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都市開発③

「帰りたい……」


 大柄な男がそう嘆いたのは、都市を出てから二日目の夜だった。


 罠を仕掛けて捕らえた兎や栗鼠の肉をかじり、採って来た山菜や果実を摘まみ、栄養が偏らないよう携帯食料をスープに浸してから頂く。


 三人で一つの焚き火を囲み、焼いて滲み出た肉汁が垂れ落ち時折火が荒ぶっていた。


 停められた馬車の隣には、大柄な男では手も足も出せないような魔物の素材が山を築いている。


 自分がどれだけヤバイ連中に手を出したのか、大柄な男はよく理解していた。


 理解したからこその嘆きだった。


「これならまだ美人局や詐欺に遭った方がマシってもんだ」


「自業自得だろうに。そこの女の顔にほいほい釣られた自分を恨むのだな」


「くぅ! 面食いな自分が恨めしいぜぃ!」


 可憐や妖艶とは程遠い肉体。なのに男を惑わす不思議な魅力を持つ少女は不満げに唇を尖らせた。


「あらあら? また往来でその可愛らしいお尻を晒したいのかしら? ふふふ。毛一本無い綺麗なお尻だもの、自慢したいわよね? ふふふ」


「コワイ!」


 大柄な男は震え上がった。

 既に好意は失せたのか、その様子からは畏怖しか感じられない。

 期待外れだと、グリムは落胆した。

 少女に対する嫌がらせとして強制同行させたのに、これでは意味がない。ただの荷物を抱えただけだと、怒りを込めて骨付き肉をかじった。


「はぁ、出会いが欲しい。……なぁ、アンタ、誰か紹介してくれねぇか?」


「飢えているのなら娼館にでも通え。ミリュームにも置いてあるだろう?」


「ミリュームの嬢は良いよなー、たけぇけど。んでも俺が求めてるのはそうじゃねぇんだよ。こう、記念日? とか祭りの日? とかを一緒に過ごしたいんだよ。分かる? この気持ち」


 グリムは大柄な男の言う記念日や祭りの日にフィオレやスンと共に遊びに出掛ける自分を想像したが、いまいちピンと来なかった。

 そもそもグリムは主催側である。祭りの前は激務で、無事に開催された後は体力回復の為に寝込んでいた。

 自分を連れ出そうとする二人を雑に追い払っていた記憶もあった。


 仕事を分担する。そんな発想グリムには無い。


「そうした日は寝ている。纏まった睡眠時間は貴重だ」


「そうかよ。けどまぁ、彼女が出来ても関係続けるのも面倒なんだよなぁ」


「……そういうものか?」


「定期的にプレゼント贈らなきゃならねぇし、口が上手くねぇとやってられなかったりする。んで、言葉にしないと伝わらないってのがあるがな、ありゃ駄目だ。言葉にしても伝わらないとかもうアカンわな」


