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粘着男は夢を見る③。

 小部屋を探す過程で神父を発見し、案内された部屋の寝具にシスターを寝かせる。神父は桶一杯の水と清潔なタオルを置いていったきり、姿を見せる気配がない。


 看病を丸投げされたと気付くのに、エドガーは二時間掛かった。


 椅子の背凭れに顎を起きながら穏やかに眠るシスターを目にし、深く溜め息を吐く。


「折角の暇をこんな無意に過ごすとか……はぁ」


 エドガーは読書家ではない。当然暇を潰す為の書籍など持ち歩かないし、剣を持ってきていないので素振りも出来ないでいる。そもそも教会は武具の持ち込み厳禁で、持参して来たとしても素振りなど出来ないが。


 彼はこの二時間、シスターの頬を指先でつついたり、窓から外を見上げたり、元気に遊び回る子供のはしゃぎ声に耳を傾けていた。


「……そういや、こんなゆったりと過ごすのは初めて、いや久々か? ……どうでもいいけど」


 近衛を勤めている間は勿論、休日も剣を教えに来るお節介な輩のせいで忙しなく過ごしている。他には博打であったり、手持ち無沙汰で都を徘徊する程度だ。


 何もせず、ただぼんやりと時間を使うのは、エドガーに取って新鮮なものだった。


「……悪くねぇじゃん」


 誰にともなく呟く。


 果たして、その言葉は誰に対してなのか。それは彼本人も把握していない。


 休日でも仕事を優先していた幼き時代の父に対してか、今もなお毎日を忙しく過ごしている兄達へなのか、それとも何かと鬱陶しいお節介を働く同僚か。


 エドガーが遊びに誘おうにも、彼等彼女等は何時だって休まない。


 彼にはその心が理解出来ない。そして突き付けられる気分になる。どうしてお前は足を止めているのかと。


「別にいいだろうが」


 エドガーは貴族らしくない貴族である。男爵家アーベルングの三男だ。貴族的地位は低い。だから、貴族の心得など、有って然るべき教育から距離を置いて育てられた。


 貴族でありながら、平民のように自由に生き。


 貴族でありながら、平民のような価値観を持ち。


 貴族でありながら、国への忠誠心がない貴族。


 嘲笑された訳ではない。軽蔑された訳でもない。ただ彼等彼女等は残念そうにするだけだ。だから、エドガーは憤る。自分なら当然声をあげて相手を非難する。実際に言われるのは嫌だが、言われないのもそれはそれで嫌なのだ。なんて面倒臭い男なのか。


 シスターの額からタオルを取り、水を吸わせてきつく絞る。


「……はっ! バカらし」


 きちんと絞り切らないまま、濡れたタオルをシスターの顔にべちんと投げる。すると彼女が大きく仰け反り逆くの字となった。


 エドガーの腰が椅子から浮いた。


「何々何々!? 泉の縁で遊んでたから精霊様が引きずり込んだのっ!?」


「おまっ。もうちっと驚き方大人しくさせろよ」


「誰っ!?」


 ぐわん、とシスターの上体が猛烈な勢いで持ち上がる。慣性の法則に従い、濡れたタオルがエドガーの顔にべちゃり。そして目元の部分だけが捲れる。


「俺様だ」


「ひょわぁーっ!?」


 驚き方といい悲鳴といい、色々と喧しい女である。


「なんでぇ!? どうして男の人がわたしの部屋に居るんですか!? 朝ちゅんですか!? 朝ちゅんなんですかっ! 常日頃からヴァージンである事を気にしすぎてついにやっちまったんですか!? どうなんだよアァン!?」


「ここは教会でお前の部屋じゃねぇし、つか朝でもねぇし、あんたの下半身事情とか知らんし、なんで最後だけ不良みたいなんだよ。訳わかんねぇこの女」


 律儀に全てのツッコミポイントを指摘していくエドガー。火遊びなど飽きる程しているが、この手のヒステリーガールはお呼びではない。愚痴りたい事はあるが、変に絡まれる前にと早々に退散する事に決める。


