢は、大きな決意を胸に、新しい人生を歩むことを決めた。
なんとなく書き始めてます。
のんびり宜しくお願いします。
R15は念のためです。