 これまで交際経験の無いグリムは大柄な男の話に興味を引かれた。

 グリムだって年頃の男の子である。興味の無いフリをしても気になるものは気になってしまう。


 続きを促して傾聴に入り、大柄な男が話しやすいように時折相づちも打った。

 その様子を少女は実に楽しそうに見つめている。


 そうして、大柄な男の交際経験の話題で時間は流れていった。


 ――もしもこの時に気付いていれば、少しは違う未来もあっただろう。

 しかし全ては後の祭り。仮に気付いても、事の結果はそう変わらなかったに違いない。

 言葉にしないと伝わらない。

 その言葉が、交際相手だけでなく、家族にも適用されると、彼は気付かなかった。

 グリムはまだ、何も知らない。

 幼馴染みが欲していた事を。

 義妹が言って欲しかった言葉を。

 全て伝わっていると思い込んでいたが故に起こった悲劇を。

 彼は知らない。


















 闇夜に紛れて蠢く影があった。

 生き物が寝静まった夜の時間。

 彼等の雇い主から指令が下り、満を持して襲撃する。

 標的は魔物を警戒して結界を張っている。

 彼等の手には魔道具が握られていた。

 結界の魔力に干渉し、一時的に機能を麻痺させる使い捨ての道具である。

 多方面から魔法を放ち、標的が気付く前に始末する。

 それが、殺し屋である彼等の仕事だった。


 星の満ちる夜に、爆音が轟いた。

 標的が眠る馬車目掛けて、各自が魔法を放ったのだ。

 馬車は砕け、地面は抉られ焦土と化し、その威力を物語っている。

 彼等は標的の死を確信した。

 だから、警戒と緊張を解き、油断して反応が遅れたのだ。


 ヒュンッ! と風を切る音が彼等の耳に届き、ついで何かが砕ける嫌な音を拾った。

 素早く見やれば、仲間の一人が背後から頭をかち割られていた。

 血潮と共に剣がゆっくりと引き抜かれ、仲間は俯けに倒れ、しばらく痙攣し、そして動かなくなった。


「テメェー等、夜中にドンドンとうっせぇーんだよ。マナーがなっちゃいねぇ。女にフラれるぞ? あん?」


 月明かりに照らされ、殺意を隠そうともしない大柄な男が言った。

 手にした大剣に血振りをくれてやり、肩に担ぐように置く。

 一目で分かる業物の大剣。

 力有る鉱石と、名の有る職人が鍛えたであろう大剣は、月光に照らされて燐光を放っている。

 彼等は確信する。あれは間違いなく、魔剣の類いだ。


「――――」


 彼等は減った人数で陣形を整える。

 目撃者は消す。

 それが彼等の規則だった。


「やるってか? ハッ! 夜中はお静かにって言葉を知らねぇのかよ?」


 大柄な男は大剣を構え、何気無く一歩足を引いた。

 瞬間、地面が猛烈な勢いで隆起する。

 鋭利な尖端は、大柄な男が足を引かなければ顎を砕き、そのまま頭蓋を突き抜け串刺しにしていただろう。


「ッラァ!」


 大地を力強く踏み締めて、大柄な男は駆け出した。

 そのまま勢いを乗せて先頭に居た彼等の一人に渾身の一振りを叩き込む。

 余りにも大振りなそれは、容易にかわせた。

 かわされる事を、大柄な男は予期していた。

 胴体を真っ二つにするべく直ぐ様刃を返し、強靭な膂力にものを言わせて渾身の一振りの勢いを殺した。

 迫る二撃目を自ら転ぶ事で回避し、身を転がして距離を取る。

 大柄な男は追撃しようとするが、阻止するように彼等の一人が魔法を放つ。

 放たれた魔法を、大柄な男は大剣の一振りで散らして見せた。


 気配無く背後を取った者が、黒塗りの短剣を突き立てようと声も無く両手を振り上げた。

 人体に刃が突き立つ音が鳴り、彼等の仲間は仰向けに倒れる。

 大柄な男が後ろも見ずにナイフを逆手で突き刺していたのだ。


「ようやく二人目か」


 死を確定させる為に、仰向けに倒れた仲間の首を切断しながら冷たく吐き捨てた。


 ここでようやく、彼等はじり貧である事を理解した。

 固執すれば、一人一人確実に殺され、規則を守れなくなる。


 彼等は頷き合い、大柄な男に背を向けて逃走を始めた。

 顔は覚えた。

 ならば身元を調べ、隙を窺って殺せばいい。

 大柄な男の運命は変わらない。


「……結局なんだったんだ?」


 彼等の居なくなったそこで、大柄な男は訳が分からず頭を掻いている。


 彼の同行人は、夜の番などしなくていいと言っていたが、長年の習慣は易々と納得してくれない。

 大柄な男はベテラン冒険者だ。

 安全と言われても、安眠など出来なかった。


「あいつ等、何も無いところに魔法なんか撃って、何がしたかったんだ?」


 大柄な男は焦土と化したそこを見る。

 勿論、馬車の残骸など何処にもない。

 彼は首を傾げながら、もう一刻程夜の番をしてから眠りに就いた。

 友人。

「テンプレチンピラ冒険者が強いとか、おかしいと思います」

 作者。

「おかしくないおかしくない。だってこの世界観、テンプレ転生者だとそこらの雑魚魔物に苦戦するレベルだもの」

 友人。

「それもそれでおかしい」

 作者。

「えぇー。じゃあさ、そこらの野犬達とバトってみなさいよ。如何になろう世界のウルフと名の付く魔物達が弱すぎるかが分かるから」

 友人。

「何故そう無意味にリアル基準なのか。ところで、これ主人公がやったらどうなってたの?」

 作者。

「有無を言わさず全員氷漬けでお終い」

 友人。

「マジか」

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