 無言で立ち去ろうとするも、シスターは目敏く察知した。


「待ってぇー!」


 扉に手を掛け、後は出るだけだというところでシスターのタックルが炸裂する。と言っても、二人の体格差は歴然。エドガーは「ごふっ」と肺から空気が押し出されるだけで済んでいる。


「……」


 シスターは逃がすものかとその逞しい背中に体を押し付け、両腕を前に回してホールドする。乙女の寝顔を見られたからにはそれ相応の責任を取って貰わねばならない。そんな母の言葉を思い出しての行動だった。


「……ふむ」


 エドガーが一歩をこれ見よがしに踏み出すと、シスターは更に力を込めて体を彼に押し付ける。そう、押し付ける、胸を。


 くるぶし丈のゆったり修道服で分かりにくいが、こうして密着されて初めて分かる我が儘ボデェー。頭巾を被っていて顔しか分からないが、シスターは間違いなく美人の部類だ。薄い布越しから察するに、我が儘ボデェーでありながらスレンダーな体型であろう。


「はっ! そんなんじゃ甘い甘い」


「ーーーっ!!」


 試しに煽ってみると思った通りの反応が返ってくる。


 エドガーは内心で、夜の街に繰り出す事に決めた。


 そしてふと冷静になる。これは何時まで続くのだろうか。


「あの、シスターさん?」


「ぬぬぬぬぬぬ」


「シスターさーん?」


「ふぬぬぬぬぬ」


「いい加減離れ、意外と強い!?」


「ぐぬぬぬぬぅー!」


 割りと本気の抵抗を試みるも、前に回された腕はガッチリと組まれている。力任せに振り回してみると、シスターが力を緩める気配はない。


「こんのアマぁ。くらえ、脇腹!」


 指先に力を込め、後ろ手になりながらシスターの脇腹を正確に小突く事に成功する。彼女は一瞬怯み、腕の力が緩くなった。


 そうなると、エドガーの体は自然と動いた。


 彼は近衛の中では最弱の騎士だが、それでも厳しい訓練を受けた騎士である。剣術だけではなく、体術の心得もあった。その中には当然、後ろから組み付かれた場合も想定されている訳で。


「ぜりゃあぁーっ!」


 シスターの体を振り回して勢いを付かせ、室内へ向かっての一本背負いが繰り出される。床が割れるんじゃないかと心配になる程の音が響き、シスターは本日に二度目、目を回した。


「きゅう……」


「どうだこの野郎! 調子に乗るからだざまぁ見やがれ。アーッハッハッハ……っは!?」


 背中を仰け反らせて高笑いすると、扉の隙間から中を窺っている神父と目が合った。ニコニコとした笑みを絶やさない神父と合った目が離れない。長身で、服の上からでも分かる鍛え抜かれた肉体がぬるりと迫る。エドガーの肩をミシミシと握り、神父はおぞましい笑顔を近付けた。


「あ、あの、ご免なさい」


 エドガーの謝罪は恐怖に震えていた。


 その後、何故か定期的にシスターと会う約束を誓わされ、エドガーは無事自宅へと帰還した。その夜、彼は街へ繰り出さなかった。

 作者

「とまぁ、彼方へと消えた前回の部分がこちらである。所々描写が変わってるけど気にするな。これだからスマフォは」

 友人

「作者のスマフォ嫌いが加速する……。にしても、昔と違ってアダルトなワードを躊躇なくぶっ込んでくるよなー」

 作者

「変に意識して避けると逆にキモくなったから止めた。あ! くそ、Amazonわすゆ品切れてやがる」

 友人

「あー、そういや言ってたね、今月末か」

 作者

「シリーズまとめ買いしようとしたのに、裏目った。ちくせう」

 友人

「一期しか見てないんだけど、二期って円盤買いたい程面白かったん?」

 作者

「友人よ。てめぇーは俺を怒らせた」

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