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粘着男は夢を見る。

 小鳥の囀ずりと共に、彼の意識は少しずつ覚醒していく。


 今日がなんの日かを思い出すと、彼は眠気を振り切って体を起こした。


 彼の名前はエドガー・フォン・アーベルング。


 アーベルングの三男にして、王宮に勤める近衛騎士の一人である。アーベルング家に名を連ねているが、同貴族からの彼に対する評価は低い。最も貴族らしくない貴族。貴族の恥さらし。陰でも表でもそう言われている。


 王家の人間が外出する際に護衛としてお供するエドガーだが、それも昨日までの話となる。


 本日は勇者召喚の日。エドガーは、勇者に剣を教える教官となる。ある意味では勇者の教育係り。女神の神託から、近い内に新たな魔王が出現すると予言され、与えられた勇者召喚の秘法。そこから顕れる者を育てたとあれば、彼の王宮での評価も見直されるだろう。


 その時の事を妄想すると、エドガーは愉しくなってくる。


「今に見てろよ、貴族のくそったれ共め。この俺様の前に平伏ひれふさせてやる……!」


 拳を強く握り、野望を言葉にする。


 企みが頓挫する可能性を模索しない辺り、彼の頭は都合よく出来ている。


 本来、男爵家の三男が近衛騎士になる事はない。王族を護る盾となるには、格が足りていないからだ。だというのにエドガーが近衛騎士になっているのは親による働き掛けが有ったからなのだが、彼は自分の実力だと信じきっている。


 妄想もそこそこに、エドガーは仕度を済ませて王都にある家を出る。ここから王宮へ赴き、更衣室で正装甲冑を装備する時間を考慮すると、のんびりもしてられない。


 既に遅刻気味な彼は、焦りを胸に街を駆けていった。


 エドガーは見事に遅刻した。


 謁見の間にこっそりと侵入したエドガーはしれっと近衛騎士が立ち並ぶ最後尾へとつく。緊急時の小窓が何故か開いており、楽々侵入を果たし、運よく列の最後尾に位置していたお陰で目立つ事なくやり過ごした彼は知らない。全てが近衛騎士の隊長による計らいであるなど思いもよらないだろう。


 今のエドガーの心境は、へっへっへー、俺様ってついてるうー、である。


 そうして暢気している間も、同じ近衛騎士から呆れられているなど彼は気付かない。彼等はもう、エドガーの更正を諦めている。曰く、あいつはもう、何言ってもダメだー。


 唯一例外なのが隊長で、兄弟姉妹の多い彼の世話好きは相当なものだ。何かとエドガーに構っている。エドガーの子供のままの未熟っぷりが弟や妹を彷彿とさせていた。


 魔導師達による勇者召喚の魔法陣の構築が終わる。


 彼等の体から魔力が注がれ、とうとう勇者が召喚されるのだ。


 一体どんな人物なのだろうと誰もが胸を踊らせた。


 燦然とした輝きが止むと、そこには平凡極まる少年が佇んでいた。珍しい部類である黒髪黒目の童顔は、推定年齢十二歳から十四歳だろうか。背も低く、体は未発達。


「えーっと、自己紹介したいんですけど……」


 予想よりも幼い容貌に、誰もが声を出せないでいる。そのせいか、困ったように頬を掻く少年。困惑に染まった声音は声変わりをしていない。


「か……」


 何処からか、声がした。


「可愛いですわあぁーーー!!」


「うわぁあ!? 何々なんなの!?」


 玉座のある壇上から、一人の女の子が飛び出した。可愛いもの好きで知られる第二王女である。


「可愛いですわ、キュートですわ、ラブリーですわぁあーー!!」


 絹糸の様な黄金の髪を遠慮なく振り乱し、第二王女は勇者に抱き付き頬擦りする。第二王女と勇者の年齢は近いように見える。若干第二王女が歳上に見えるが、それは身長差の影響だろう。幼子は女児の方が大きい。


 玉座に座する国王はほんわかしている。生暖かく微笑んでもいる。これに釣られて謁見の間に微笑ましい雰囲気が漂うが、ただ一人、憎悪をたぎらせている者が居た。エドガーである。


(あれが勇者? この俺様が、あんなガキの教育係り? おもりの間違いだろ。ふざけんなっ!)


 エドガーは一人、不満を募らせていく。


「勇者様、勇者様。わたくしの名前はソーシャ・ヴクティム・ミルツゥネル=フィフティブ・アレクトロフです。ソーシャが名で、父・母の名、そして大陸名と国の名前ですわ」


「フィフティブ? フィフティーン? どうして15なんですか?」


「女神様の御神託ですの。滅びと再生を繰り返すこの世界、15個目の大陸という意味ですわ」


「えっ? 滅びちゃうの?」


「万や億という時の果てでの事ですのよ? わたくし達が懸念しようとも何が起こるかも分かっていないのです。対策のしようもありませんわ」


「そうなんだ」


「ところで勇者様? 伝承では勇者には固有能力が備わっているとありますの。勇者様にはどんな能力があるのですか?」


 第二王女がそう訊いた瞬間、勇者は雰囲気を一変させた。子供然とした、未熟な顔付きから随分と大人びたものへと変貌したのだ。


「……きみが気にする事ではないよ。それ程凄い能力ではないしね」


「あら? 謙虚ですのね」


「さあ? 教えたら幻滅されるからかもしれないよ?」


「では、そういう事にしておきますの。無理矢理調べたりしませんわ」


「ありがとう。ところで、僕の聖女は何処に居るのかな? 女神様が言うには、召喚される少し前に決めといてくれるらしいのだけど」


「それなら分かっていますの。ミリュームネルという家に代々仕える侍女の家系、その一人娘ですわ」


「そこは遠いのかい?」


「いいえ? ミリュームネルが渋っているだけですの。気持ちはよく分かるので、神殿には穏便に働き掛けるよう言い付けてありますのよ?」


「そうなんだ。ソーシャは優しい子だね」


「まぁまぁ! 勇者様はお口が達者なのですわね」


 頬に両手を付いて照れて見せる第二王女。王族と対等であるかの様な振る舞いを誰もが許容していて、エドガーは面白くなかった。自分があんな子供よりも下なのだと、言外に突き付けられている気分である。


 勿論、実際はそんな事はなく、エドガーの被害妄想である。


(クソガキがあ!! 自分の立場を分からせてやる!!)


 エドガーは勇者に剣を教える教官役である。彼はその立場を利用して、とことん勇者をいたぶろうと決めた。

 作者

「こういう自分勝手な人物ってどう描けばいいのかよく分からん。一応復讐系主人公を参考にしているのだが」

 友人

「一体何をどう参考にしたんだよ」

 作者

「くそ野郎なのに人に好かれるところ?」

 友人

「そりゃあ、ご都合的主人公の魅力だろ。作者、変に理由付けに拘るんだから」

 作者

「物事の因果関係は大切やぞ? 小さな雪玉を転がせば雪だるまが出来るんだから」

 友人

「……ちょっと今後の展開が怖くなってきた」

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